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「本当にあの人のこと、好きなんだね。」
東弥がやれやれとため息をつき、鞭を捨てて、俺の頭を雑に撫でた。
「ごめん…。」
「俺もSランクだし不足はないと思うんだけどな…。」
ボソボソと東弥が呟く。
「えっ…?」
「いや、なんでもない。」
それっきり、東弥は黙ってキッチンの方へ行ってしまった。
“俺もSランクだし”、と言った東弥の意図はわからなかったが、その言葉を反芻してふと考える。
由良さんとの出会いは運命的なもので、彼を唯一の主人で恋人だと決めつけていたから考えたこともなかったけれど、もし由良さんと出会う前に他のSランクと会っていたら、俺は由良さんを好きにならなかっただろうか。
あるいは、他のDomでもSランクならば、俺は由良さんを忘れてパートナーにしてほしいと願うのだろうか。
…多分それはない。
由良さんだから忠誠を誓った。由良さんだから好きになった。由良さんだから忘れられない。
だって東弥にすら、プレイしてもらっているとき、“彼じゃない”、と感じた。
由良さんは俺を、どれだけ惚れさせるつもりなのだろう。
わかってる。俺に不足があったのが悪かったんだ。
でも、忘れられない。そもそもあの突然の別れを、自分がちゃんと受け入れられているのかすらわからない。
「…ずるいよ、由良さん。」
涙声で小さく呟くと、いつの間にかそばに戻ってきていた東弥が俺の身体を抱きしめてくれた。なにも言わず、そっと。
その温もりにすら、“由良さんのじゃない”、と感じてしまう、そんな失礼な自分が俺は、本当に嫌い。
「…ねえ幹斗、明後日の夜、空いてる?」
ゆっくりと流れる沈黙の中で、静かに尋ねられた。
「…うん。」
「じゃあさ、ちょっと付き合ってくれない?…あ、もちろん今日みたいにひどい状態になってなければプレイしようとはしないから。」
「いいよ。」
「やった。」
今日お世話になったし、プレイはしないなんて但し書きまで付けてもらって、断るわけにはいかない。
「…東弥、ありがとう。」
「このくらい普通だよ。」
そう言って彼は、俺の身体を離して、とびきり甘いカフェオレを作って渡してくれたのだった。
東弥がやれやれとため息をつき、鞭を捨てて、俺の頭を雑に撫でた。
「ごめん…。」
「俺もSランクだし不足はないと思うんだけどな…。」
ボソボソと東弥が呟く。
「えっ…?」
「いや、なんでもない。」
それっきり、東弥は黙ってキッチンの方へ行ってしまった。
“俺もSランクだし”、と言った東弥の意図はわからなかったが、その言葉を反芻してふと考える。
由良さんとの出会いは運命的なもので、彼を唯一の主人で恋人だと決めつけていたから考えたこともなかったけれど、もし由良さんと出会う前に他のSランクと会っていたら、俺は由良さんを好きにならなかっただろうか。
あるいは、他のDomでもSランクならば、俺は由良さんを忘れてパートナーにしてほしいと願うのだろうか。
…多分それはない。
由良さんだから忠誠を誓った。由良さんだから好きになった。由良さんだから忘れられない。
だって東弥にすら、プレイしてもらっているとき、“彼じゃない”、と感じた。
由良さんは俺を、どれだけ惚れさせるつもりなのだろう。
わかってる。俺に不足があったのが悪かったんだ。
でも、忘れられない。そもそもあの突然の別れを、自分がちゃんと受け入れられているのかすらわからない。
「…ずるいよ、由良さん。」
涙声で小さく呟くと、いつの間にかそばに戻ってきていた東弥が俺の身体を抱きしめてくれた。なにも言わず、そっと。
その温もりにすら、“由良さんのじゃない”、と感じてしまう、そんな失礼な自分が俺は、本当に嫌い。
「…ねえ幹斗、明後日の夜、空いてる?」
ゆっくりと流れる沈黙の中で、静かに尋ねられた。
「…うん。」
「じゃあさ、ちょっと付き合ってくれない?…あ、もちろん今日みたいにひどい状態になってなければプレイしようとはしないから。」
「いいよ。」
「やった。」
今日お世話になったし、プレイはしないなんて但し書きまで付けてもらって、断るわけにはいかない。
「…東弥、ありがとう。」
「このくらい普通だよ。」
そう言って彼は、俺の身体を離して、とびきり甘いカフェオレを作って渡してくれたのだった。
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