あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

文字の大きさ
234 / 317
第5章 そのお祭り、またまた開催ですか?

第53話 その努力、本当は何のためですか?②

しおりを挟む
「努力の方向性、でございますか?」

 首を傾げるスレインにエーリックは頷いた。

「うん、クライン先輩は何の為に頑張ってきたんだろうね?」
「そりゃあ、キーノン伯爵は代々騎士の家系なんですから、騎士になる事なんじゃねぇんですかい?」
「だったらさ、優勝できなくても良いじゃないか」
「まあ、優勝するに越した事はねぇですが、しなくても問題はありませんな」

 優勝が絶対条件ならほとんどの者が騎士の道を断念しなくてはならない。

「むしろ、今の振る舞いこそ騎士の道から外れるものですな」
「うん、そうだね」

 未だに闘技台のうえでごねるクラインに向けるエーリックの目はどこか悲し気だった。

「クライン先輩は真っ向勝負するのが騎士道だと勘違いして、ただ愚直に剣を振っていたんじゃないかな。でもそれは自己の美学に陶酔し、己の為に剣を振っているのと同じ事だよ。騎士の剣は国を守る為にあるものだと先輩は忘れてしまっている」
「なるほど、だから努力の方向性が間違っていると」
「自分の目標を見失うのは明後日の方向に走るのと同じってことですな」

 そうだね、と頷くエーリックの大人びた横顔を見てセルランは主人の成長が嬉しくなった。そして、よせばいいのに余計な事を聞いてしまう。

「殿下は何の為に剣を取ったんです?」
「僕が剣魔祭に出場するのはおかしいかい?」
「まあ、必要はねぇでしょ?」

 オーウェン達と違いエーリックは剣武魔闘祭で好成績を必要としていないはずなのだ。

「それなのに本戦に出場する程の努力は何のためかと思いやしてね」
「決まっているじゃないか」

 何を言っているんだ、そんなの分かり切っているだろうとエーリックは笑う。

「僕の目的はいつだってウェルシェだよ」
「姫さんの?」
「そう! 来年こそはウェルシェと一緒のクラスになるんだ!」

 ちょっと待て!とセルランは心の中でいつものように突っ込む。それだけの為に他の選手の努力を踏みにじってきたのか!?

「だって、ここで良い成績を残せば今度こそ特区クラに入れるでしょ?」
「そりゃそうかもしれやせんが」
「今年は修学旅行じゃ別クラスだったせいでウェルシェとはほとんど別行動だったんだよ!」

 ウェル成分しぇいぶん不足なんだよと叫ぶエーリックに、何とも言えないずスレインとセルランはチベスナ顔だ。

 ウェルシェが全てと、どこまでも行動原理がブレないエーリックには感心するやら呆れるやら。

「それにさ、ウェルシェの水着……すっごいエロかったんだよ!」

 クラスが一緒だったらもっと鑑賞できたのに!
 後悔しない為にも僕はもっともっと頑張るよ!

 腹心が呆れているのにも気づかず拳を振って力説するエーリック。クラスが別のせいで今まで数々のラッキースケベイベントを逃していたやもしれないと悔しがる。

 去年、剣武魔闘祭で予選敗退した時以上の悔しがりようだ。

「こんな姿を姫さんに見られでもしたら、百年の恋も冷めるってもんだぜ」
「これはトップシークレットですぞ」
「わーってるよ」

 あの腹黒令嬢が恋をするという奇跡をセルランとスレインは目撃している。これではせっかくの奇跡がおじゃんになりかねない。二人は顔を見合わせて頷いた。

 ここは憎めない主人の為にも、この秘密は墓場まで持っていくと誓った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

処理中です...