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一ノ瀬 side
5.なぜそうなる
しおりを挟む二葉と体を重ね、本人の口から『番になる』という言葉を引き出した。無理強いしていないと言えば嘘になるが、一応は二葉の自主的な発言である。間違いなく自ら発したという事実が重要なのだ。
「ンッ、もっと、して⋯⋯おく、おくのほうがいい、っ⋯⋯ぁ、あ、ンッぁ」
そんな二葉の声を聞いてしまえば、つい欲するがまま穿ってしまい、何度もスキンを着け替えることになった。
「いちのせっ、あっ、ぁッ⋯⋯い、いっ⋯⋯くる、くるからっ、んっ⋯⋯アッ──」
抱き潰す勢いの本能。
意識を飛ばし、ぐったり体勢を崩している二葉を抱き続けるわけにもいかず、渋々後孔からずるりと男根を引き抜いた。どうにか諌めた自分を褒めてやりたい。
引き抜いた俺の陰茎はなお硬度を保ったままである。呆れと虚しさのはざまで乱雑に扱き、どうにか熱を発散させるしかなかった。
(⋯⋯肝心なことを言い忘れてる⋯⋯)
ふと、冷静を取り戻したところで頭を抱えた。横たわる二葉を見やる。
番になりたい、とは言った。もちろんそれだって心から望んでいることだ。なんら間違いではない。ただ『好きだ』とは一度も言えていなかった。
これでは酒に酔わせてただ抱いたように思われるんじゃないか?
いやいや。
いくら酒に酔っていたとはいえ、なんとも思っていない相手に体まで許しはしないだろう。名前まで口にしていた。俺に対する二葉の態度はあきらかである。好意の欠片は疑いようがなかった。
どんな内容でも話は弾むし、選ぶものにしろ出かける先にしろ、とにかく揉めたことがない。しっくりくる。好みも似たような趣向をしていた。番であることやバース性を抜きにしたって、二葉の隣はとにかく心地がよい。
「おまえだからなんだろうな」
そう。気持ちは通じているはずだ。
(チョーカーを贈るか⋯⋯他のアルファに掻っ攫われてもな)
二葉の体を清め、腕に抱いて眠ることにした。至福というのはこういうことなのか。初めて満ちた気持ちになり、腕の中の二葉がとにかく愛しかった。
目を覚ましたらまず俺の気持ちを伝え、一気に口説き落とそう。
と、改めて決心した。
ところが、夜中だというのに実家の姉からスマホへメッセージが届き、しつこく『顔を出せ』という文字が見えた。行ったところでどうせ大したことない用なのだ。当然、すべてのメッセージを無視することにした。
ところが、『かわいいわね、二葉くん』という文言が添えられていることに気づき、さすがに無視するわけにもいかなくなった。
ちなみに姉もアルファである。俺を呼び寄せるための煽り文句だとしても、二葉に興味を持つなど不愉快極まりない。
(何の用だ)
苛立ちながらも姉を黙らせるため『午前中に行く』と返信し、土日は実家へ顔を出すことになった。往復の時間を考えると、二葉とゆっくり過ごす時間は確保できそうにない。
二葉が寝ている間にそんなやりとりがあったため、翌朝は後ろ髪を引かれる思いで別れ、俺は足取り重く実家へ向かうことにした。
で。
ようやく二葉に会える翌週だ。大して話もせずに別れたことが気がかりで、俺の気持ちを早く伝えたかった。
次の発情期には番って、これから二人の生活環境をどう整えていくか、そんな話もしていきたいと思っていた。
(なぜ、そうなる⋯⋯?)
意気込む俺を嘲笑うかのように、二葉の首にはチョーカーが着けられていた。これまで無防備にうなじを晒していたほうが問題で、咬合事故を防ぐ目的ならなんらおかしいことじゃない。
ただ、タイミングがタイミングだ。もちろん俺が贈ったものじゃない。簡単には外せないような暗証番号を打ち込むタイプ。それをセックスしたあとにわざわざ着けられたらたまったもんじゃない。
気まずそうな顔が、着けてきた理由を物語っている。
「⋯⋯おまえ、それどういうことだ?」
二葉をひとけのない場所へ連れ出し詰め寄ると、しどろもどろに言い訳を並べ始めた。聞けばわざわざ比較して、まるで俺を遠ざけるような言い方をしている。
挙句の果てに──
「だから俺じゃなくて⋯⋯よくない? もっと他の⋯⋯」
なんだそれ。
その言葉を聞いて、さすがに俺の中で何かがブチギレた。
独り善がりだったとでもいうのか? これだけはっきり惹かれ合っているというのに? 二葉じゃ釣り合わないから別の誰かにしろって。自分の好意を認識していないんじゃないよな。それとも自覚がないのか? 本気で?
抜けているところがあるとは思っていたが、まさか自分の気持ちに気づいていないとかあり得るんだろうか。いや二葉なら頷ける気がした。
「⋯⋯わかった」
姉の予想どおりというわけか。
そうだな、それなら自覚してもらおうじゃないか。
番の存在と、無自覚にフェロモンで誘うほど俺に惚れているということを。
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