まだ僕らに自由はそれほどない

 波多野水希は、今日も駅のホームで電車が通過する度に「飛び込まなかった、偉い」と自分を褒める。
 柴浦雪緒は、今日もその過敏な感受性で街行く人々の顔に様々な影や光を見出し、彼らの人生に想いを馳せる。

 精神疾患を患う水希は年度初めが一番精神的に苦しい。もう何年も、自分より若い『新卒』たちがどこかぎこちないスーツ姿で街を闊歩するのを見ては、どうして私はああなれなかったのだろう、と螺旋状の鬱に囚われる。
 会社員というものに嫌気がさした柴浦は、東京を捨てて山の麓でスローライフを満喫していた。

 何の接点も共通項もない二人が、この国で今を生きていく。
 この物語は、彼らの単なる生き様の記録だ。
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