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陥落したその後の話
20.淫蕩
しおりを挟む「騒ぐと誰かが入ってくるかもしれない。だから静かにね?」
「ぁ、っ、レオン……っ」
後ろから耳元へ顔が寄せられ、静かに発した低音。鼓膜へ響いたその声に、身体は期待して震えてしまう。
同じようなことをされているのに相手が違えば、湧き上がる感情はこんなにも異なる。不快でたまらなかった卿の拘束。あの嫌悪とは天と地ほどにも差があった。
「……アルフォンス」
レオンの右腕が腰に回され、左手は繋がれたままだ。本来の目的である身なりを整えるための部屋。けれど、そのではないと想像するに容易い。
ドアの向こうからは人の声が聞こえる。常に往来があるというのに、まさかと思って腰に回されているレオンの右腕に、俺は自分の手を重ねきゅっと掴んだ。
「ん?」
「何を、するつもり……ですか?」
掴んだところで少しも制止にはならない。そもそも体格が違うし、手の大きさもそうだ。力だってレオンには敵わない。後ろから押されてしまえば抗うことはできず、部屋の奥へと進んでいた。
俺の質問に答える気はなさそうで、耳殻へ寄せたレオンの唇が何度も啄む。意味のある触れ方に、ぞわぞわ熱も上がっていく。しかもレオンの両手はそれぞれが器用に違う動きを始めていた。
「母上もここまでアルに声がかかるなんて、予想していなかっただろうね……俺も離れなければよかったな」
俺がもっと上手く立ち回れていれば……クラウディア様は何も悪くないのに。レオンにも見られていたのか? この言い方はそういうことなのだろう。
先程の失態が頭を掠めレオンの手を強く拒むことができない。
上着の留め具やボタンを外され、首元のクラヴァットも緩められていく。朝早くから整えてもらった衣装は、すっかり崩されてしまった。
「レオンッ、待って」
手加減することなく俺をそそのかしていく。足の間にはレオンの左膝が割り入れられ、閉じることができなくなっていた。耳を舐られると水音が直接鼓膜へ響き、ふるっと首を竦めた。
レオンの声も吐息も唇も、俺が弱いとわかっているすべてを駆使され、どうしたって熱くなる身体を止められなかった。
そうしているうちに俺の衣装を捲りながら肌を撫でられ、どうやって脱がされたのか下肢が露わになっていた。
「こんな、本当に、待って……っ」
「静かにしないと外へ聞こえてしまうかもしれない……ほら、自分で立つんだよ?」
後ろから胸と下腹部を弄られる。レオンは欲望の煽り方を熟知していた。おそらく俺の身体で知らないところはないほどに。
感じやすく弱いところばかりを狙って昂められれば、すぐに俺は陥落してしまう。
胸の飾りを摘まれ捏ね回されながら、兆している分身を包まれた。的確にいいところばかりを刺激され、身体がぐずぐずに蕩けだす。
「っ、そんな……無理……っ」
ここは王城で夜会で、ドアの向こう側には人の気配があって……良識ある行動とは言いがたい。
足の力が抜けて崩れそうになる。必死に身体を保とうとしても容赦なくレオンは指先を動かし、芯から快感が拡がっていった。がくがく震えだした膝の震え。もう立っていられない。
「ここで……ちょっとだけ、我慢して」
そうして壁際へ寄られ、俺は縋るように爪を立てるしかなかった。何も掴まるところがなくて心許ない。
腰を突き出し強請る体勢になりながら、レオンの腕に支えられる。陰茎を擦られ後孔へ指先の侵入を許す。先走りの液を使いぬちゃぬちゃ解され、いつもより早急に受け入れる準備がなされた。
「ぁ、んっ、ん……あ、うっ」
含む指を増やされながら、感じる場所を探られる。締め付けることで悦いところがどこなのか気づかれてしまい、執拗に攻められた。
「そこっ、あっ、……ぁっ」
「出ちゃうね、声……」
堪えきれず嬌声となる。頭ではわかっていてもどうにもならない。自分で口許を塞いでみたが、あまり力が入らなくて隙間から喘ぐ声が漏れてしまった。
レオンは容赦なく攻め立て、わざと声を抑えられないように意地の悪いことをしてくる。背後でふっと笑っている気配が、何とも憎らしい。
幾度も抉られながら、俺は絶頂に近いところまで昂ぶらされていた。もう、あと少し。そこを突かれたら──だというのにレオンは指を引き抜いてしまった。どうして最後の刺激をくれないのか、絶望にも似た喪失感に襲われる。
そして身体を反転されられると、雄の目をしたレオンと視線が重なった。何かを企んでいるような気がして警戒していたら、俺の片足を持ち上げられた。
壁に背を預けることになり、右足を更に引き上げられた。下肢の奥、つまりは窄まりまで晒した格好だ。無理な体勢のまま、ぐいっとレオンの猛りが後孔へ押し当てられた。
「むり、こんなの……できないっ」
いや、まさか。こんなこと無謀だと思っているのは俺だけのようで、レオンの先端を挿れられてしまう。
「はっ……くっ──っ」
「汚すと怒られちゃうから」
言いながらポケットから取り出したハンカチーフで俺の屹立を覆う。いや、もうそれでどうにかなる状況ではなく、色々なことか手遅れだ。くしゃくしゃになったズボンや皺ができてしまった上着。俺の太腿を伝う精液だってどうしようもない。
頭の片隅ではどこか冷静な部分が残っていて、仁王立ちになっている侍女たちの姿が浮かんだ。レオンには夜会の最中、俺に手を出すなと言っていたのに。時間を掛けて整えてくれたが結局こういうことになってしまい、申し訳ないやら言い訳したいやら、ともかく邸へ帰ったらレオンと一緒に謝ろうと心に決めた。
混乱と冷静の狭間で揺蕩っていると、現実は俺の情緒などお構いなしに行為が進められる。軋む身体が少しでも楽になるよう、俺はレオンの首に強くしがみついた。
かろうじて着いていた左足のつま先も限界となり、レオンの腰へ絡ませる。身体ごと力強く抱えられながら俺たちは繋がっていた。
「はっ、ァ、っんん……っん、っ」
「すごい、奥まで……わかる?」
「これっ、ッ……深いっ」
ゆさゆさ揺すられレオンの先端がいつもとは違う場所へあたる。激しさはないのにたまらない快感が膨れ上がった。騎乗位でかかる自重とは違い、深く刺さるこの体勢は苦しいのに、レオンと密着してどこか甘ったるい。
「ひゃ、あっ……、んっ……あぁ、はぁ」
「声、抑えて?」
「んっ、んぁ……でき、なっ……」
落ちてしまわないよう必死にしがみついている。それ以外のことを気にする余裕はないのに、声をあげさせておきながら抑えろだなんて。
──薄く目を開けレオンを睨む。まったく効果はないとわかっていても、抗議せずにはいられなかった。
「そんな目で、煽らないで?」
「してなっ、ぃ…」
何をしても、言葉で言っても、すべてが無駄なような気がして、俺は翻弄されながら身を委ねることにした。ぎゅうっと腕に力を込め、ただレオンへ縋った。
頭の中が目の前の人で埋め尽くされていく。溶けそうな愉悦と、金色のレオン。隙間がなくなりそうだ。
いや、そうじゃない。
他には何もいらないから。だから埋め尽くされてしまっても構わない。
「レオ、ン……っ!」
下から突き上げられる度に、俺はまた声を零し続けた。
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