強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

文字の大きさ
43 / 261

8-1

しおりを挟む
由良さんとの待ち合わせ時間は午後7時。場所はショピングモールの中の映画館の前。

プレイのために待ち合わせたことはあってもデートなんて初めてで、どうしても浮足立ってしまう。

だってあんな理想を具現化したような人と恋人だなんて、考えただけで寿命がのびる。…いや、心臓が早く脈打ちすぎてやっぱり早死にするかもしれない。

講義が3限までだったので、一度帰って服を着替え直した。

スーツでも私服でも由良さんは格好良く、横を歩いていて恥ずかしくないような格好を選ぶのに30分はかけたと思う。

それでもこれが果たして正解だったかはわからず、例えばセーターではなくジャケットにしてくればよかったかな、などとどうにもできないことを考えてしまうのだ。

つまり、今この時間が、待っている間でさえも楽しくてたまらない。

風が冷たい外に反して、中はむしろ少し暑い。コートを脱いでレザートートに入れて、俺は映画館前のソファに腰掛けた。

会う瞬間が待ち遠しくて、気を紛らわせようとTwitterを開く。学部の情報を集めるためだけに開いたアカウントなんて、普段ならばテスト期間くらいしか覗かないのに。

そして、一番上に来ていたツイートが東弥のものであることに驚いた。俺、Twitter上では東弥と知り合ってたんだ…..。

ああもう落ち着かない。あと15分もあるし、近くの店で服でも覗こうか…、いやでもそのうちに由良さんがきてしまったらどうしよう…

座っていられず映画館の付近をぐるぐると徘徊していると、ポン、と肩に手が置かれ、上から小さな笑い声が聞こえてきた。

「お待たせ。」

振り向くと立っていたスーツ姿の由良さんは、なぜか口元を押さえている。

「あの、俺何か変でしたか…?」

慌てて自分を一瞥したが、何が変なのかはわからない。

「いや、…すごく…っ、くくっ…、格好良くてっ、似合っってる、と思う。でも映画館の前でずっとそわそわしてるから、その…っ、可愛くてっ… 」

「!? 」

やばいめちゃくちゃ笑われている。やはりどんなに落ちつかなくてもソファでじっとしているべきだったか。

そう思うと同時に、俺はとても嬉しかった。

こんな風に笑う彼を、初めて見た気がする。

いつも穏やかに微笑んでいる彼は、けれどその瞳の奥にそこはかとない寂しさを秘めているように見えたから。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...