215 / 234
第四章『王女2人』
21
しおりを挟む
「よろしいですか? 大津さん、両殿下は異星から参られた国賓……それもただの国賓ではありません。御二方は地球外から来られたお方……言うなれば日本のみならず地球にとってのお客様です。万が一のことがあれば日本は世界各国から他所の星の王女を殺したということで凄まじい非難を浴びる結果となるでしょう。そうならないように頼みますよ」
佐々木という男は官憲という役職に相応しい冷徹な目で修也を睨みながら牽制を行う。有無を言わさんばかりの態度に対して修也は小さく首を縦に動かすより他になかった。横暴な態度に辟易はしながらも強くは出られないのが、小市民としての限界を示しているといえる。
ようやく扉を閉めて、警備員に案内されながら2人の王女のため用意された椅子へと向かっていた。激しく両肩を落とし、疲れ切った顔を浮かべながら。
警備員によって扉が開かれると、そこには満員の観客が席に詰めている様子が見えた。全員が試合を心待ちにしているのだろう。気を張り詰めながら体育館のコートを凝視している。
先ほど、佐々木から与えられたプレッシャーに加え、観客たちの身の安全も考慮すると、ますます気も重くなる。真上から石を落とされたかのように心が重くなってしまう。
修也の疲労も知らずに、椅子の上では既に仲睦まじく喋る王女と自分の子どもたちの姿。
「レイアップシュートは庶民のシュートと言われるシュートだけど、これが上手く使えるかどうかで試合は決まるんだよ」
悠介は自身の好きなバスケットボールについて語ることができたのか、先ほどから大きな声でシーレに向かってバスケットボールについての解説を行なっている。シーレも大好きなボーイフレンドからの解説に対して楽しげに耳を傾けていた。
嫌々という表情が見えないのは彼女もカメーネに居た頃から弓を嗜んでいたからだろう。
隣の席にいる麗俐も熱心にガールフレンドへと語り掛ける弟の姿に触発されたのか、その弟から聞かされたバスケットボールの知識をデ・レマへと語っている。
といっても悠介ほど熱心に語ってはいない。麗俐が語るのはあくまでも触り程度。
知識においてはプロ顔負けかと思われる悠介と比較すれば本当に付け焼き刃程度のものでしかないが、バスケットボールに触れたことがない人からすれば十分に補足となりうる説明であったといえるだろう。才女と名高いデ・レマが感心した素振りで首を動かしているのがその証明であったといえる。家庭教師の説明に理解を示す子どものように。
交流を深めているところを遮るように座ることに対してどこか気まずいものを感じてしまうが、それでも座らなければ試合見ることもできないし、王女たちの護衛という任務を果たすこともできぬ。それ故に仕方がなく腰を下ろす。相席するかのような気まずさを脳裏に浮かべながら。
愛想笑いを浮かべて4人に頭を下げて乱入を詫びるのと同時にビブスを着たグループが体育館の入り口から入ってきた。
右側の選手たちが目が覚めるようなハッキリとした赤色のビブスを纏っているの対し、左側の選手たちがジャングルを表すような緑色のビブスを着て入場してきたから敵と味方の区別は容易につく。
彼らは試合会場に到着するのと同時に観客席に向かって頭を下げ、それから互いに頭を下げてからバスケットボールを構えながら睨み合う。
バスケットボールにおいて最初のボールを投げたのは赤いビブスを纏ったチームの方だった。それを合図に両チームの白熱した戦いが繰り広げられていく。
ボールを互いの手から奪い合おうともがく様は見ていて飽きない。試合の流れが適度に変わるのも見どころであるといえる。目を離してしまうと、これまでの成果が全て消えてしまう野鳥観察のように。
パスを投げたかと思えば今度はそのパスも取られてしまう。パスを出すにしろ、ドリブルを続けてシュートを決めるにしろ、いつもの倍は計算を行わなければならない。そうしなければ選手たちは勝つことができない。
