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(番外編)フェルナンドと恐ろしい許嫁 前編
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大陸の最南に位置するカフリーク王国は国土の東と南が海に面し漁業が盛んな国である。
北の国境を接している国の一つベアトリクス王国は内陸部にあるため、海産物の輸出を軸に良好な関係を築いていた。
この国の王子はフェルナンドと言い、10歳になる。
理屈っぽいところはあるものの、大人では気付かない子供ならではの目線と発想での政策提言を行い幾つか実績をあげていた為、周囲からは神童だともてはやされ本人も満更でもなかった。
フェルナンドはまた褒めてもらいたくて何か新しいアイデアを考える事が癖になっていた。
父王の港への視察について行った際に輸出する産物が干物など保存が利くものが中心なのを見て、新鮮な状態でベアトリクス王国へ届けるために手は無いものかと考えた。
「生きたまま運べば鮮度は大丈夫かな? 馬車の人が乗る所を大きな水槽にして海水を入れれば運べるかも」
フェルナンドは自身の発想に満足し、近々話してみようと思っていた。
ある日、母である王妃の外出にフェルナンドもお供する事となった。
王都近郊に丘一面に色とりどりの花が植えられ国内のみならず国外からも観光客を集める美しい場所がある。
10歳の男児にとって花畑など退屈でしかない場所であるが、知識欲の塊であるフェルナンドは行った事のない場所に行けるのを楽しみにしていたし、王妃もそんな様子をよく見ていたから可能な限り様々な場所に連れて行った。
馬車を降り花畑を見渡せる見晴台に登ると、花畑の中を楽しげに踊るように走り回っている女の子が見えた。
淡い黄色のさわやかな服をまとい、ポニーテールを揺らしている。
フェルナンドはその様子に目を奪われて固まっていた。
「あら、フェルナンド、あの子が気になるの?」
王妃がからかってくる。
「いえ、幼い頃に絵本で見た花の妖精のようだと……」
フェルナンドはまだ異性を好きになるという感情は無かった。
「そっか、妖精ね。妖精さんは儚いから大切にしてあげないとダメよ」
フェルナンドはまるで妖精と自分が関わるようなその発言を不思議に思ったが、昼食時にその疑問は解消される。
「フェルナンド、このお嬢さんがあなたの許嫁、レティシア嬢よ」
「はじめましてフェルナンド様、ダルトワ伯爵家の長女レティシアです」
外出先でもあるしドレスを着ている訳でもないので挨拶は略式で行われる。
(なるほど、先ほどの母上のお言葉は許嫁だからか)
レティシアはこの時9歳、女の子の方が早熟であろうか。あるいはフェルナンドが幼すぎるのか。2人で花畑に遊びに出ても、ずっとレティシアが主導権を握っている様子だった。
レティシアはとても陽気で元気が有り余ってるお転婆な女の子だった。
フェルナンドの手を取って走っては「この花はなんて名前かしら」なんて呟くと横からフェルナンドが名前や花言葉などを色々と教えていた。
それを遠目で眺めて嬉しそうな母親2人。
この2人は王立学院で同級生であり親友であった。男児と女児が生まれれば許嫁とするのは必然であっただろう。
あまり幼い頃から会わせてしまうと単なる幼少期の遊び相手としか思えなくなり、恋愛感情が芽生えないと困るという、バカバカしくも親にとってみては切実な心配事のために顔合わせがこの年齢になってから行われた。
ただ、2人に恋愛感情が生まれてくれれば良いと思っていた親の願いも空しく、フェルナンドの一方的な競争心が生まれてしまうのだが。
北の国境を接している国の一つベアトリクス王国は内陸部にあるため、海産物の輸出を軸に良好な関係を築いていた。
この国の王子はフェルナンドと言い、10歳になる。
理屈っぽいところはあるものの、大人では気付かない子供ならではの目線と発想での政策提言を行い幾つか実績をあげていた為、周囲からは神童だともてはやされ本人も満更でもなかった。
フェルナンドはまた褒めてもらいたくて何か新しいアイデアを考える事が癖になっていた。
父王の港への視察について行った際に輸出する産物が干物など保存が利くものが中心なのを見て、新鮮な状態でベアトリクス王国へ届けるために手は無いものかと考えた。
「生きたまま運べば鮮度は大丈夫かな? 馬車の人が乗る所を大きな水槽にして海水を入れれば運べるかも」
フェルナンドは自身の発想に満足し、近々話してみようと思っていた。
ある日、母である王妃の外出にフェルナンドもお供する事となった。
王都近郊に丘一面に色とりどりの花が植えられ国内のみならず国外からも観光客を集める美しい場所がある。
10歳の男児にとって花畑など退屈でしかない場所であるが、知識欲の塊であるフェルナンドは行った事のない場所に行けるのを楽しみにしていたし、王妃もそんな様子をよく見ていたから可能な限り様々な場所に連れて行った。
馬車を降り花畑を見渡せる見晴台に登ると、花畑の中を楽しげに踊るように走り回っている女の子が見えた。
淡い黄色のさわやかな服をまとい、ポニーテールを揺らしている。
フェルナンドはその様子に目を奪われて固まっていた。
「あら、フェルナンド、あの子が気になるの?」
王妃がからかってくる。
「いえ、幼い頃に絵本で見た花の妖精のようだと……」
フェルナンドはまだ異性を好きになるという感情は無かった。
「そっか、妖精ね。妖精さんは儚いから大切にしてあげないとダメよ」
フェルナンドはまるで妖精と自分が関わるようなその発言を不思議に思ったが、昼食時にその疑問は解消される。
「フェルナンド、このお嬢さんがあなたの許嫁、レティシア嬢よ」
「はじめましてフェルナンド様、ダルトワ伯爵家の長女レティシアです」
外出先でもあるしドレスを着ている訳でもないので挨拶は略式で行われる。
(なるほど、先ほどの母上のお言葉は許嫁だからか)
レティシアはこの時9歳、女の子の方が早熟であろうか。あるいはフェルナンドが幼すぎるのか。2人で花畑に遊びに出ても、ずっとレティシアが主導権を握っている様子だった。
レティシアはとても陽気で元気が有り余ってるお転婆な女の子だった。
フェルナンドの手を取って走っては「この花はなんて名前かしら」なんて呟くと横からフェルナンドが名前や花言葉などを色々と教えていた。
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