[完結]“引き籠もりの悪女”と言われ追放された公爵令嬢、実は最強の軍師でした!

青空一夏

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4 選ばれたシルヴィア

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 レオナルト王太子side
 《シルヴィア15歳》《レオナルト17歳》

 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•




 王宮の広間には、高位貴族の令嬢たちの肖像画が壁一面に並んでいた。豪華なドレスと輝く宝石を身にまとい、彼女たちはそれぞれ優雅な微笑みを浮かべ、最も美しく映えるポーズで描かれている。

 レオナルト王太子は17歳。そろそろ婚約者を選ぶ時期であり、それは国の安定を考慮して行われ、王位継承に直結する重要な儀式といえた。
 しかし、レオナルト王太子はその重要な儀式を、容姿だけで判断していた。側近から手渡された令嬢たちの釣書をろくに見ず、品定めするような眼差しを肖像画に向け、その前を行ったり来たり。
 
 「華やかさに欠けるなぁ」
 「ダメだ。目元が気に入らん」
 「鼻筋がもう少しすっきりと高かったら良かったのに……」

 まるで自分が完璧であるかのように、尊大な態度で令嬢たちを一人一人批判していた。

 そんななか、ふとレオナルト王太子の視線が、アルストレイン公爵家の双子の姉、シルヴィアの肖像画に留まった。驚きで目を見開き、じっと見つめながら固まっている。
 銀髪と金色の瞳を持ち、どこか神秘的で清廉な美しさを漂わせるシルヴィアは、いかにも王太子妃としてふさわしいと思った。

「これは……まさに俺にこそ、相応しいじゃないか」
 レオナルトは無意識に呟きながら、シルヴィアの肖像画に近づく。しかし、隣に並べられたセレスティーナの肖像画に気づくと、そちらにも興味深げな視線を向けた。セレスティーナは、金髪に大きな青い瞳を持つ可憐な少女だった。リボンやレースで飾られたドレスを纏い、まるで絵本の中の妖精のような愛らしさがある。
 
「妹のほうもなかなかだが……しかし、やはり姉のシルヴィアにしよう。白百合のような凜とした美しさを備えた、軍師アルストレイン公爵の長女。容姿も身分も俺に相応しい」

 
 
 ◆◇◆



 数日後、王家からの使者がアルストレイン公爵邸を訪れた。公爵夫妻はその特別な訪問に緊張した面持ちで迎え入れる。使者は厳かに、レオナルト王太子がシルヴィアを婚約者として選んだことを告げた。

 その言葉に、シルヴィアは驚きと戸惑いを隠せず、目の前で何が起きているのか理解できなかった。一方、妹のセレスティーナは黙ってその光景を見守っていたが、自分ではなく姉が選ばれたことに納得できない様子で、眉をひそめていた。

「――謹んでお受けします」
 ルドウィクとカトリーナシルヴィアの母はそう応じたが、二人の胸の内はセレスティーナと変わらない。
 
 ――なぜシルヴィア? セレスティーナのほうが王太子妃に相応しいのに!
 
 シルヴィアのおかげで軍師となり富と権力を手に入れたというのに、シルヴィアに対する感謝の気持ちは、アルストレイン公爵夫妻には一切なかったのである。



 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
 ※人物整理
 ルドヴィク:シルヴィアの父。アルストレイン公爵。
 カトリーナ:シルヴィアの母。アルストレイン公爵夫人。
 セレスティーナ:シルヴィアの双子の妹。
 レオナルト王太子:エグリス王国の王太子。
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