そういった意味では将棋やチェスにも匹敵する頭脳戦であるといえるだろう。
これ程まで壮絶な戦いであるのに対し、戦いの意図というのものは存在しない。その中にあるのは純粋に勝ち負けを競い合い、勝利を求め合うということのみ。
赤いビブスを着たチームが先に先行を果たしたかと思えば、次に緑のビブスを着たチームがスラムダンクを決めて点を得ていた。追いつけ追い越せとでも言わんばかりに。
そして今度は緑のビブスを着たチームがボールをバウンドさせて相手のゴールの目の前へと迫る。かと思えばほんの僅かな緩みや滑りでボールが相手に掻っ攫われてしまう。鳶がきつねうどんから油揚げを攫うように。
俗に言うパスカットやドリブルカットというものでこれらを総称して『スティール』と呼ぶそうだ。麗俐は悠介から聞かされた情報を頭の片隅から引っ張り上げながら試合を眺めていた。
白熱した戦いにみんな目を離せないようだ。ただ、1人修也を除いて。
試合を眺めていても頭の中には佐々木と呼ばれた男の言葉が浮かぶ。
それに加えて王女たちはまだ未成年。彼女らに危害が及ばないようにすることは大人しての責務であるといえた。
様々な要因が頭の中を過っていく。そのせいか試合に集中することができない。苛立ち紛れに足を揺らすことを抑えつつ、試合の光景と周囲を交互に見て異変が起きないかを確認する。
周囲を何度か見比べた後で息抜きにお茶を飲もうとペットボトルの封を開いた時のこと。
「危ない!」
と、真下のコートから悲鳴が飛ぶ。同時に真正面からバスケットボールが飛び込む。凄まじい勢いを付けて。
修也は慌てて右手に持っていたペットボトルを捨て、王女たちの前に立ち塞がり、猪のような勢いで投げられたボールを受け止めた。
両手でバスケットボールを受け止めた後に異変がないことを確認し、地面の上へと下ろす。
その後に慌てた様子でどちらかのチームの監督が駆け付けてきたので修也は迷うことなくボールを手渡した。確認したところ、ボールの中に怪しげなものは何もない。どうやら本当にただの気紛れで放り込まれたものであるらしい。
真下のコートで選手が頭を下げている様子が見えた。その姿を見て胸を撫で下ろした後で、
「怪我はありませんでしたか?」
と、修也は頭を掻きながらデ・レマへと問い掛けた。
「うん、ありがとう」
デ・レマが小さな頭を下げてお礼の言葉を述べる。それに続いてシーレも同様に頭を下げる光景が見えた。
同時に修也は2人が想像していた以上に日本に馴染んでいることを実感してしまう。異星の王女である2人が日本人のようにすんなりと頭を下げる姿から察するに考え方や習慣といったものが予想以上に染み付いてるしまっているようだ。地方に住んでその地方の言葉がすっかりと言葉の中に染み込むように自然な様子で。
仮に2人が元の惑星に帰った際、もう一度、その惑星の文化に馴染めことができるのだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。やはりひろみの言った通り、日本国籍を経て帰化してしまう方がその星にとっては幸せではないのだろうか。
そんなことを考えながら体育館を眺めていると、隣に座っていた悠介が無邪気な笑みを浮かべて修也を賞賛する。
「父さん! すげぇよ! ボールを受け止めるなんてさ!」
「そ、そうか?」
「あぁ、前なら絶対にできなかったよ」
困惑した様子の修也を放って悠介が興奮した様子で過去の事例を持ち出す。
修也自身も忘れていた事実まで持ってくるとは驚きだ。悠介は修也が付いていけないのをいいことに彼の中でもとっておきであったと思われる失敗談をここぞとばかりに話していく。
「昔、お父さんとキャッチボールしてたことがあったけど、その時にお父さん、転げちゃってさ」
