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第8章 その大会、本当にクライマックスですか?
第95話 その腹黒、本当に気落ちしてるんですか?②
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勝ったはずのトレヴィルが何故か悔しげで、負けたはずのエーリックの方が晴れ晴れと笑顔で愛する婚約者に手を振っている。
これではどちらが勝者か分からない。
「ウェルシェ!」
「エーリック様!」
ウェルシェが可愛く小走りに闘技台へと上がってくる。
「ごめん、負けちゃった。ウェルシェには情け無い姿ばかり見せてしまうね」
「いいえ」
ウェルシェは首を横に振って優しく微笑んだ。そして、彼女はいつだってエーリックの欲しい言葉をくれる。
今だってウェルシェは……
「試合の結果は残……」
「リッ君、試合残念だったねッ!」
エーリックに言葉を投げかけようとして、横から薄桃色の頭が割り込んできた。
「でも、勝てなくてもリッ君は凄かったわ!」
言わずと知れたマルトニア学園の迷惑娘、『スリズィエの聖女』ことアイリス・カオロ男爵令嬢である。
「それに、痛みに耐えてよく頑張った。感動した!」
「あ、あなたは何を言って……」
アイリスが一方的に捲し立て、エーリックは戸惑う。しかし、アイリスの無礼よりもウェルシェは別の事が気になった。
「エーリック様、痛みというのは?」
「ふふん、何? 気がつかなかったの?」
アイリスは勝ち誇って胸をそらした。
「試合中リッ君が足を庇っていたでしょ。きっと前の試合で足を挫いていたのね」
「あっ、あの時!?」
オーウェンとの準決勝、エーリックは最後にバランスを崩してよろめいた。その時に足を痛めていたのだ。
「ほらほら、足を出して」
「ちょっと、カオロ嬢!?」
「私が聖女って言われる所以を教えてあげる」
アイリスは有無を言わさずエーリックのズボンの裾を捲って魔術による治療を始めた。露出したエーリックの足首がかなり腫れ上がっており、ウェルシェの素人目にもかなり悪化しているのが分かる。
「うわぁ、これは酷いわ」
「わ、私……ぜんぜん気がつかなくって……申し訳ありません」
みるみるウェルシェの顔が青くなる。
「ウェルシェ、気にしない……」
「婚約者のくせに気づかなかったの?」
エーリックの言葉を遮りアイリスが悪意ある非難をウェルシェに浴びせた。
「わ、私は……」
いつものウェルシェならやり返していただろう。
「ぼ、僕はホントに大丈夫……」
だが、エーリックの晴れ上がった足を見て、それに気づいてあげられなくて、アイリスの治療を眺めるしかできなくて……それが申し訳なくて、情け無くて、ウェルシェは泣きそうな顔になった。
「何もできないならあっち行って。治療の邪魔よ」
ウェルシェは治癒術が使えないし、この場にいてもどうする事もできない。それに、喚きながらも仲が良さそうに見えるエーリックとアイリスを見ていると胸がつきりと痛む。
無力な自分にショックを受け、ウェルシェは肩を落としてトボトボと闘技台を離れた。
(私……何も役に立てないし……もうこのまま帰ろうかな?)
気弱な思考にウェルシェは囚われ、知らず知らずのうちに心に隙が生じていた。
いつになく無防備になってしまったウェルシェ……
「えっ?」
だから自分に不穏な影が急接近しているのに気がつくのが遅れてしまったのだった。
これではどちらが勝者か分からない。
「ウェルシェ!」
「エーリック様!」
ウェルシェが可愛く小走りに闘技台へと上がってくる。
「ごめん、負けちゃった。ウェルシェには情け無い姿ばかり見せてしまうね」
「いいえ」
ウェルシェは首を横に振って優しく微笑んだ。そして、彼女はいつだってエーリックの欲しい言葉をくれる。
今だってウェルシェは……
「試合の結果は残……」
「リッ君、試合残念だったねッ!」
エーリックに言葉を投げかけようとして、横から薄桃色の頭が割り込んできた。
「でも、勝てなくてもリッ君は凄かったわ!」
言わずと知れたマルトニア学園の迷惑娘、『スリズィエの聖女』ことアイリス・カオロ男爵令嬢である。
「それに、痛みに耐えてよく頑張った。感動した!」
「あ、あなたは何を言って……」
アイリスが一方的に捲し立て、エーリックは戸惑う。しかし、アイリスの無礼よりもウェルシェは別の事が気になった。
「エーリック様、痛みというのは?」
「ふふん、何? 気がつかなかったの?」
アイリスは勝ち誇って胸をそらした。
「試合中リッ君が足を庇っていたでしょ。きっと前の試合で足を挫いていたのね」
「あっ、あの時!?」
オーウェンとの準決勝、エーリックは最後にバランスを崩してよろめいた。その時に足を痛めていたのだ。
「ほらほら、足を出して」
「ちょっと、カオロ嬢!?」
「私が聖女って言われる所以を教えてあげる」
アイリスは有無を言わさずエーリックのズボンの裾を捲って魔術による治療を始めた。露出したエーリックの足首がかなり腫れ上がっており、ウェルシェの素人目にもかなり悪化しているのが分かる。
「うわぁ、これは酷いわ」
「わ、私……ぜんぜん気がつかなくって……申し訳ありません」
みるみるウェルシェの顔が青くなる。
「ウェルシェ、気にしない……」
「婚約者のくせに気づかなかったの?」
エーリックの言葉を遮りアイリスが悪意ある非難をウェルシェに浴びせた。
「わ、私は……」
いつものウェルシェならやり返していただろう。
「ぼ、僕はホントに大丈夫……」
だが、エーリックの晴れ上がった足を見て、それに気づいてあげられなくて、アイリスの治療を眺めるしかできなくて……それが申し訳なくて、情け無くて、ウェルシェは泣きそうな顔になった。
「何もできないならあっち行って。治療の邪魔よ」
ウェルシェは治癒術が使えないし、この場にいてもどうする事もできない。それに、喚きながらも仲が良さそうに見えるエーリックとアイリスを見ていると胸がつきりと痛む。
無力な自分にショックを受け、ウェルシェは肩を落としてトボトボと闘技台を離れた。
(私……何も役に立てないし……もうこのまま帰ろうかな?)
気弱な思考にウェルシェは囚われ、知らず知らずのうちに心に隙が生じていた。
いつになく無防備になってしまったウェルシェ……
「えっ?」
だから自分に不穏な影が急接近しているのに気がつくのが遅れてしまったのだった。
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