あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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第8章 その大会、本当にクライマックスですか?

第87話 その王子達、本当にファンクラブがあるんですか?①

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 ――剣武魔闘祭三日目剣闘の部決勝。

 大会全競技の最終に組まれた注目人気競技の決勝だけあって、一万を超える収容人口を誇る闘技場も満員御礼。

 観客席から二万以上の瞳が中央の闘技台の上で対峙する二人の王子を見つめている。

 一人は金髪碧眼の美少年。

 少し癖のある髪、優しげな光を宿した瞳、まるで天使のような容貌、帯剣しているが本当に戦えるのかと思えるほど温和な印象を与える。

 言わずと知れたエーリック・マルトニア、この国の第二王子である。

「きゃぁぁぁあ! エーリック殿下ぁ、こっち向いてぇ」
「いやぁんカワいいィ~!」
「あんな真剣な顔しちゃってぇ」
「凛々し可愛いィわぁ」

 観客席から色香漂う麗しい(一部野太い)声援が上がった。

 お色気ムンムンの妖艶なお姉様(一部お筋肉ムキムキの頼もしいお兄様含む)方により結成されたエーリックファンクラブの面々である。

 昨年、エーリックは剣武魔闘祭でウェルシェvs.マリステラの氷柱融解盤戯アイシクルメルティングで起きたトラブルを見事な裁定で仕切った経緯がある。さらには婚約者を襲う凶刃から身を挺して守った。その活躍にエーリックは可愛いのに凛々しいと人気急上昇。今や上級生の子女からもてはやされ、癒しキャラの地位を不動のものとしていた。

「きゃあァァァ!」

 闘技台の上に立つもう一方の王子にも黄色い歓声が上がった。

 黒い髪、黒い瞳、浅黒い肌という異国の風貌。しなやかな肢体はどこか野生の肉食動物を思わせるエキゾチックな美男子。エーリックよりも背が高く、細身ながら精悍な印象を周囲に与える。独特な曲刀を帯剣する出立ちは実に頼もしい。

「トレヴィル様ぁん!」
「引っ込めクソ王子ィィィ!」
「素敵ィッ!」
「死んじまえぇ!」
「抱いてぇ!」

 だからだろうか、対してこちらの声援はキャピキャピした一年、二年の女子生徒(全員可愛い)が多い。恋人や婚約者がファンクラブに加入している男達の悲しき罵声も混じっていたが。

 そんな悲喜交々ひきこもごもの観客席に向かって、隣国トリナ王国の美形の王子はにこやかに手を振りながら闘技台中央へと足を進める。

「まったく呆れた男共だ。男の嫉妬は見苦しいものだね」

 中央線まで来るとトレヴィルは笑顔のまま、しかし辛辣な毒を吐いた。

「そんなみっともない事しかできないから恋人に愛想を尽かされるんだ」

 トレヴィルは中央線の前に立つと、そうは思わないかいと同意をエーリックに求めてきた。

「あなたは本気で人を愛した事がないんですか?」

 しかし、トレヴィルの予想に反してエーリックは否定的な言葉を返した。

「確かに彼らのやり方に問題はあるかもしれません。だけど、愛する人を他人に奪われるのは苦しいものです」
「だから恋敵に罵倒なんて醜悪な行為に及ぶと?」
「確かに褒められた振る舞いではありませんが、元はと言えばあなたが彼らの恋人達をたぶらかしたのが発端でしょう」
「そんなマジになるなよ。ただのお遊びじゃないか」

 クツクツと笑うトレヴィルの不真面目な態度に、エーリックはなんとも言えぬ胸のざわつきを覚えた。
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