シーレは悠介が語る修也の話が面白いのか、楽しげな顔で聞いている。
「そうそう。悠介が初めてバスケットボールに触れた時、お手本を見せようと公園にあるゴールの前でボールを入れようとしたら失敗して転けたり」
いつの間にか、麗俐も悪ノリして悠介とシーレの話に入ってきていた。側で話を聞いていたデ・レマも楽しげに首を縦に動かす様子を見せた。修也の過去を知れて満足であったらしい。
2人からすれば自分たちの知らない修也のことを知れるのは楽しいのだろう。
肝心の修也はといえば過去の失敗をたこ焼きでもひっくり返すかのように、ほじくり返されたこともあって恥ずかしい思いを感じていた。その反面、どこか誇らしい気持ちが浮かんできていた。
悠介や麗俐が語る失敗談を聞くたびに今の自分がどれ程まで成長したのかが実感できるというのが大きかった。メトロポリス社に入社する前の自分であれば考えられないような反射神経と運動神経。
訓練と実践の両方で身に付けた自分にとっての財産ともいうべき存在。
普段はあまり気にしないが、横でかつての自分と比較してみるとどうしても今の自分が誇らしく思えてしまう。
金庫の奥に眠っていた宝石を磨いてピカピカに光らせたような感覚といえば分かりやすいだろうか。
とにかく修也は今気が良かった。取り引き先からの心地の良い接待で気を良くしたかのように。
フフンと上機嫌に鼻を鳴らしていると、大きなホイッスルの音が鳴り響く。どうやら最初の試合が終了したらしい。
僅差ではあるが、勝利を収めたのは赤いビブスを着たチームの方。彼らは随分と熱心に戦っていたのでその努力が報われたというべきだろう。
午後からは別のチーム同士の試合が始まるとのこと。その合間に昼休憩が挟まれる。時間を無駄にしないシステムというのが時間を無駄にしない21世紀のスタンスに即しているというべきだろう。
大抵の観客たちはこの休みを利用して栄養カプセルを放り込む。その合間に情報を整理したり、感想を語ったりするという仕様となっている。
それに加えて食事を楽しみたい観客は併設されている飲食店に足を運ぶ。
修也たちもこの時間を利用して食堂へと向かおうとしたのだが、それよりも前に公安警察から豪華な弁当を差し出されたことで否が応でもその場に留めさせられる羽目になった。サングラスをかけた公安の刑事の話によれば不必要に動くことで敵対者に隙を与えることになり得るとのこと。
どこまでも厳格な対応に、修也はいささか不満を持っていたが、公安から用意された弁当を見れば文句も喉の奥へと引っ込む。
文句が消えるのも無理はない。21世紀ではとっくの昔に使われなくなっていたお重と呼ばれる漆が塗った三重の豪華な弁当箱の中に見るも麗しい料理が詰め込まれているのを見れば言葉が出なくなるのも無理はあるまい。
弁当を持ってきた浅黒い肌に痩せた刑事の話によれば歴史的に名高い料亭に特注したとのこと。
それもそのはず、たっぷりと甘タレの掛かった鰻とう巻きが上に載った御飯、真鯛の味噌漬けなどの豪華な料理が入っていた。
二重目には山海の珍味が入っており、どれも普段は口にできないようなものばかりだ。その上で三重目には王女2人の口直しにと菓子類や果物まで入っている。
その上でお茶が入った魔法瓶まで用意されているのだからいたせり尽せりというべきではないだろうか。
気後れしたことや刑事から黙って渡されたこともあったか、掌の上にある栄養カプセルを食べようとした修也たちに向かって一緒に食べようと誘ってくれたのは本当にありがたいことであった。
公安の本庁から大津家に対してその弁当を食べさせる許可は出ていないものの、王女2人から直々に許しが出たとあっては黙認せざるを得まい。
修也たちは結果として弁当にありつける羽目になったのである。その様は例えるのであれば、古くは時代劇で殿様から下げ渡される贅沢品で昨今の作品でいえば架空のファンタジー世界で慈悲深い王族から渡される品物といったところだろうか。
