メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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宇宙海賊ランツベルク一味

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「何をしている!? 早くトドメを刺せッ!」

 ルドルフは軍人らしく高潔な態度で情けは無用だとばかりに修也へ訴え掛けていた。

 修也は英語が分からぬ。そのためせっかくの立派な態度を見ても首を傾げるしかなく、無言で胸部に銃口を突き付けるのみだった。

 ただ、言葉が分からないなりにも覚悟を決めたことだけは理解したのだろう。
 殺す前に両目を閉じているのは修也なりのせめてもの償いであった。ただ、ルドルフとしては十字を切ってほしいものだ。

 人生最後の瞬間にくだらないことを考えたものだ。思わず苦笑していた。

「ウォォォォォォ」

 と、大声を上げた部下の一人がビームライフルを乱射しながら修也の元へと近付いてきた。
 その光景を見た修也は咄嗟にルドルフの元からビームソードを奪ってから逃亡した。

 どうやら逃げる前に武器を回収したかったのかもしれない。

 抜け目がない親父だとルドルフが苦笑していると、横たわっていたルドルフの前に部下が電子鞭を手渡した。わざわざ貨物室から拾い上げてきたらしい。

「これが船長の一番得意な武器ですよ。これであのクソッタレを絞め殺してください」

 男はフェイスヘルメットの下で口元を「へ」の字に歪めながら言った。

「分かった」

 ルドルフは電子鞭を受け取ると、痛む体に鞭を打って起き上がっていった。
 どうやら修也とはここで、それも自身の得意な得物を使って決着を付けなくてはならないらしい。

 ルドルフは腹を括り、電子鞭を修也の元へと飛ばしていった。目の前から放たれた鞭を修也は奪い取ったビームソードで弾き飛ばしていった。

 そして両手でビームソードを構えながらルドルフを迎え撃とうとしていた。

 ルドルフは改めて修也から剣道の素質があることを見てとった。剣の握り方といい足のさばき方といい経験者のものである。

 ドイツの士官学校で剣道のことも学んでいたからこそ理解できた。

 目の前にいる親父はやはりただものではない。そう警戒しつつもルドルフは電子鞭を放っていった。
 修也はビームソードを使って電子鞭を叩き落としていった。
 それから反撃に転じ、ビームソードを使ってルドルフに向かって突撃していった。

 持ってましたとばかりにルドルフは電子鞭をビームソードを握っている手に向かって放っていった。

 修也は飛んできた電子鞭がどのように使われるのかを察したらしい。慌てて鞭が当たらないように背後へと距離を取っていった。

 その光景を見たルドルフは「チッ」と舌を打ち、今度は修也の手から武器を引き離すべく、ビームソードの剣身に向かって電子鞭を放っていった。

 今度こそルドルフの目論見は成功し、修也の持つビームソードの剣身は電子鞭によって絡め取られてしまうことになった。

 修也はビームソードを引っ張って絡み付いた電子鞭を振り払おうとしたものの、ルドルフは自身の力を込めて修也の手から必死にビームソードを引き離そうとしていた。

 この時、ルドルフは戦国時代に忍者が鎖鎌を使って侍から刀を奪い取ろうしていたという話を思い出していた。
 ドイツ人である自分が忍者の真似事をして日本人である修也から武器を奪い取ろうとする構図がどこか面白かったのだ。

 そんなことを考えるくらい、長い時間を掛けてフェイスヘルメットの下で歯を軋ませて睨み合いを行なっていた時のことだ。

 ジョウジが部下の数が減り、手を空いたことを理由にルドルフの足元に向かってビームライフルを構えていった。

 部下たちは船長の危機を防ごうとしたが、それよりも前に熱線を放射されてしまったので防ぎようがなかった。

 そのためルドルフは攻撃を回避するため電子鞭を修也から離さなくてはならず、飛び上がって避難する羽目になってしまった。

 その隙を逃すことなく修也は同じように飛び上がり、ルドルフの胸部に向かってビームソードを突き刺していった。
 不意を突かれる形でビームソードを正面から喰らったためルドルフは避けようがなかった。

 悲鳴を上げながらルドルフは甲板の上へと落ちていった。
 すっかりと穴の空いてしまった胸部からは灰色の煙と火花が立ち上り、不穏な音を立てていた。
 部下たちは船長が倒されたことで士気を失ったのか、慌ててその場から立ち去っていった。

 それでもまだ喋る余裕はあったらしい。
 大きな声で負け惜しみの言葉を吐き捨てていった。

「ヘヘッ、よくやったな。これでオレもユー将軍の後を追って地獄に行けるぜ。あの世であいつに会って抗議の言葉を口にしてやるんだ」

 修也は言葉の意味が理解できずに首を傾げていたが、すぐにジョウジがやってきてその耳元で言葉の意味を解説していった。
 意味を知った修也は少し皮肉を混ぜた口調で最後の質問を行なっていった。

