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忘却の婚約者を堕とせ
4.さあ、どこから攻めようか?
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「………っ!」
意識して声を落とす。頬を撫でていた指先を輪郭に沿って降ろし、顎先を持ち上げこちらへ向かせた。目を見開き、動揺している。
どうやらユンは俺の顔が気に入っているようで、わかっていて意味ありげに見詰めた。これまで欲を向けないよう抑えていたのだから見せたこともない欲望だ。俺の行動はほくそ笑んでしまうほど、ユンに対して効果があった。
「どこまで覚えているんだろう?確かめてみようか」
「ぁ、……っ」
顎から指先を耳へと移動した。薄い耳朶につけている菫青石のピアスは、俺の瞳と同じ色をしているものだ。婚約者となってすぐに、彼の所有を主張する意味で贈ってから何個目になるだろうか。
目に見えてわかりやすい所有の証は牽制でもある。本人に自覚があまりなく、その魅力的な存在に近寄る不穏因子は除きたいためだ。
「このピアスのこと、忘れてしまったかな?」
忘れていると言い張るのなら思い出させるまでだ。
あのときは多少の含みをもたせた。触れ合いがあってもよさそうな齢を迎え、ピアスをつけるときにわざと後ろからきゅうっと抱き締めたからだ。
耳から声を注ぎ、低く甘くがんじがらめにできればよいのに…できるわけもない妄想を浮かべながらいつくもの囁きを唱えた。
白い頬が薄っすら桃色に色付き、身を震わせていることに歓喜を憶えたのは言うまでもない。ユンからの好意が伝わり、もっと欲張ってもよさような手応えに、耳殻へ唇を寄せておいた。
「……わからな、いです…」
「そう……」
それを頑なに知らないと突き通すなら、こちらも手加減などするつもりはない。
すいっと目を細めて耳殻へキスを落とした。
「…っ……な、なにっ」
「さあ?覚えてないみたいだから、思い出してもらおうとしているだけ…ね?」
そのまま頬へ瞼へこめかみへ唇で順に触れていく。意味を持って触れ方を変え、掠めるだけじゃなくゆっくりしっとり…蕩かすやり方をする。
ふるっとユンの身体が震えているのは快感を拾っているのかもしれない。無垢な彼に俺が覚えさせたのだから、これほどの僥倖はない。
「ユンは……」
「…んっ」
意識がもう微睡んで、蕩けた顔をしていた。何も知らないがゆえに僅かに与えただけで身を任せようとしてくれた。
だからこそ、理由はどうあれ離れる算段などしたのなら許せなかった。
「……どこに行くつもりだった?」
「っ……その、…別にっ」
親指の腹で唇を撫で、下唇の真ん中をふにふに押す。果実のような膨らみにかじりつきたくなる。少しだけ開いた口の隙間に親指の先を入れ、歯に爪を当てた。拒むような門前をノックして、緩めるように促す。
躊躇いながらも徐々に隙間は広がりを見せ、俺は更に奥へ侵入させていった。
「……っ……ふっ………ん」
熱い口内で指先が舌に触れた。唾液のぬめりに逃げ惑う舌が蠢いて、本能的に捕食したくなる。虐めたいわけでもないのに追い詰め、酷くしてやりたい衝動が湧いた。
「…ユンは俺のモノだから。逃してあげないよ?忘れたのなら思い出してもらうだけ、……さあ覚悟して―――」
階段で打ち付けた体に痛みがあるとわかっていても容赦はしなかった。寝台へ横たえ口の中を掻き混ぜながら、上衣の釦を外していった。
「うっ、……っん、ん、っ」
「苦しい?でもね、ココは感じる場所だから……気持ちよくなるよ」
閉じることができない口角から唾液が零れ落ちる。首筋を伝ってたらりと肌が濡れていった。
上顎をしつこく撫で続け、時折舌の付根を擦る。強弱をつけて散々口腔内を嬲った。