しかし異世界や江戸時代を始めとした過去の時代であればともかく、21世紀の現在でその様な前時代的なことがと言われればそれまでである。
しかし秩序を保たねばならないのは過去であろうが、現代であろうが、或いは他の世界であろうが変わりはない。
好き勝手なことを許せば組織そのものが崩壊してしまうのは昔から言われている。仕方がないことなのだ。
修也はデ・レマから渡された鰻を食いながらそんなことを考えていた。
「修也、アーンして」
渡された鰻を食べ終え、デ・レマが幼妻のように最後の重の中に入っていた砂糖菓子を食べさせようとした時のこと。
先ほど弁当を運んできた公安警察の面々が周りを取り囲んでいることに気が付く。壁を作るかのように取り囲んでいる様は異様である。鳥を逃がさないための鳥籠。そんな不穏な言葉が脳裏に浮かぶ。
修也は咄嗟にデ・レマを背後に隠した。その上でカプセルを握り締めながら弁当を運んできた浅黒い肌の男へと問い掛ける。
「あなたは何者です?」
だが、答えは返ってこない。流れるのは重い空気ばかり。当然である。敵に手の内を見せる相手がどこにいるというのだろうか。
向こう側がどのような手に出るのか分からないのだから用心するより他に方法はあるまい。
刺されるよりも先に刺そうとばかりに修也が懐に隠していたカプセルへと手を伸ばした時のこと。
目の前に立っていた男が口元の端を吊り上げていく。口元から真っ白な歯が溢れる。しかし今の修也から見れば汚れ一つない歯ですら不気味に感じられた。
男はククッと笑いを溢した後に大きな笑い声を上げていく。俗に言う哄笑と言うべきだろうか。
修也が身構えていると、男はそれまで掛けていたサングラスを放り捨て、代わりに懐からカプセルを取り出す。それは修也が持っているのと同じ形をした小さなカプセル。
だが、それはメトロポリス社から出ているものとは大きく異なる。そのためカプセルの中に何が含まれているのかは把握できていない。
修也は先にメトロイドスーツへと身を包み込む。同じく自分と同様に体を強靭なパワードスーツへと変えた2人の子どもたちにデ・レマを託す。
男が異様な姿へと変える前に立ち向かおうとした。
だが、結局のところその作戦は失敗に終わってしまった。男の体が強烈な光に包み込まれていく。
役目を終えたように光が消えていくのと同時に男が奇妙な姿へと己の姿を変えていた。それは身体中から電流を発し、両手から迸る電気の力を用いて掌の中に雷さえ引き起こしていた。
青い色のタイツに身を包み込み、頭部のみを稲妻のオブジェクトを模った不気味なフェイスヘルメットに身を包んでいる姿は化け物そのもの。文学的な表現を用いるのであれば雷の魔人といったところだろうか。
雷の魔人は雷そのものは飛び道具として活用することしかできないからか、腰には金属製の小さな警棒が下げられている。
しかし、雷の魔人が抜いたのはただの警棒ではない。縮小が可能な三段式の特殊警棒。振って伸ばすことで大きくなっていく。中世の騎士が使うロングソードのように。
それに加えて雷の魔人が警棒を握るたびに警棒に電流が走っていく。恐らく、金属製の警棒ということもあって電気を通しやすいのが要因だろう。
修也がメトロイドスーツの上に被っているフェイスヘルメットの下で冷や汗をかいていると、雷の魔人が警棒を振り上げながら襲い掛かってきた。
修也は慌てて自らのビームソードを盾にして防いだものの、これではジリ貧。いつまでもこの体制を維持してはいられない。
「逃げるんだ!」
修也の口から咄嗟に言葉が出る。それに従ってデ・レマたちはその場から逃げ出そうとしたものの、その前にまたしても男たちが立ち塞がる。
それも2人。彼らは右手にカプセルさえ握っていた。
