あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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間章 水面下で動く者たち

閑話トレヴィル⑤ 虎よりも竜よりも恐ろしきもの②

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「まあ、トリナの王妃やあなたがどんな愚者であっても私には関係ありませんが」
「重要なのはお嬢様だけってか?」
「ええそうですよ」

 それまで無表情だったカミラがにこりと笑った。それがあまりに美しく見惚れたが、同時にトレヴィルにはそれが何よりも怪しくて背筋が凍った。

「あなたが個人的にお嬢様にちょっかいをかけていたのだと分かれば聞く事はもうありません」
「えっ?」

 パチンッとカミラが指を鳴らすと、トレヴィルは一瞬呆けてから自分が侍女に全てを暴露したのに気がついた。

「ど、どうして俺はこんな事まで喋って……まさか俺に術を!?」
「いかがですか、逆に自分が術にはめられた気分は?」

 術をかけようとして術をかけられていた。なんという間抜けな話か。

「……俺をどうするつもりだ?」
「どうもしませんよ」

 トレヴィルは気取られぬよう、ジリジリとカミラとの間合いを詰め始めた。それに気が付かないのか、カミラはいつもの両手を前で揃えるポーズから微動だにしない。

「ただ、今後もお嬢様を悲しませるような真似をするなら……王族だろうと何だろうと私が殺します」
「はっ、侍女風情が俺を脅すか?」

 女性を口説く甘いマスクが剥がれ、口の端を吊り上げたトレヴィルの人相が悪人のそれになる。

「君のような美人を喪うのは甚だ遺憾だが」

 トレヴィルはすらりと剣を抜く。刀身が魔力灯の光を反射してキラリと光った。

「俺の目的を聞かれた以上、ここで始末する」

 トレヴィルは自分の能力に絶対の自信があった。それもそのはず、彼は剣武魔闘祭で優勝する腕の持ち主。

 剣を見ても無表情で怯えた表情を微塵も見せないカミラに不気味なものは感じる。自分を術にはめた腕も見事だ。

「ここに一人で来たのは間違いだったな」

 周囲には他に気配は無い。カミラは帯剣しておらず丸腰。トレヴィルに負ける要素は無かった。

「必要ありませんから」
「俺が何もしないとでも思ったか?」
「逆ですよ」
「は?」

 カミラがスカートの裾をたくし上げた。まず、黒いヒールブーツが全容を現し、次にこれまた黒い靴下、そして続いて白い膝頭とガーダーベルト……

 次々に披露される美しい侍女の魅惑の領域に、トレヴィルは色仕掛けかとも思った。実際、トレヴィルはカミラの色香に思わず見入ってしまい、ごくりと唾を飲み込んだ。
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