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離さない
離さない②
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「うん。バッグ……見た」
「中は?」
珠月は首を横に振る。
「そうか。中身はクローゼットに入ってるよ。今日はお風呂は止めておいた方がいい。シャワーは浴びても大丈夫。あっちの扉がバスルーム」
あっち、と指を差されたところには扉があった。
「分かりました」
「ん。何かあったら、何でも言って」
話をしながら、圭一郎は土鍋のおじやを器に移し替えてくれる。
木のスプーンで掬って、ふーふー、と息を吹き掛けていた。
「ほら」
そう言って圭一郎はごく自然にスプーンを差し出す。
食べろ、ということなのだと気付いて、珠月は慌ててしまった。
「え⁉︎ 食べれますっ……」
「食べさせたいんだ。こんな時くらいしか、させてくれないだろう。ちゃんとふーふーしたから」
そう言って、圭一郎は珠月の口元にスプーンを持ってくる。
恥ずかしすぎる……。
口元にスプーンを持ってこられて冷ましてくれていると分かっているのに反射でふー、と珠月は吹いてしまった。
「あれ? まだ、熱いか?」
圭一郎が軽く唇で、温度を確かめている。
「大丈夫、熱くないよ?」
そう言って改めてスプーンを口元に持ってきてくれた。
「なんか、反射で」
「珠月はねこさんだからな。まあ、そんなところも可愛いんだけど」
ほらと口元に当てられて、珠月は口を開ける。
圭一郎は珠月が猫舌ということまで把握していた。
だから何度も吹いて冷ましてくれたのだ。そして上手に珠月の口の中におじやを入れてくれた。
「美味しい?」
「うん! すごく美味しい」
圭一郎の言う通りならば、珠月は昨日の夜から何も食べていないことになる。
確かにお腹は空いているし、圭一郎の作ってくれたおじやはお腹にとても沁みた。
「美味しい!」
「良かった。もっと食べる?」
最初は食べさせてもらうなんて恥ずかしかったけれど、珠月が食べると圭一郎がとても嬉しそうだし珠月が甘えると優しくしてくれるので、つい甘えて食べきってしまった。
食事が終わると、
「はい」
と錠剤を3つ、手の平に乗せられる。
「お薬?」
「そうだよ。これは痛み止め、こっちは軽い眠剤。少し寝た方がいい」
「でも、さっき、起きたばかりなのに」
「よく寝たらケガも良くなる。それにおそらく寝たからと言って記憶は戻らないだろうけど、それでも今は身体を休めた方がいい」
「ん……分かった。シャワーの後でもいい?」
「一緒に入ろうか?」
「えっ⁉︎ ダメよ!」
咄嗟にそう言ってしまったのだが。
珠月はハッとする。
そうだ。恋人なら当然なのかもしれない。けれど……。
思わず真っ赤になってしまった自分の顔を両手で覆って、ちらっと圭一郎を見る。
圭一郎は苦笑していた。
「分かったよ。では包帯は俺に外させて。あとシャワーしたら、湿布を貼り直すから呼んで。今はまだ足に痛みがあるだろうから珠月はベッドから、このベルで呼んでくれたらいい」
そう言って圭一郎はトレイに置いてあった小さなベルを、ベッドのサイドテーブルに置いた。
それは揺れて、小さくちりん……と音を立てる。
珠月はそれを振ってみた。
ちりん、ちりん、と可愛い音がする。
「中は?」
珠月は首を横に振る。
「そうか。中身はクローゼットに入ってるよ。今日はお風呂は止めておいた方がいい。シャワーは浴びても大丈夫。あっちの扉がバスルーム」
あっち、と指を差されたところには扉があった。
「分かりました」
「ん。何かあったら、何でも言って」
話をしながら、圭一郎は土鍋のおじやを器に移し替えてくれる。
木のスプーンで掬って、ふーふー、と息を吹き掛けていた。
「ほら」
そう言って圭一郎はごく自然にスプーンを差し出す。
食べろ、ということなのだと気付いて、珠月は慌ててしまった。
「え⁉︎ 食べれますっ……」
「食べさせたいんだ。こんな時くらいしか、させてくれないだろう。ちゃんとふーふーしたから」
そう言って、圭一郎は珠月の口元にスプーンを持ってくる。
恥ずかしすぎる……。
口元にスプーンを持ってこられて冷ましてくれていると分かっているのに反射でふー、と珠月は吹いてしまった。
「あれ? まだ、熱いか?」
圭一郎が軽く唇で、温度を確かめている。
「大丈夫、熱くないよ?」
そう言って改めてスプーンを口元に持ってきてくれた。
「なんか、反射で」
「珠月はねこさんだからな。まあ、そんなところも可愛いんだけど」
ほらと口元に当てられて、珠月は口を開ける。
圭一郎は珠月が猫舌ということまで把握していた。
だから何度も吹いて冷ましてくれたのだ。そして上手に珠月の口の中におじやを入れてくれた。
「美味しい?」
「うん! すごく美味しい」
圭一郎の言う通りならば、珠月は昨日の夜から何も食べていないことになる。
確かにお腹は空いているし、圭一郎の作ってくれたおじやはお腹にとても沁みた。
「美味しい!」
「良かった。もっと食べる?」
最初は食べさせてもらうなんて恥ずかしかったけれど、珠月が食べると圭一郎がとても嬉しそうだし珠月が甘えると優しくしてくれるので、つい甘えて食べきってしまった。
食事が終わると、
「はい」
と錠剤を3つ、手の平に乗せられる。
「お薬?」
「そうだよ。これは痛み止め、こっちは軽い眠剤。少し寝た方がいい」
「でも、さっき、起きたばかりなのに」
「よく寝たらケガも良くなる。それにおそらく寝たからと言って記憶は戻らないだろうけど、それでも今は身体を休めた方がいい」
「ん……分かった。シャワーの後でもいい?」
「一緒に入ろうか?」
「えっ⁉︎ ダメよ!」
咄嗟にそう言ってしまったのだが。
珠月はハッとする。
そうだ。恋人なら当然なのかもしれない。けれど……。
思わず真っ赤になってしまった自分の顔を両手で覆って、ちらっと圭一郎を見る。
圭一郎は苦笑していた。
「分かったよ。では包帯は俺に外させて。あとシャワーしたら、湿布を貼り直すから呼んで。今はまだ足に痛みがあるだろうから珠月はベッドから、このベルで呼んでくれたらいい」
そう言って圭一郎はトレイに置いてあった小さなベルを、ベッドのサイドテーブルに置いた。
それは揺れて、小さくちりん……と音を立てる。
珠月はそれを振ってみた。
ちりん、ちりん、と可愛い音がする。
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