「それもいいが、お前の反乱で死んだ人に詫びを入れるのが筋ってものじゃあないのか?」

「大津さん、それは日本のヤクザたちが使う任侠道の考え方からきたものです。海外にはそんな考えはありませんよ」

「じゃあ、なるべく分かりやすい言い方でこの人に伝えてください」

 修也の指示を受け、ジョウジは終夜の日本人的な価値観に基づいた言葉を西洋的な価値観へと変換して訳すことになった。
 ルドルフは意訳された言葉を気に入ったのか、何度も繰り返していった。
 それから言葉を締め括っていった。

「……『最後の審判の時にあなたが殺した人にあなたが謝りなさい。そうすれば神はあなたを救うでしょう』か……へへッ、言うねぇ。確かにそうかもな」

 全身からダメージが出てきて諦めの感情が先にきたのか、ルドルフはそう喋り終えると、無言で空の上を眺めていった。

「最後の懺悔とやらは済んだのか? なら、そろそろトドメを刺させてもらう」

 修也はビームソードを腰にしまうと、遠距離からトドメを刺すためレーザーガンを突き付けながら言った。
 その言葉を隣にいたジョウジが正確に通訳していった。

「まぁ、待てよ。焦るな。お前らは確か、今回の交易で惑星ラセットに向かうつもりだな?」

「ど、どうしてそれを!?」

 修也が声を荒げるのも無理はなかった。ルドルフが語ったのは会社の中でも機密事項であり、交易に向かうための社員やその対応をしていた事務員たち、そして社長やその秘書といった限られた人たちしか知らない企業秘密であった。

「知っているとも、惑星ラセットからそのことを知らされたからな」

「バカな!」

 声を上げたのは以前も惑星ラセットに交易で訪れたことのあるジョウジだった。
 嘘を吐いていると思ったのだろう。大きな声で反論を口にしていった。

「惑星ラセットは海の星だが、そこに住むラセット星人は古代ギリシャ程度の文化レベルしか持っていないはずだぞ!」

「お前らが知らないところでは知らないものがーー」

 時間が来たのか、ルドルフは最後まで言い切ることなく、爆破に巻き込まれていった。ルドルフが着用していたパワードスーツの破片が甲板の上に散っていった。

 ルドルフの手下たちから悲鳴が聞こえてきた。宇宙の塵と化したボスを悼む声であった。
 修也はしばらくルドルフが消えた後の宇宙を眺めていった。

 この世から消えたルドルフは宇宙を漂っていくのだろうか。そんなことを考えていた。人は死ねば星になるという宗教観もあるが、大勢の人を殺めて人生を滅茶苦茶にしていったルドルフも星になるのだろうか。

 修也はジョウジから後ろ手を引かれて宇宙船の中へと連れて行かれた。
 修也はそのまま引き摺られてパワードスーツを着たまま運転席の上へと座らされていった。
 そして拘束ベルトを付けられた。麗俐や悠介も同じだった。ワープが初めての二人は当惑した顔を浮かべていた。

「このままワープをするんですか?」

「えぇ、社長の指示に従って最初の目標は第一植民惑星の火星です」

「か、火星ですか!?」

 思わず声を上げてしまった。というのも、先ほどのルドルフの話やワープの態勢を取っていたこともあって先に惑星ラセットに向かうのだとばかり思っていたからだ。

「えぇ、火星に最初に向かうのは社長からの命令ですし、初めて宇宙に出るお二方の異星デビューとしては最適な星でしょう? 我々が知る惑星の中で地球の文化レベルにもっとも近い惑星です」

 火星。その名を知るものは多いだろう。21世紀の初頭から地球に代わる移住先として知られており、地球と同じで岩石で出来た惑星だ。そうは言っても水などがないため暮らすことはできないと言われてきていた。

 しかし豊富な地下水が眠っていることが21世紀の中盤に発覚し、そこに地球からの移民船団が押し寄せていった。

 人々は地下水を汲み上げ、星全体に水を行き渡せると同時に人工的な植物を生やして今では森林保護区という名目でそこに動物や虫まで放たれている。

 そしてその移民団に合わせたサービスを提供するため地球各地からの企業が進出していくようになった。

 そして移民船団の人々やそれを支える企業に勤める人々が住まうための住宅地やスーパー、電気屋といった人々の生活に必要な施設が揃っており、ボーリング場やカラオケ、ショッピングセンターといった娯楽施設までも揃っている。

 中には日本人を始めとしたアジア人向けの施設として温泉施設まで揃っている。
 こんな立派な惑星で交易船は不要なように思えるが、まだ地球でしか生産できないものもあるらしいのでそれを交易で扱うつもりだそうだ。

 そんな恵まれた土地で何を交換するのか、修也は想像もつかなかった。
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