メスビッチお兄さん研修センター【ひよこ組】

橘 咲帆

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「嘘……だろう?」

 国により認定される「メスビッチお兄さん認定検査」
 この検査結果を聞き、菊谷甲斐きくたにかいは茫然とした。
「メスビッチお兄さん認定検査」の一次検査は、血液の採取により行われる。血液の検査値がメスビッチお兄さんであることを示した場合、さらに医師により精密な検査が行われる。

「この、エストラジオールの値なんだけど、これが一般男性の平均値よりもはるかに多くて、ちょうど今、甲斐の体内で男性子宮から排卵が行われているということを示している可能性・・・がある」

 菊谷総合病院の性差科の医師であり、甲斐のいとこでもある菊谷上総きくたにかずさの言葉が、甲斐の耳から遠いところで響く。──事の成り行きに甲斐の心はついていけていない。

 そんな甲斐の精神状況などお構いなしに、次は内診をしようと上総が言うので、診察室の隣にある小部屋で甲斐はズボンと下着を脱いだ。カーテンで仕切られた脱衣所から出ると、さらに二枚目のカーテンで内診室は仕切られており、その手前に、ファンシーなピンクとも紫ともとれる色をした診察台があった。看護師に言われるままに薄い紙が敷かれた椅子部分に腰掛ける。脚を載せる台に脚を置くと、自然と脚がM字に開かれた。羞恥で赤らむ頬を感じて、甲斐は心の中で呪文を唱える。

(これは診察。これは診察)

 上総の合図と共に診察台が小さな機械音を立てて回転する。回転と同時に、甲斐の白くて細い脚がさらに心もとないほどおおっぴろげに開かれた。完全に回転を終えると、診察台が倒れ、甲斐は仰向けになった。尻の下にあった椅子部分が倒れて、甲斐の秘められた場所が露わになった。甲斐はごくりと喉を鳴らす。

(これは診察。これは診察)

 再度心の中で呪文を唱えながら、何か気がまぎれるものがないかと見回すが、真っ白な部屋にはモニターくらいしか見るものがなく、ぼんやりとモニターに映されたふわふわと漂うクラゲの映像を見つめた。2枚目のカーテンが甲斐の腹のあたりで揺れている。カーテンに仕切られて、医師や看護師の表情や様子はうかがい知ることが出来ないが、幼いころから一族の集まりで何度も顔を合わせている上総の声がする。

「機械を入れていくから、横のモニターを見ていてくれるかな?」

 甲斐はもう既に見ていると思ったが、黙って言われるがまま、白と黒の砂あらしの映像に切り替わったモニターを見つめる。

(冷たい)

 挿入しやすいようにゼリーが塗られた器具が、意外にもするりと甲斐のそこに入ってくる。女性のそれよりも、男性子宮は構造上身体の奥まったところにある。それはそうだろう。女性の場合、膣口からすぐに膣がある。しかし、男性の場合は、直腸の奥に雄導弁が存在し、その奥にやっと膣があるのだから。

 菊谷総合病院の性差科には、二種類の長さの経膣用プローブが準備されている。上総は長い方のプローブを慣れた手つきで操作して、甲斐の内部をモニターに映し出した。

「ああ。あるな。ここ。見えるかな。ここから、ここまで。この黒い部分が甲斐の雄導弁だ。失礼してこの中も確認するよ」

 おめでとう。君は世界的にも珍しいメスビッチお兄さんという存在なんだよ。と、上総に祝いの言葉を言われたが、これから自分が置かれるであろう立場をおもんばかり、甲斐は身震いをする。
 上総は世間話のように軽い口調で続ける。男性子宮から生理もあったはずだけれど、気が付かなかったかと。しかし、甲斐はそれどころではない。この自分がメスビッチお兄さんであるという最後通牒さいごつうちょうを突き付けれたのだ。余りにもショックだ。
 雄導弁を拡げて、プローブが甲斐の膣内に入る。甲斐は初めての事ばかりに目を白黒させる。

「きれいなもんだね。見たところ病変個所はなさそうだな。せっかくだからついでに組織を採取して生検をしよう。これはがん・・がないことを確認するためのものだよ。ちょっと痛いかもしれない」
「ひぅ……ンっ」

 上総の言葉の通り、きゅうと絞られるような、なんとも言えない痛みが甲斐の腹の中に走った。──ちょっとじゃないぞ。これは相当というか、身体の中をちくりと噛まれたような気持ちが悪い痛みだ。甲斐は抑えきれず小さな悲鳴をあげた。

(何故? 俺が……メスビッチ? そもそも、メスビッチと認定されていたのは千里せんりだっただろう?)

 ──千里とは、甲斐の幼なじみであり、甲斐の許嫁いいなずけである、天使千里あまつかせんりのことである。今日、甲斐が菊谷総合病院でメスビッチお兄さんの検査を受けるということになったため、付き添いとして待合室に待機している男のことだった。
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