強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

文字の大きさ
4 / 261

2-3

しおりを挟む
プレイの後にいつも残るのは、物悲しさとやるせなさだ。

“お前みたいなSubを愛せる奴なんていねーからな!!”

うん、知ってる。

…でも好きでこうなってるわけじゃない。

先ほどの男の言葉を思い返してはひどく傷ついて、溢れる涙を拭う気力もないまま外に出ると風が冷たい。

寒さに震えながら一歩踏み出すと、ぐらりと視界が揺らいだ。

…あれ、頭が痛い。なんだろ…やばい…

倒れる、と思ってアスファルトに身体が打ち付けられる衝撃を覚悟したが、その瞬間は訪れなかった。そのかわりに頼もしく優しい、暖かな温もりに包まれた。

「君、大丈夫?」

落ち着いた低い声が耳元で囁く。そこでようやく誰かに抱き留められたのだと気づく。

「あ、ごめんなさいっ…、わっ!!」

慌てて離れようとするも、よろめいて再び相手に身体を預ける羽目になった。

「無理せず、ゆっくりでいいですよ。」

再び穏やかな声でささやかれる。

声に誘われて見上げた先で、俺のことを支えている男と目が合った。

その瞳は深海を映したような青と黒の狭間の色をしていて、どこまでも吸い込まれそうな印象を受ける。そしてそれを見た瞬間に俺の中の、自分の知らない部分が弾けた気がした。

何かに引き寄せられるように、意思とは無関係に身体が動く。

…なにこれ、すごい気持ちいい。

「…君っ…!?」

驚いたような彼の声で我に返ったときには、俺は彼の前でkneelおすわりの体勢をとっていた。

kneelおすわりは、床に両膝をつきその間に尻を落とす女の子座りのような体勢で、Subが主人のDomに忠誠を示す基本姿勢である。

…え、なにしてるの俺…。

野外で、初対面のただ倒れかけた自分を支えてくれただけの人の前で、命令されたわけでもないのにいきなりkneelとかありえない…

ギリギリ保っている理性は必死でそう言い聞かせてくるけれど、身体が全く動かない。

今までにないくらい心臓が早く脈打っていて、胸が締め付けられたみたいに苦しい。なのに頭はふわふわと酩酊している。

…知らなかった。自分がこんな風になるだなんて。

この人に従いたいと、本能が叫んでいる。

My lordご主人様…. 」

自然と口から言葉が漏れた。

彼は少し困ったような笑みを浮かべ、

「とりあえず僕の家で話そうか。すぐそこだから。」

と言って俺の手を引いた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

待てって言われたから…

ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

処理中です...