首筋を伝う滴を辿って舌を這わせていく。尖らせた舌先を時折グリッと押し付ければ肌がビクついて、口の中で愛撫している指に歯が立った。
「ああ……首が弱いんだね。もっとしてあげる」
クスッと小さく笑いながら、首筋を強く吸い上げた。赤い鬱血痕をいつくも散らし、口から指を引き抜いた。
はふっ、と自由になった呼吸に熱くなった吐息が溢れ、唾液で艷やかになった唇が誘っていた。
「濡れた果実みたいに美味しそうな唇……俺の名前思い出した?」
「ぁ、ぁ、…フリード、リヒさま…」
「うん、まだ様つけるんだ。もうちょっとか…」
少しずつ意識を奪いながら思考を埋めていく。それでも残った理性が邪魔をしているようで、ユンは崩れない。
舌が回らず甘ったれた言い方は庇護欲を掻き立てられた。いや、かえって煽られているのかもしれない。
「かわいい…いっぱい感じて、いっぱい気持ちよくなって」
合わせるだけのキスをする。だいぶトロンと蕩けているようで、反応が鈍くなっていた。
意識があるときに口付けるのは初めてだ。寝てしまえば無防備な彼にキスをしても気付かれない。初めはほんの好奇心から始まり、次第に愛情が溢れ、独占欲や劣情といった欲が含まれるようになった。舌を含ませ吸い上げ、歯列へ這わせたことはこれまで何度もあった。
「寝ているときにしても、身体は覚えてるんだね」
聞こえてはいないだろうから、小さく真実を告げておく。
幾度か啄み、ふるりと震える果実を食む。執拗に繰り返していると、ユンの方から舌先を伸ばしてきた。
彼が砂のようにさらさら堕ちてくる様は、狙っていたことだとしても笑みが漏れる。
ちゅうっと吸い付き俺の口内へ誘い入れる。舌裏を舐め、脇をくすぐり、丁寧に嬲っていった。くちゅくちゅ水音が響き、すがるように弱々しく俺の服を掴んでいる指先が反応していた。
感じてビクッと戦慄いている。わかりやすいその反応に、同じところを何度も突いた。
口の中は互いの唾液でいっぱいになり、自然と上向いているユンに注がれる。甘ったるい喉奥からの声に紛れ、コクッと嚥下して鳴った音に薄く笑ってしまった。
意識して声を落とす。頬を撫でていた指先を輪郭に沿って降ろし、顎先を持ち上げこちらへ向かせた。目を見開き、動揺している。
どうやらユンは俺の顔が気に入っているようで、わかっていて意味ありげに見詰めた。これまで欲を向けないよう抑えていたのだから見せたこともない欲望だ。俺の行動はほくそ笑んでしまうほど、ユンに対して効果があった。
「どこまで覚えているんだろう?確かめてみようか」
「ぁ、……っ」
顎から指先を耳へと移動した。薄い耳朶につけている菫青石のピアスは、俺の瞳と同じ色をしているものだ。婚約者となってすぐに、彼の所有を主張する意味で贈ってから何個目になるだろうか。
目に見えてわかりやすい所有の証は牽制でもある。本人に自覚があまりなく、その魅力的な存在に近寄る不穏因子は除きたいためだ。
「このピアスのこと、忘れてしまったかな?」
忘れていると言い張るのなら思い出させるまでだ。
あのときは多少の含みをもたせた。触れ合いがあってもよさそうな齢を迎え、ピアスをつけるときにわざと後ろからきゅうっと抱き締めたからだ。
耳から声を注ぎ、低く甘くがんじがらめにできればよいのに…できるわけもない妄想を浮かべながらいつくもの囁きを唱えた。
白い頬が薄っすら桃色に色付き、身を震わせていることに歓喜を憶えたのは言うまでもない。ユンからの好意が伝わり、もっと欲張ってもよさような手応えに、耳殻へ唇を寄せておいた。
「……わからな、いです…」
「そう……」
それを頑なに知らないと突き通すなら、こちらも手加減などするつもりはない。
すいっと目を細めて耳殻へキスを落とした。
「…っ……な、なにっ」
「さあ?覚えてないみたいだから、思い出してもらおうとしているだけ…ね?」
そのまま頬へ瞼へこめかみへ唇で順に触れていく。意味を持って触れ方を変え、掠めるだけじゃなくゆっくりしっとり…蕩かすやり方をする。
