あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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第2章 そのヒロインと悪役令嬢、本当に信じてるんですか?

第25話 その二年目、本当に大丈夫ですか?①

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「それではイーリヤ様、アイリス様、本日はお越しくださり誠にありがとうございました」

 ウェルシェの慇懃な挨拶にイーリヤは手をヒラヒラ振って、またねと言って去って行く。アイリスはフンッとそっぽを向いて帰っていった。かなり立腹しているのか、肩を怒らせドシンドシンと足音がしそうなほど大股で歩いている。

 そんな二人を見送るウェルシェはニコニコ笑顔を絶やさない。

 次第に遠のいていく二人の影。

 その影が小さくなるにつれて、逆にウェルシェの表情に影が濃くなっていく。そして、二人の姿が消えると、ウェルシェのこめかみの血管が現れ、怒マークまで浮き出た。

「ざけんじゃないわよ!」
「どうどう」

 うがーっと切れ散らかすウェルシェを宥めようと、カミラは鎮静効果のあるお茶を淹れて差し出した。

「これでも飲んで落ち着いてください」
「ありがとう」

 ウェルシェはソーサーを受け取り、お茶を一口含む。ふわりと鎮静効果のある薔薇の香りが口腔内に広がり、ウェルシェは普段の落ち着きを取り戻――

「せるかぁ!!!」

 ウガーッとソーサーとカップを放り投げた。

「紅茶に罪はありませんよ」

 カミラは宙を舞うソーサーとカップを器用にキャッチして片付けていく。

「なんなのあのアイリスって子は!?」
「まあ、私もお嬢様への非礼にあの娘を殺したくはなりましたが」
「非礼とか無礼とかはどぉでもいいのよ!」
「それは侯爵令嬢としてどうでも良くはないでしょう?」
「名誉だとか矜持だとか、そんな下らないもの犬も食わないわ」

 貴族としてどうかと思うがカミラは表情を変えずにしれっと流した。

「問題なのはオーウェン殿下の継承権よ」
「あの娘を引き剥がせないのでは絶望的でしょう」

 このままじゃオーウェン殿下だけではなく自分だって破滅するかもしれないのに
 ウェルシェにはアイリスが理解不能だった。ウェルシェの出した条件は末端の男爵令嬢には破格のものばかり。このままオーウェンという泥舟に乗ってるより遥かに未来が約束されている。

「何なのよヒロイン補正って! ザマァが運命ってどういう事?」
「やけに自信がありましたね」

 カミラは口元に手を当てながらお茶会でのアイリスの様子を思い浮かべた。

「何か策でもあるのでしょうか?」
「不可能に決まってるじゃない!」
「まあ、どう考えても今のままではオーウェン殿下が廃嫡を回避できるとは思えませんね」
「それに、たとえオーウェン殿下が廃嫡を免れても、アイリス様は王太子妃にはなれないわ」

 男爵令嬢のアイリスが王太子妃に、ゆくゆくは王妃になるなど天地がひっくり返ってもありえない。

「イーリヤもイーリヤよ」
「どうにもイーリヤ様もヒロイン補正やザマァの運命なるものを信じている節がございましたね」
「きっと、なし崩し的にオーウェン殿下との婚約を解消するか、なんならザマァされて貴族から抜けるつもりなんだわ」
「お嬢様じゃあるまいし」
「いいえ、イーリヤからは私と同じ臭いがするわ!」

 それはどんな臭いだ?

「さっさと義務から解放されて悠々自適な生活を送るつもりなのよ」
「イーリヤ様は商会があるので将来安泰ですものねぇ」
「ぐぬぬぬ……まずいわ」

 オーウェン廃嫡回避にイーリヤの助力が得られないのはウェルシェとしてはかなりきつい。
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