あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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間章 水面下で動く者たち

閑話ネーヴェの雪③ そして歴史は繰り返される①

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 暗い石室を昼間の如く照らし出した光が徐々に弱まっていく。やがて、光の柱が小さくなって完全に収まると、中の人影がその全容が明らかになる。

 その影は女だった。
 その女は白かった。

 その髪もその肌も、まるで降り積もったばかりの新雪のように真っ白。前合わせの異国の衣服も白で統一されて、左胸を飾る薔薇もまた白。

 白で彼女はまるで白雪の如く溶けて消えそうなほど、とても儚げで美しかった。

 美人教師と言われているアキである。それなりに自分の容姿に自信はある(少しばかりとうが立っているが)。

 だが、彼女の前では全てが霞む。

 この場の誰もが幻想的な光景に息を飲み、ただただ呆然と魅入ってしまった。

(これはイーリヤ・ニルゲ嬢やウェルシェ・グロラッハ嬢に匹敵するな)

 一人アキだけは教壇であの二人と邂逅していた経験のお陰か、何とかかろうじて思考だけは回った。

(あの二人もまるで造り物のように現実離れしていたが……)

 だが、どんなに芸術的な美貌でも二人には生気があった。何よりも若く躍動的な生命力が身体の内から溢れていた。

(この女性はまるで生きている感じがしない)

 全てが白というのもあるが、身体全体から冷気を発しているようだ。目も空虚で光を失いまるで抜け殻ではないか。

 微動だにしない美女――これでは造り物ではなく、造形物そのものである。

「何だ……彫刻――ッか!?」

 その時、突然その精気を感じさせない瞳がギョロリと動きアキ達を捉えた。

「う、動いた!?」
「い、生きてますよ、コレ!」
「オーロジー先生! 彼女はまさか!?」
「雪薔薇の……女王か?」

 アキ以下、助手AからCまで目を剥いた。

「外見から見て間違いない……雪薔薇の女王ネーヴェだ」

 助手達はごくりと唾を飲み込む。

「生きていたのか……」

 騒然とするアキ達を一瞥したネーヴェはすぐに興味を失ったのか、次に地べたで唖然と見上げているRCブラザーズに視線を移し、それからもまた視線を外して周囲をくるりと見回す。

「ここは……どこじゃ?」

 ネーヴェの口から漏れ出た声は天上の調べ。

 ――ゆらり……

「風?……」

 壁に掲げられた松明の火が揺れる。RCブラザーズが掘った坑道から生暖かい風が流れてきたようだ。

「暖かい……」

 夏の暑い空気がネーヴェの頬に触れる。極寒の牢獄に閉じ込められていた彼女の冷え切った身体に熱い風が心地良い。

「ここは外の世界かの?」

 ネーヴェは精巧な芸術品のような右手を持ち上げ、握っては広げてを繰り返す。自分の存在を確かめるように。

「そうか……妾はあの世界牢獄から解放されたんじゃな」
「す、凄いぞ!」

 アキが興奮して叫んだ。

「発掘家シェリーメンさえ凌ぐ世紀の大発見だ!」

 凄い、凄い、伝説都市ネコマタギやミケネコ遺跡の発見だって霞むぞとアキは大はしゃぎ。

「落ち着いてくださいオーロジー先生」
「これが落ち着いていられるか助手アーよ」
「彼女は雪薔薇の女王かもしれないんですよ」
「そうだぞ彼女は遥か昔の真実を知る生き証人だ助手ベーよ」
「だったら彼女を刺激しないでください!」

 もし、アキの学説が正しければ目の前の女性は一人で国を氷漬けにした化け物である。下手な事をして怒りを買えばマルトニアがロゼンヴァイスの二の舞だ。
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