ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ～皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます！～

１～１０話

２d、私は置かれた状況をわかっていない

「これで契約は全てつつがなく完了しました。どうぞ、お好きなようにお楽しみ下さい」

　手足の枷の鍵を渡しながらオーナーが告げる。

「この轡くつわは取ると問題があるか？」

　今まで一言も発しなかった男の問いに驚いたのか一瞬の間が開くが、何事もなかったかのようにオーナーは続ける。

「いいえ、契約により自害も逃亡もできませんので首輪以外は全て外されても大丈夫ですよ」

　オーナーの言葉に頷くと、男は跪いたままの私の後頭部にある結び目を解き、口に噛まされていた布を取ってくれた。

　自害しないように着けられていたのか……。
　ずっと布を噛まされていた顎が違和感を覚え、あぐあぐと口を開け閉めする。

　それにしても自害も逃亡もできないだとか、あの文字がびっしりの契約書には書いてあったのだろうけど私本人は何も知らされていない。

　何ができて何ができないのだろう。
　禁止事項をしようとするとどうなるのだろう。
　恐ろしくて試す気にはなれないが。
　とりあえず、落札者の家から隙を見て逃亡することは叶わないらしい。



　フードの男に鎖を引かれ応接室を後にしながら、今後の暮らしを思って絶望が込み上げる。
　殴られるのだろうか。身体を弄ばれるのだろうか。悪戯に殺されるなんて事はないと願いたい。
　お先真っ暗、と考えた途端逆に目の前が真っ白になって、通路の固い床に崩れ落ちた。

「どうした？　何か病気か？」

　音に振り返った男が、屈み込んで顔を覗き込んでくる。

　寝不足と空腹にさらに極度の緊張が加わり、身体が限界を迎えたようだ。
　白く霞んだ視界の中、男の瞳の色だけが焼き付いて、私はそのまま意識を手放した。


　紅い瞳―――炎を閉じ込めたみたい。綺麗……