用心を行い、2人の王女を背後へと下げ、隠す悠介と麗俐。2人とも自らの武器を手に王女を守る姿は中世の騎士道物語に登場する騎士そのものといえた。
佐々木という男は官憲という役職に相応しい冷徹な目で修也を睨みながら牽制を行う。有無を言わさんばかりの態度に対して修也は小さく首を縦に動かすより他になかった。横暴な態度に辟易はしながらも強くは出られないのが、小市民としての限界を示しているといえる。
ようやく扉を閉めて、警備員に案内されながら2人の王女のため用意された椅子へと向かっていた。激しく両肩を落とし、疲れ切った顔を浮かべながら。
警備員によって扉が開かれると、そこには満員の観客が席に詰めている様子が見えた。全員が試合を心待ちにしているのだろう。気を張り詰めながら体育館のコートを凝視している。
先ほど、佐々木から与えられたプレッシャーに加え、観客たちの身の安全も考慮すると、ますます気も重くなる。真上から石を落とされたかのように心が重くなってしまう。
修也の疲労も知らずに、椅子の上では既に仲睦まじく喋る王女と自分の子どもたちの姿。
「レイアップシュートは庶民のシュートと言われるシュートだけど、これが上手く使えるかどうかで試合は決まるんだよ」
悠介は自身の好きなバスケットボールについて語ることができたのか、先ほどから大きな声でシーレに向かってバスケットボールについての解説を行なっている。シーレも大好きなボーイフレンドからの解説に対して楽しげに耳を傾けていた。
嫌々という表情が見えないのは彼女もカメーネに居た頃から弓を嗜んでいたからだろう。
隣の席にいる麗俐も熱心にガールフレンドへと語り掛ける弟の姿に触発されたのか、その弟から聞かされたバスケットボールの知識をデ・レマへと語っている。
といっても悠介ほど熱心に語ってはいない。麗俐が語るのはあくまでも触り程度。
知識においてはプロ顔負けかと思われる悠介と比較すれば本当に付け焼き刃程度のものでしかないが、バスケットボールに触れたことがない人からすれば十分に補足となりうる説明であったといえるだろう。才女と名高いデ・レマが感心した素振りで首を動かしているのがその証明であったといえる。家庭教師の説明に理解を示す子どものように。
交流を深めているところを遮るように座ることに対してどこか気まずいものを感じてしまうが、それでも座らなければ試合見ることもできないし、王女たちの護衛という任務を果たすこともできぬ。それ故に仕方がなく腰を下ろす。相席するかのような気まずさを脳裏に浮かべながら。
愛想笑いを浮かべて4人に頭を下げて乱入を詫びるのと同時にビブスを着たグループが体育館の入り口から入ってきた。
右側の選手たちが目が覚めるようなハッキリとした赤色のビブスを纏っているの対し、左側の選手たちがジャングルを表すような緑色のビブスを着て入場してきたから敵と味方の区別は容易につく。
彼らは試合会場に到着するのと同時に観客席に向かって頭を下げ、それから互いに頭を下げてからバスケットボールを構えながら睨み合う。
バスケットボールにおいて最初のボールを投げたのは赤いビブスを纏ったチームの方だった。それを合図に両チームの白熱した戦いが繰り広げられていく。
ボールを互いの手から奪い合おうともがく様は見ていて飽きない。試合の流れが適度に変わるのも見どころであるといえる。目を離してしまうと、これまでの成果が全て消えてしまう野鳥観察のように。
パスを投げたかと思えば今度はそのパスも取られてしまう。パスを出すにしろ、ドリブルを続けてシュートを決めるにしろ、いつもの倍は計算を行わなければならない。そうしなければ選手たちは勝つことができない。
そういった意味では将棋やチェスにも匹敵する頭脳戦であるといえるだろう。
これ程まで壮絶な戦いであるのに対し、戦いの意図というのものは存在しない。その中にあるのは純粋に勝ち負けを競い合い、勝利を求め合うということのみ。
