[完結]“引き籠もりの悪女”と言われ追放された公爵令嬢、実は最強の軍師でした!

青空一夏

文字の大きさ
6 / 10

6 デビュタント-2

しおりを挟む
 デビュタント当日、空は次第に深い藍色に染まり、夕暮れの最後の光が消えかけていた。空の端には、淡いオレンジ色が残っているが、それも瞬く間に消え去り、夜の静けさがアルストレイン公爵邸を包み込む。
 シルヴィアは窓際に立ち、外の様子をじっと見つめていた。
 
 玄関前では、妹のセレスティーナが馬車に乗り込む瞬間だった。その姿は月の光を浴びて、まるで本物の妖精のように愛らしく、両親からの無償の愛を一身に受ける存在として、輝いて見えた。

 セレスティーナが幸せそうに微笑み、使用人たちに手を振りながら馬車に乗り込み、両親が付き添う。シルヴィアはその光景を見守りながら、胸が締め付けられる思いだった。自分だけが、この家で異質な存在のように感じ、苦しさが込み上げてくる。

 ――私には好きなことをする自由すらないのね。この部屋は、私を軍師の仕事しかさせない檻なんだ。

 シルヴィアの心の中で、ふと過去の出来事が蘇る。セレスティーナがレース編みを習い始めた頃のことだ。シルヴィアもしてみたい、と思った。父に頼みこみ、レース編みを習いたいとねだったが、その願いはあっさりと打ち砕かれた。

「お前がやるべきことは戦略を立て、より良い戦術を生み出すこと。レース編みなど時間の無駄だ」
 その言葉に、シルヴィアはただ黙って頷くしかなかった。彼女の手から糸とかぎ針が取り上げられ、代わりに兵士の人形を渡される。

 

 ルドヴィクはエグリス軍の最強の軍師として知られていた。それはシルヴィアのお陰でつけた地位であり、その地位にふさわしい仕事をしなければならない。だが、ルドヴィクはそのあらゆる仕事をシルヴィアに押し付け、自分はその間、悠々自適に過ごしていた。
 
 バルディア軍への戦略の立案から、軍の動向に関する調整、部隊ごとの戦術会議にあげる内容まで、すべてをシルヴィアが考えるのだ。

 父がそれを実行して名声を高めている間、シルヴィアは自室にこもり続け、次の対策を考える。父が名声を高めれば高めるほど、シルヴィアの仕事は増えていった。

 かつては自ら喜んで考えた軍事戦略も、今では義務感だけでこなしている。好きなことをする自由すら与えられず、ただひたすらに父のために働かされていた。

 シルヴィアは、ふと空を見上げ、深くため息を吐く。

 ――もし私がこの才能を持っていなければ、セレスティーナと一緒にレース編みを楽しんだり、お茶会を開いて笑いあったりできたの? もし男として生まれていれば父の影にならず、若き軍師として名を上げることができたの?

 シルヴィアは自室にひとり、仕事に追われる日々を送っている。自由もなく、喜びもなく、ただ与えられた任務をこなすだけの日々。それが罰のように感じられた。

 ――私に罪があるとすれば、妹の言うように、男に生まれなかったことかしらね……


 

 さらに、シルヴィアには王太子妃になるべく教育もあり、授業を受けるため頻繁に王宮にも出向かなければならなかった。しかし、授業後はすぐに帰宅するよう言われていたため、王太子と交流を深める時間さえない。
 
 
 一方、レオナルト王太子は――

 
 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
 ※次話、レオナルト王太子がシルヴィアに不満を抱き、婚約破棄する場面となります。
 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

「価値がない」と言われた私、隣国では国宝扱いです

ゆっこ
恋愛
「――リディア・フェンリル。お前との婚約は、今日をもって破棄する」  高らかに響いた声は、私の心を一瞬で凍らせた。  王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私は静かに頭を垂れていた。  婚約者である王太子エドモンド殿下が、冷たい眼差しで私を見下ろしている。 「……理由を、お聞かせいただけますか」 「理由など、簡単なことだ。お前には“何の価値もない”からだ」

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に

ゆっこ
恋愛
 王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。  私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。 「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」  唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。  婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。 「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」  ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。

婚約破棄されてイラッときたから、目についた男に婚約申し込んだら、幼馴染だった件

ユウキ
恋愛
苦節11年。王家から押し付けられた婚約。我慢に我慢を重ねてきた侯爵令嬢アデレイズは、王宮の人が行き交う大階段で婚約者である第三王子から、婚約破棄を告げられるのだが、いかんせんタイミングが悪すぎた。アデレイズのコンディションは最悪だったのだ。

心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました

er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

処理中です...