【完結】運命なんかに勝てるわけがない

文字の大きさ
12 / 20
一ノ瀬 side

5.なぜそうなる

しおりを挟む

 二葉と体を重ね、本人の口から『番になる』という言葉を引き出した。無理強いしていないと言えば嘘になるが、一応は二葉の自主的な発言である。間違いなく自ら発したという事実が重要なのだ。

「ンッ、もっと、して⋯⋯おく、おくのほうがいい、っ⋯⋯ぁ、あ、ンッぁ」

 そんな二葉の声を聞いてしまえば、つい欲するがまま穿ってしまい、何度もスキンを着け替えることになった。

「いちのせっ、あっ、ぁッ⋯⋯い、いっ⋯⋯くる、くるからっ、んっ⋯⋯アッ──」

 抱き潰す勢いの本能。
 意識を飛ばし、ぐったり体勢を崩している二葉を抱き続けるわけにもいかず、渋々後孔からずるりと男根を引き抜いた。どうにか諌めた自分を褒めてやりたい。
 引き抜いた俺の陰茎はなお硬度を保ったままである。呆れと虚しさのはざまで乱雑に扱き、どうにか熱を発散させるしかなかった。

(⋯⋯肝心なことを言い忘れてる⋯⋯)

 ふと、冷静を取り戻したところで頭を抱えた。横たわる二葉を見やる。

 番になりたい、とは言った。もちろんそれだって心から望んでいることだ。なんら間違いではない。ただ『好きだ』とは一度も言えていなかった。
 これでは酒に酔わせてただ抱いたように思われるんじゃないか?

 いやいや。
 いくら酒に酔っていたとはいえ、なんとも思っていない相手に体まで許しはしないだろう。名前まで口にしていた。俺に対する二葉の態度はあきらかである。好意の欠片は疑いようがなかった。

 どんな内容でも話は弾むし、選ぶものにしろ出かける先にしろ、とにかく揉めたことがない。しっくりくる。好みも似たような趣向をしていた。番であることやバース性を抜きにしたって、二葉の隣はとにかく心地がよい。

「おまえだからなんだろうな」

 そう。気持ちは通じているはずだ。

(チョーカーを贈るか⋯⋯他のアルファに掻っ攫われてもな)

 二葉の体を清め、腕に抱いて眠ることにした。至福というのはこういうことなのか。初めて満ちた気持ちになり、腕の中の二葉がとにかく愛しかった。
 目を覚ましたらまず俺の気持ちを伝え、一気に口説き落とそう。

 と、改めて決心した。

 ところが、夜中だというのに実家の姉からスマホへメッセージが届き、しつこく『顔を出せ』という文字が見えた。行ったところでどうせ大したことない用なのだ。当然、すべてのメッセージを無視することにした。

 ところが、『かわいいわね、二葉くん』という文言が添えられていることに気づき、さすがに無視するわけにもいかなくなった。
 ちなみに姉もアルファである。俺を呼び寄せるための煽り文句だとしても、二葉に興味を持つなど不愉快極まりない。

(何の用だ)

 苛立ちながらも姉を黙らせるため『午前中に行く』と返信し、土日は実家へ顔を出すことになった。往復の時間を考えると、二葉とゆっくり過ごす時間は確保できそうにない。

 二葉が寝ている間にそんなやりとりがあったため、翌朝は後ろ髪を引かれる思いで別れ、俺は足取り重く実家へ向かうことにした。



 で。
 ようやく二葉に会える翌週だ。大して話もせずに別れたことが気がかりで、俺の気持ちを早く伝えたかった。
 次の発情期には番って、これから二人の生活環境をどう整えていくか、そんな話もしていきたいと思っていた。

(なぜ、そうなる⋯⋯?)

 意気込む俺を嘲笑うかのように、二葉の首にはチョーカーが着けられていた。これまで無防備にうなじを晒していたほうが問題で、咬合事故を防ぐ目的ならなんらおかしいことじゃない。
 ただ、タイミングがタイミングだ。もちろん俺が贈ったものじゃない。簡単には外せないような暗証番号を打ち込むタイプ。それをセックスしたあとにわざわざ着けられたらたまったもんじゃない。

 気まずそうな顔が、着けてきた理由を物語っている。

「⋯⋯おまえ、それどういうことだ?」

 二葉をひとけのない場所へ連れ出し詰め寄ると、しどろもどろに言い訳を並べ始めた。聞けばわざわざ比較して、まるで俺を遠ざけるような言い方をしている。

 挙句の果てに──

「だから俺じゃなくて⋯⋯よくない? もっと他の⋯⋯」

 なんだそれ。

 その言葉を聞いて、さすがに俺の中で何かがブチギレた。
 独り善がりだったとでもいうのか? これだけはっきり惹かれ合っているというのに? 二葉じゃ釣り合わないから別の誰かにしろって。自分の好意を認識していないんじゃないよな。それとも自覚がないのか? 本気で?

 抜けているところがあるとは思っていたが、まさか自分の気持ちに気づいていないとかあり得るんだろうか。いや二葉なら頷ける気がした。

「⋯⋯わかった」

 姉の予想どおりというわけか。
 そうだな、それなら自覚してもらおうじゃないか。
 番の存在と、無自覚にフェロモンで誘うほど俺に惚れているということを。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】逃亡オメガ、三年後に無事捕獲される。

N2O
BL
幼馴染の年上αと年下Ωがすれ違いを、不器用ながら正していく話。 味を占めて『上・中・下』の三話構成、第二弾!三万字以内!(あくまで予定、タイトルと文量変わったらごめんなさい) ⇨無事予定通り終わりました!(追記:2025.8.3) ※オメガバース設定をお借りしています。独自部分もあるかも。 ※素人作品、ふんわり設定許してください。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

αとβじゃ番えない

庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。 愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...