赤いビブスを着たチームが先に先行を果たしたかと思えば、次に緑のビブスを着たチームがスラムダンクを決めて点を得ていた。追いつけ追い越せとでも言わんばかりに。
そして今度は緑のビブスを着たチームがボールをバウンドさせて相手のゴールの目の前へと迫る。かと思えばほんの僅かな緩みや滑りでボールが相手に掻っ攫われてしまう。鳶がきつねうどんから油揚げを攫うように。
俗に言うパスカットやドリブルカットというものでこれらを総称して『スティール』と呼ぶそうだ。麗俐は悠介から聞かされた情報を頭の片隅から引っ張り上げながら試合を眺めていた。
白熱した戦いにみんな目を離せないようだ。ただ、1人修也を除いて。
試合を眺めていても頭の中には佐々木と呼ばれた男の言葉が浮かぶ。
それに加えて王女たちはまだ未成年。彼女らに危害が及ばないようにすることは大人しての責務であるといえた。
様々な要因が頭の中を過っていく。そのせいか試合に集中することができない。苛立ち紛れに足を揺らすことを抑えつつ、試合の光景と周囲を交互に見て異変が起きないかを確認する。
周囲を何度か見比べた後で息抜きにお茶を飲もうとペットボトルの封を開いた時のこと。
「危ない!」
と、真下のコートから悲鳴が飛ぶ。同時に真正面からバスケットボールが飛び込む。凄まじい勢いを付けて。
修也は慌てて右手に持っていたペットボトルを捨て、王女たちの前に立ち塞がり、猪のような勢いで投げられたボールを受け止めた。
両手でバスケットボールを受け止めた後に異変がないことを確認し、地面の上へと下ろす。
その後に慌てた様子でどちらかのチームの監督が駆け付けてきたので修也は迷うことなくボールを手渡した。確認したところ、ボールの中に怪しげなものは何もない。どうやら本当にただの気紛れで放り込まれたものであるらしい。
真下のコートで選手が頭を下げている様子が見えた。その姿を見て胸を撫で下ろした後で、
「怪我はありませんでしたか?」
と、修也は頭を掻きながらデ・レマへと問い掛けた。
「うん、ありがとう」
デ・レマが小さな頭を下げてお礼の言葉を述べる。それに続いてシーレも同様に頭を下げる光景が見えた。
同時に修也は2人が想像していた以上に日本に馴染んでいることを実感してしまう。異星の王女である2人が日本人のようにすんなりと頭を下げる姿から察するに考え方や習慣といったものが予想以上に染み付いてるしまっているようだ。地方に住んでその地方の言葉がすっかりと言葉の中に染み込むように自然な様子で。
仮に2人が元の惑星に帰った際、もう一度、その惑星の文化に馴染めことができるのだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。やはりひろみの言った通り、日本国籍を経て帰化してしまう方がその星にとっては幸せではないのだろうか。
そんなことを考えながら体育館を眺めていると、隣に座っていた悠介が無邪気な笑みを浮かべて修也を賞賛する。
「父さん! すげぇよ! ボールを受け止めるなんてさ!」
「そ、そうか?」
「あぁ、前なら絶対にできなかったよ」
困惑した様子の修也を放って悠介が興奮した様子で過去の事例を持ち出す。
修也自身も忘れていた事実まで持ってくるとは驚きだ。悠介は修也が付いていけないのをいいことに彼の中でもとっておきであったと思われる失敗談をここぞとばかりに話していく。
「昔、お父さんとキャッチボールしてたことがあったけど、その時にお父さん、転げちゃってさ」
シーレは悠介が語る修也の話が面白いのか、楽しげな顔で聞いている。
「そうそう。悠介が初めてバスケットボールに触れた時、お手本を見せようと公園にあるゴールの前でボールを入れようとしたら失敗して転けたり」