ふるっとユンの身体が震えているのは快感を拾っているのかもしれない。無垢な彼に俺が覚えさせたのだから、これほどの僥倖はない。
「ユンは……」
「…んっ」
意識がもう微睡んで、蕩けた顔をしていた。何も知らないがゆえに僅かに与えただけで身を任せようとしてくれた。
だからこそ、理由はどうあれ離れる算段などしたのなら許せなかった。
「……どこに行くつもりだった?」
「っ……その、…別にっ」
親指の腹で唇を撫で、下唇の真ん中をふにふに押す。果実のような膨らみにかじりつきたくなる。少しだけ開いた口の隙間に親指の先を入れ、歯に爪を当てた。拒むような門前をノックして、緩めるように促す。
躊躇いながらも徐々に隙間は広がりを見せ、俺は更に奥へ侵入させていった。
「……っ……ふっ………ん」
熱い口内で指先が舌に触れた。唾液のぬめりに逃げ惑う舌が蠢いて、本能的に捕食したくなる。虐めたいわけでもないのに追い詰め、酷くしてやりたい衝動が湧いた。
「…ユンは俺のモノだから。逃してあげないよ?忘れたのなら思い出してもらうだけ、……さあ覚悟して―――」
階段で打ち付けた体に痛みがあるとわかっていても容赦はしなかった。寝台へ横たえ口の中を掻き混ぜながら、上衣の釦を外していった。
「うっ、……っん、ん、っ」
「苦しい?でもね、ココは感じる場所だから……気持ちよくなるよ」
閉じることができない口角から唾液が零れ落ちる。首筋を伝ってたらりと肌が濡れていった。
上顎をしつこく撫で続け、時折舌の付根を擦る。強弱をつけて散々口腔内を嬲った。
首筋を伝う滴を辿って舌を這わせていく。尖らせた舌先を時折グリッと押し付ければ肌がビクついて、口の中で愛撫している指に歯が立った。
「ああ……首が弱いんだね。もっとしてあげる」
クスッと小さく笑いながら、首筋を強く吸い上げた。赤い鬱血痕をいつくも散らし、口から指を引き抜いた。
はふっ、と自由になった呼吸に熱くなった吐息が溢れ、唾液で艷やかになった唇が誘っていた。
「濡れた果実みたいに美味しそうな唇……俺の名前思い出した?」
「ぁ、ぁ、…フリード、リヒさま…」
「うん、まだ様つけるんだ。もうちょっとか…」
少しずつ意識を奪いながら思考を埋めていく。それでも残った理性が邪魔をしているようで、ユンは崩れない。
舌が回らず甘ったれた言い方は庇護欲を掻き立てられた。いや、かえって煽られているのかもしれない。
「かわいい…いっぱい感じて、いっぱい気持ちよくなって」
合わせるだけのキスをする。だいぶトロンと蕩けているようで、反応が鈍くなっていた。
意識があるときに口付けるのは初めてだ。寝てしまえば無防備な彼にキスをしても気付かれない。初めはほんの好奇心から始まり、次第に愛情が溢れ、独占欲や劣情といった欲が含まれるようになった。舌を含ませ吸い上げ、歯列へ這わせたことはこれまで何度もあった。
「寝ているときにしても、身体は覚えてるんだね」
聞こえてはいないだろうから、小さく真実を告げておく。
幾度か啄み、ふるりと震える果実を食む。執拗に繰り返していると、ユンの方から舌先を伸ばしてきた。
彼が砂のようにさらさら堕ちてくる様は、狙っていたことだとしても笑みが漏れる。
ちゅうっと吸い付き俺の口内へ誘い入れる。舌裏を舐め、脇をくすぐり、丁寧に嬲っていった。くちゅくちゅ水音が響き、すがるように弱々しく俺の服を掴んでいる指先が反応していた。
感じてビクッと戦慄いている。わかりやすいその反応に、同じところを何度も突いた。
口の中は互いの唾液でいっぱいになり、自然と上向いているユンに注がれる。甘ったるい喉奥からの声に紛れ、コクッと嚥下して鳴った音に薄く笑ってしまった。
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