あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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間章 水面下で動く者たち

閑話トレヴィル⑥ 虎よりも竜よりも恐ろしきもの③

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 だが、更に捲り上げたスカートの中から太ももに巻かれた短剣に、トレヴィルはサッと曲刀を構えた。

「そんなオモチャで俺と戦おうと言うのか?」
「戦う?」

 カミラの口の端が吊り上がる。

「違います……蹂躙です」
「なっ、消え……たッ!?」

 刹那、カミラの姿がトレヴィルの視界から消えた。と思った瞬間、トレヴィルの手に痛みが走り、曲刀が飛ばされた。

「今回は未遂でしたので命まで取るつもりはありません」
「あっ、うっ……」

 そして、いつの間にか背後に回られ、短剣の刃を喉元に突きつけられていた。

「あなたの目的をバラすつもりもありませんし、王家に密告する気もありません」

 これからも好きに動いてください、とカミラは興味無さそうにトレヴィルの耳元で淡々と囁く。

「ただ一つだけ許されない行為があります」
「ウェルシェに……近づくな……と?」
「ええ、私にとってお嬢様以外はどうでもいいんです」

 だからウェルシェに無体を働こうとすれば殺す、と短剣の殺気が語っている。

「いいですね、今後お嬢様に術をかけたら殺します。抱きしめたら撲殺します。キスをしようとしたら切り刻んで殺します」
「わ、分かった……もう手は出さない……」

 トレヴィルはカミラの要求にコクコクと頷いた。カミラが自分の手に負えない相手だと痛感したのである。

「お嬢様に触れたら殺します。お嬢様に言葉をかけても殺します。お嬢様の前で息をしても殺します」
「む、無茶を言うな、ウェルシェと俺は同じクラスだぞ」
「これは冗談です」

 トレヴィルは全く笑えず、顔が引き攣った。無表情に淡々と告げられて、とても冗談に聞こえない。

 もう用は無いとカミラはスッと離れると、短剣が喉元から離れてトレヴィルはホッとした。本当に殺されそうで生きた心地がしなかった。いや、今だっていつ殺されるか分かったもんじゃない。

「それでは私はこれで」

 もう用は無いとばかりにカミラは最初の時と同様に綺麗な一礼を披露する。確かに美しいが、トレヴィルには目の前の侍女が何ものよりも恐ろしい化け物に見えた。

「お、お前は……いったい何者なんだ?」

 たかだか侯爵家の侍女がこれほど圧倒的な武力を有しているのか?

 カミラという存在がとても恐ろしくトレヴィルは身体がすくんだ。

「あら、最初に申し上げたではありませんか」

 だが、先程までの殺気が嘘のようにカミラはにこりと笑って答えた。

「私はただのウェルシェお嬢様の忠実なる下僕げぼくでございます」
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