あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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第8章 その大会、本当にクライマックスですか?

第92話 その勝負、いよいよ決着ですか?①

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「両者、開始線まで戻って……それでは始めッ!」

 主審が挙げた手を振り下ろす。
 その瞬間、二人が飛び出した。

 ――カンッ! キンッ! ガキンッ!

 エーリックの直剣とトレヴィルの曲刀が激しくぶつかり合い火花を散らす。

 曲刀の重さを利用した撃ち下ろしのトレヴィルの剣技に対し、直剣を相手の剣に合わせて流していくエーリックの剣技はとても対照的であった。

 一見すれば力任せのようなトレヴィルの剣を上手く受けている方に分があるように思える。だが、実際にはエーリックにそこまで余裕は無かった。

「ほらほら、どうした。受けてばかりじゃ勝負にならんぞ」

 トレヴィルが繰り出す曲刀を流すだけでエーリックは精いっぱいだったのだ。

 ブンブン振り回しているようにしか見えないトレヴィルの剣技だが、決して粗雑でも稚拙でもない。振り下ろされた曲刀をエーリックが横へと逸らすと、その遠心力をそのままにトレヴィルは背を見せクルリと一回転して次なる斬撃を正確に撃ち込んでくるのだ。

(強い……それに巧い)

 その精密な技量にエーリックは舌を巻いた。

 単純で簡単な回転斬りのようだが、それはかなり難度が高く高度な技である。一度背を見せ視界からエーリックを外しているのだ。しかしながら次の斬り込みに繋げるまでが速く、隙も少ない。それでいて繰り出される斬撃はエーリックをきちんと捉えている。

 撃ち下ろす剣は力強いが粗野ではなく、弧を描く剣閃は流麗で美しい。

(だけど、この剣には……)

 エーリックはトレヴィルの剣を一振り一振り受ける度に疑念が沸いた。

(才能はあると思う。でもそれ以上に斬撃の重みに、ぶれない剣筋に努力の跡がある)

 それは決して才能だけではない、努力を積み重ねた剣だとエーリックには思えた。

(やっぱりこの人……)

 努力する行為を馬鹿にし蔑みながら、その実トレヴィル自身がもがき足掻いてきたのだ――剣を受けるエーリックにはそれが分かる。

 だから、エーリックは最初に対峙した時のような悪感情をトレヴィルに向けられなくなっていた。

「ちっ、しぶとい」
「僕にだって負けられない事情があるんです」

 だからと言って負けてやるつもりはサラサラないが。

「好きな女の子と一緒のクラスになりたい程度のみみっちい事情で、子供か君は!」
「なに言ってんの、あいつもこいつもあなたもウェルシェを狙っているんだろ。みんなライバルなんだよ。僕は命がけなんだよ」

 学園生活の二年間を失ってしまった。次の三年がウェルシェと同じクラスになれるラストチャンスである。

 一生分の運をここで使い果たしても良いとさえエーリックは願った。

 運命の女神よ微笑んでくれ一度だけでも!
 もしダメならこの僕はもうグレちゃうよ!

 ――キンッ!

 二人の剣が交差する。

「ふざけているのかい?」
「僕はいたって真剣だよ」

 剣身越しに言葉を交わす二人。

「その程度の事にマジになるなよ」
「好きになるっていうのは人をバカにも愚かにもするもんなんだよ」

 だが、その考えは決して混じり合う事はないようだった。
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