いつの間にか、麗俐も悪ノリして悠介とシーレの話に入ってきていた。側で話を聞いていたデ・レマも楽しげに首を縦に動かす様子を見せた。修也の過去を知れて満足であったらしい。
2人からすれば自分たちの知らない修也のことを知れるのは楽しいのだろう。
肝心の修也はといえば過去の失敗をたこ焼きでもひっくり返すかのように、ほじくり返されたこともあって恥ずかしい思いを感じていた。その反面、どこか誇らしい気持ちが浮かんできていた。
悠介や麗俐が語る失敗談を聞くたびに今の自分がどれ程まで成長したのかが実感できるというのが大きかった。メトロポリス社に入社する前の自分であれば考えられないような反射神経と運動神経。
訓練と実践の両方で身に付けた自分にとっての財産ともいうべき存在。
普段はあまり気にしないが、横でかつての自分と比較してみるとどうしても今の自分が誇らしく思えてしまう。
金庫の奥に眠っていた宝石を磨いてピカピカに光らせたような感覚といえば分かりやすいだろうか。
とにかく修也は今気が良かった。取り引き先からの心地の良い接待で気を良くしたかのように。
フフンと上機嫌に鼻を鳴らしていると、大きなホイッスルの音が鳴り響く。どうやら最初の試合が終了したらしい。
僅差ではあるが、勝利を収めたのは赤いビブスを着たチームの方。彼らは随分と熱心に戦っていたのでその努力が報われたというべきだろう。
午後からは別のチーム同士の試合が始まるとのこと。その合間に昼休憩が挟まれる。時間を無駄にしないシステムというのが時間を無駄にしない21世紀のスタンスに即しているというべきだろう。
大抵の観客たちはこの休みを利用して栄養カプセルを放り込む。その合間に情報を整理したり、感想を語ったりするという仕様となっている。
それに加えて食事を楽しみたい観客は併設されている飲食店に足を運ぶ。
修也たちもこの時間を利用して食堂へと向かおうとしたのだが、それよりも前に公安警察から豪華な弁当を差し出されたことで否が応でもその場に留めさせられる羽目になった。サングラスをかけた公安の刑事の話によれば不必要に動くことで敵対者に隙を与えることになり得るとのこと。
どこまでも厳格な対応に、修也はいささか不満を持っていたが、公安から用意された弁当を見れば文句も喉の奥へと引っ込む。
文句が消えるのも無理はない。21世紀ではとっくの昔に使われなくなっていたお重と呼ばれる漆が塗った三重の豪華な弁当箱の中に見るも麗しい料理が詰め込まれているのを見れば言葉が出なくなるのも無理はあるまい。
弁当を持ってきた浅黒い肌に痩せた刑事の話によれば歴史的に名高い料亭に特注したとのこと。
それもそのはず、たっぷりと甘タレの掛かった鰻とう巻きが上に載った御飯、真鯛の味噌漬けなどの豪華な料理が入っていた。
二重目には山海の珍味が入っており、どれも普段は口にできないようなものばかりだ。その上で三重目には王女2人の口直しにと菓子類や果物まで入っている。
その上でお茶が入った魔法瓶まで用意されているのだからいたせり尽せりというべきではないだろうか。
気後れしたことや刑事から黙って渡されたこともあったか、掌の上にある栄養カプセルを食べようとした修也たちに向かって一緒に食べようと誘ってくれたのは本当にありがたいことであった。
公安の本庁から大津家に対してその弁当を食べさせる許可は出ていないものの、王女2人から直々に許しが出たとあっては黙認せざるを得まい。
修也たちは結果として弁当にありつける羽目になったのである。その様は例えるのであれば、古くは時代劇で殿様から下げ渡される贅沢品で昨今の作品でいえば架空のファンタジー世界で慈悲深い王族から渡される品物といったところだろうか。
しかし異世界や江戸時代を始めとした過去の時代であればともかく、21世紀の現在でその様な前時代的なことがと言われればそれまでである。
しかし秩序を保たねばならないのは過去であろうが、現代であろうが、或いは他の世界であろうが変わりはない。
好き勝手なことを許せば組織そのものが崩壊してしまうのは昔から言われている。仕方がないことなのだ。
修也はデ・レマから渡された鰻を食いながらそんなことを考えていた。
「修也、アーンして」
渡された鰻を食べ終え、デ・レマが幼妻のように最後の重の中に入っていた砂糖菓子を食べさせようとした時のこと。
先ほど弁当を運んできた公安警察の面々が周りを取り囲んでいることに気が付く。壁を作るかのように取り囲んでいる様は異様である。鳥を逃がさないための鳥籠。そんな不穏な言葉が脳裏に浮かぶ。
修也は咄嗟にデ・レマを背後に隠した。その上でカプセルを握り締めながら弁当を運んできた浅黒い肌の男へと問い掛ける。
「あなたは何者です?」
だが、答えは返ってこない。流れるのは重い空気ばかり。当然である。敵に手の内を見せる相手がどこにいるというのだろうか。
向こう側がどのような手に出るのか分からないのだから用心するより他に方法はあるまい。
刺されるよりも先に刺そうとばかりに修也が懐に隠していたカプセルへと手を伸ばした時のこと。
目の前に立っていた男が口元の端を吊り上げていく。口元から真っ白な歯が溢れる。しかし今の修也から見れば汚れ一つない歯ですら不気味に感じられた。
男はククッと笑いを溢した後に大きな笑い声を上げていく。俗に言う哄笑と言うべきだろうか。
修也が身構えていると、男はそれまで掛けていたサングラスを放り捨て、代わりに懐からカプセルを取り出す。それは修也が持っているのと同じ形をした小さなカプセル。
だが、それはメトロポリス社から出ているものとは大きく異なる。そのためカプセルの中に何が含まれているのかは把握できていない。
修也は先にメトロイドスーツへと身を包み込む。同じく自分と同様に体を強靭なパワードスーツへと変えた2人の子どもたちにデ・レマを託す。
男が異様な姿へと変える前に立ち向かおうとした。
だが、結局のところその作戦は失敗に終わってしまった。男の体が強烈な光に包み込まれていく。
役目を終えたように光が消えていくのと同時に男が奇妙な姿へと己の姿を変えていた。それは身体中から電流を発し、両手から迸る電気の力を用いて掌の中に雷さえ引き起こしていた。
青い色のタイツに身を包み込み、頭部のみを稲妻のオブジェクトを模った不気味なフェイスヘルメットに身を包んでいる姿は化け物そのもの。文学的な表現を用いるのであれば雷の魔人といったところだろうか。
雷の魔人は雷そのものは飛び道具として活用することしかできないからか、腰には金属製の小さな警棒が下げられている。
しかし、雷の魔人が抜いたのはただの警棒ではない。縮小が可能な三段式の特殊警棒。振って伸ばすことで大きくなっていく。中世の騎士が使うロングソードのように。
それに加えて雷の魔人が警棒を握るたびに警棒に電流が走っていく。恐らく、金属製の警棒ということもあって電気を通しやすいのが要因だろう。
修也がメトロイドスーツの上に被っているフェイスヘルメットの下で冷や汗をかいていると、雷の魔人が警棒を振り上げながら襲い掛かってきた。
修也は慌てて自らのビームソードを盾にして防いだものの、これではジリ貧。いつまでもこの体制を維持してはいられない。
「逃げるんだ!」
修也の口から咄嗟に言葉が出る。それに従ってデ・レマたちはその場から逃げ出そうとしたものの、その前にまたしても男たちが立ち塞がる。
それも2人。彼らは右手にカプセルさえ握っていた。
用心を行い、2人の王女を背後へと下げ、隠す悠介と麗俐。2人とも自らの武器を手に王女を守る姿は中世の騎士道物語に登場する騎士そのものといえた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる