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続編幕前話 ――Before the curtain――
《Before the curtain01》 Prologue――故郷からの報せ
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「くっっはぁ~っ! 一仕事終えた後のこの一杯っ! ほど良く疲れた身体に沁み渡るぅ~」
空に浮かんでいた陽が彼方に沈み、徐々に辺りが暗闇に包まれ始める頃。リアベルの街、そのギルド会館に併設されている食事スペースでは、あるテーブル席に座ったソアラがジョッキに入ったツグナ特製のジュースをぐびぐびと喉の奥に流し込んでいた。
レバンティリア神聖国内のクーデターを契機とした世界大戦。それは、かの国が造り出した魔人を戦地に投入し、「ユスティリア王国」・「メフィストバル帝国」という二大国を相手に、このイグリア大陸全土を巻き込んだ戦争。
その戦争が終結を見せてからおよそ半年もの時間が流れた。それほどの時が経過したにもかかわらず、未だ大陸の各地で戦争の爪痕が残り、復興作業が進められている。そうしたなか、この世界大戦を終結に導いた立役者であるレギオン「ヴァルハラ」は、少しずつではあるものの、いつも通りの「日常」へと戻っていた。
「それにしても、今日も今日とてハイペースだったわね。討伐依頼が二十に、薬草の採取依頼が三十って。しかも、そのどれもが難易度高めのヤツで、おまけに長期間手付かずだったものばかり……よくもまぁこれだけ掻っ攫ってきたものね。採取依頼って割と簡単そうに見られがちなんだけど、薬草って本当に様々な種類のものがあるし、採取の仕方によっては折角の薬草もダメにしてしまうから、地味に面倒なのよね。特に今回の『ブルーグラフィリアの花』は根の一緒に採らないとすぐに枯れてしまうものだし……」
「そっちもお疲れ様ね。私の方は討伐系の依頼だったのだけれど、もう当分の間は『グリーンキャタピラー』の討伐依頼は受けたくないわ。そもそもこの依頼自体、兄さんのもとにグリーンキャタピラーの大量発生の報せが舞い込んできたのが発端なのだけれど、丁度兄さんが自分の担当分の依頼に取り掛かっちゃって。空いているメンバーで適任者と思えるのが私だったから仕方なくレギオンを代表して代わりに私が討伐したのだけれど……あの虫が上げる独特の断末魔……夢に出てきそう」
ソアラの向かいの席では、キリアとリーナの魔法職二人組がややげんなりとした顔でため息交じりに今日一日を振り返った感想を呟き合っていた。
なお、ブルーグラフィリアの花は麻痺・毒・魅了・幻覚といった複数の状態異常を解消させる効果のある薬の原料となる。しかし、この花はごく限られた区域にのみ分布しており、その周辺には凶悪な魔物が多数棲息しているため、採取依頼の中でも難易度が高いものとなっている。
他方、リーナが達成した「グリーンキャタピラー」は、体長が5メラにも及ぶ巨大な緑色の芋虫である。ウネウネと動く様は、まさに「気色悪い」の一言で、冒険者の間でも「出会いたくない魔物ランキング」の上位に入る魔物である。この魔物は糸を吐く程度の攻撃手段しかないため、比較的簡単に討伐が可能だ。
しかし、倒される間際に発せられる断末魔と、傷口や撒き散らされた体液から立ち昇る匂いには、他の魔物を誘引する附属効果を持っている。特に体液は「ゴブリン以上」とも言われるほど落ちにくく、水にさらした程度では落とすことができない。そのため、討伐には魔法主体で一気に殲滅させる他ないため、この魔物の討伐依頼にはリーナのような高火力の魔術師が駆り出される傾向が強い。
ちなみにグリーンキャタピラーの討伐による死亡事故の多くは、この断末魔と匂いに誘引された魔物により命を落としているケースが圧倒的に多い。そのため、この魔物には「初心者殺し」の異名も併せ持っている。
「アハハッ! キリアもリーナ姉もお疲れだねぇ~。まぁ私とソアラは身体を動かしている方が性に合ってるから、『疲れた』って言うよりも『楽しかった』って言うのが正直なところかなぁ~」
疲労感を露わにする二人とは対照的に、アリアはニカッと笑いながらジュースの入ったジョッキを片手に呟く。
「はぁ……そっちは単純でいいわねぇ~」
「そうねぇ~」
笑いながら呟くアリアに、キリアとリーナは「この脳筋が!」と突っ込む言葉の代わりにため息を漏らす。
「おぅ、待たせた。カウンターが混雑してたから、思ってたよりも時間を食っちまったよ」
そんな彼女らのテーブルに、報告手続きを終えたツグナが訪れる。
「いえ、大丈夫ですよ兄さん。ですが、辺りも暗いですし……今日の夕食はどこかで食べていきませんか?」
「おっ! リーナ姉、それいい! ツグ兄、私もサンセー!」
リーナの提案に、妹のアリアが手を挙げながら賛同を示して援護射撃をする。
「ふむ……そうだな。これから準備するとさらに食べるのが遅くなるし……仕方がない。今日の夕飯は外で食べるとするか。丁度、懐もあったかいことだしな」
双子の妹たちに押される形ではあったものの、ツグナは笑いながらその提案を受け入れる。
「やったあっ! さっすがツグ兄っ! じゃあじゃあ、それならどこで食べる? と言っても、私はあの店以外の料理屋ってよく知らないんだけどね」
満面の笑みで嬉しさを爆発させるアリアは、自分の意見を出しながらも、早速レギオンのメンバーに訊ねる。
「う~ん、そぉねぇ。最近出来た料理店も気になるけれど……でも、行くならあのお店かしら」
「やっぱりあそこかな?」
「ですね。私もそこがいいと思うわ」
彼女の問いに、キリア・ソアラ・リーナの順に呟きながら互いの顔を見合わせる。
「……それで? 決まったか?」
やや間を置いて訊ねたツグナに、女性陣はニヤリと笑いながら声を揃えて店名を告げる。
「「「「木の葉月亭で!」」」」
見事に一致をした意見に、ツグナは苦笑いを浮かべながら呟く。
「ったく、いっつもその店じゃねぇか。まぁ俺もそこがいいかなぁ、とは思ってたけどさ」
ツグナがこのリアベルにやって来てから利用している馴染みの店――木の葉月亭。ここは宿をメインのサービスとして提供しているものの、広めな食事スペースあることから、昼と夜は食堂としても事業を展開している。
ツグナたち「ヴァルハラ」の面々は、この店のヘビーユーザーで、ギルドで依頼をこなした後によく利用している店であった。その利用頻度はツグナも自覚するほどで、「もしポイントカードがあったらすぐに溜まるだろうな……」と場違いな思いを抱くほどだ。
「んじゃ、店も決まったことだし。早速向かうか」
「そうだねー。結構な人気店だから、早く行かないとすぐ満席になっちゃうんだよね~」
人数分の空ジョッキをリーナから受け取って回収したツグナは、それをアイテムボックスに放り込む。
「あっ、そうだソアラ。さっき、依頼の達成報告をした時に受付のユティスからこれを渡されたんだが……」
席を立ち、ギルドの入口へと足を向けたソアラを呼び止めたツグナは、空ジョッキを突っ込んだ腕を引き抜き、ジョッキの代わりに掴んだ手紙を彼女に差し出す。
「うん? 手紙……?」
渡された手紙を受け取り、中身を開けたソアラはそこに書かれた内容を読んで思わず目を見開く。
「おい、どうした……?」
手紙を開いたまま固まるソアラに、不安を覚えたツグナが訊ねると――
「……が、……れた……って」
「……へっ?」
反射的に訊き返したツグナに、ソアラは今一度、ハッキリと聞こえる声量で答える。
「お母さんが――倒れた、って」
ポツリと彼女の口から零れた言葉に、ツグナだけではなくその場にいた他の面々の顔も凍りついた。
====================================================
以下、アトガキ。
幕前=Before the curtain と当てていますが、ホントに直訳過ぎるので、どなたか適切な訳をご存知でしたら教えてもらえると嬉しいです。
空に浮かんでいた陽が彼方に沈み、徐々に辺りが暗闇に包まれ始める頃。リアベルの街、そのギルド会館に併設されている食事スペースでは、あるテーブル席に座ったソアラがジョッキに入ったツグナ特製のジュースをぐびぐびと喉の奥に流し込んでいた。
レバンティリア神聖国内のクーデターを契機とした世界大戦。それは、かの国が造り出した魔人を戦地に投入し、「ユスティリア王国」・「メフィストバル帝国」という二大国を相手に、このイグリア大陸全土を巻き込んだ戦争。
その戦争が終結を見せてからおよそ半年もの時間が流れた。それほどの時が経過したにもかかわらず、未だ大陸の各地で戦争の爪痕が残り、復興作業が進められている。そうしたなか、この世界大戦を終結に導いた立役者であるレギオン「ヴァルハラ」は、少しずつではあるものの、いつも通りの「日常」へと戻っていた。
「それにしても、今日も今日とてハイペースだったわね。討伐依頼が二十に、薬草の採取依頼が三十って。しかも、そのどれもが難易度高めのヤツで、おまけに長期間手付かずだったものばかり……よくもまぁこれだけ掻っ攫ってきたものね。採取依頼って割と簡単そうに見られがちなんだけど、薬草って本当に様々な種類のものがあるし、採取の仕方によっては折角の薬草もダメにしてしまうから、地味に面倒なのよね。特に今回の『ブルーグラフィリアの花』は根の一緒に採らないとすぐに枯れてしまうものだし……」
「そっちもお疲れ様ね。私の方は討伐系の依頼だったのだけれど、もう当分の間は『グリーンキャタピラー』の討伐依頼は受けたくないわ。そもそもこの依頼自体、兄さんのもとにグリーンキャタピラーの大量発生の報せが舞い込んできたのが発端なのだけれど、丁度兄さんが自分の担当分の依頼に取り掛かっちゃって。空いているメンバーで適任者と思えるのが私だったから仕方なくレギオンを代表して代わりに私が討伐したのだけれど……あの虫が上げる独特の断末魔……夢に出てきそう」
ソアラの向かいの席では、キリアとリーナの魔法職二人組がややげんなりとした顔でため息交じりに今日一日を振り返った感想を呟き合っていた。
なお、ブルーグラフィリアの花は麻痺・毒・魅了・幻覚といった複数の状態異常を解消させる効果のある薬の原料となる。しかし、この花はごく限られた区域にのみ分布しており、その周辺には凶悪な魔物が多数棲息しているため、採取依頼の中でも難易度が高いものとなっている。
他方、リーナが達成した「グリーンキャタピラー」は、体長が5メラにも及ぶ巨大な緑色の芋虫である。ウネウネと動く様は、まさに「気色悪い」の一言で、冒険者の間でも「出会いたくない魔物ランキング」の上位に入る魔物である。この魔物は糸を吐く程度の攻撃手段しかないため、比較的簡単に討伐が可能だ。
しかし、倒される間際に発せられる断末魔と、傷口や撒き散らされた体液から立ち昇る匂いには、他の魔物を誘引する附属効果を持っている。特に体液は「ゴブリン以上」とも言われるほど落ちにくく、水にさらした程度では落とすことができない。そのため、討伐には魔法主体で一気に殲滅させる他ないため、この魔物の討伐依頼にはリーナのような高火力の魔術師が駆り出される傾向が強い。
ちなみにグリーンキャタピラーの討伐による死亡事故の多くは、この断末魔と匂いに誘引された魔物により命を落としているケースが圧倒的に多い。そのため、この魔物には「初心者殺し」の異名も併せ持っている。
「アハハッ! キリアもリーナ姉もお疲れだねぇ~。まぁ私とソアラは身体を動かしている方が性に合ってるから、『疲れた』って言うよりも『楽しかった』って言うのが正直なところかなぁ~」
疲労感を露わにする二人とは対照的に、アリアはニカッと笑いながらジュースの入ったジョッキを片手に呟く。
「はぁ……そっちは単純でいいわねぇ~」
「そうねぇ~」
笑いながら呟くアリアに、キリアとリーナは「この脳筋が!」と突っ込む言葉の代わりにため息を漏らす。
「おぅ、待たせた。カウンターが混雑してたから、思ってたよりも時間を食っちまったよ」
そんな彼女らのテーブルに、報告手続きを終えたツグナが訪れる。
「いえ、大丈夫ですよ兄さん。ですが、辺りも暗いですし……今日の夕食はどこかで食べていきませんか?」
「おっ! リーナ姉、それいい! ツグ兄、私もサンセー!」
リーナの提案に、妹のアリアが手を挙げながら賛同を示して援護射撃をする。
「ふむ……そうだな。これから準備するとさらに食べるのが遅くなるし……仕方がない。今日の夕飯は外で食べるとするか。丁度、懐もあったかいことだしな」
双子の妹たちに押される形ではあったものの、ツグナは笑いながらその提案を受け入れる。
「やったあっ! さっすがツグ兄っ! じゃあじゃあ、それならどこで食べる? と言っても、私はあの店以外の料理屋ってよく知らないんだけどね」
満面の笑みで嬉しさを爆発させるアリアは、自分の意見を出しながらも、早速レギオンのメンバーに訊ねる。
「う~ん、そぉねぇ。最近出来た料理店も気になるけれど……でも、行くならあのお店かしら」
「やっぱりあそこかな?」
「ですね。私もそこがいいと思うわ」
彼女の問いに、キリア・ソアラ・リーナの順に呟きながら互いの顔を見合わせる。
「……それで? 決まったか?」
やや間を置いて訊ねたツグナに、女性陣はニヤリと笑いながら声を揃えて店名を告げる。
「「「「木の葉月亭で!」」」」
見事に一致をした意見に、ツグナは苦笑いを浮かべながら呟く。
「ったく、いっつもその店じゃねぇか。まぁ俺もそこがいいかなぁ、とは思ってたけどさ」
ツグナがこのリアベルにやって来てから利用している馴染みの店――木の葉月亭。ここは宿をメインのサービスとして提供しているものの、広めな食事スペースあることから、昼と夜は食堂としても事業を展開している。
ツグナたち「ヴァルハラ」の面々は、この店のヘビーユーザーで、ギルドで依頼をこなした後によく利用している店であった。その利用頻度はツグナも自覚するほどで、「もしポイントカードがあったらすぐに溜まるだろうな……」と場違いな思いを抱くほどだ。
「んじゃ、店も決まったことだし。早速向かうか」
「そうだねー。結構な人気店だから、早く行かないとすぐ満席になっちゃうんだよね~」
人数分の空ジョッキをリーナから受け取って回収したツグナは、それをアイテムボックスに放り込む。
「あっ、そうだソアラ。さっき、依頼の達成報告をした時に受付のユティスからこれを渡されたんだが……」
席を立ち、ギルドの入口へと足を向けたソアラを呼び止めたツグナは、空ジョッキを突っ込んだ腕を引き抜き、ジョッキの代わりに掴んだ手紙を彼女に差し出す。
「うん? 手紙……?」
渡された手紙を受け取り、中身を開けたソアラはそこに書かれた内容を読んで思わず目を見開く。
「おい、どうした……?」
手紙を開いたまま固まるソアラに、不安を覚えたツグナが訊ねると――
「……が、……れた……って」
「……へっ?」
反射的に訊き返したツグナに、ソアラは今一度、ハッキリと聞こえる声量で答える。
「お母さんが――倒れた、って」
ポツリと彼女の口から零れた言葉に、ツグナだけではなくその場にいた他の面々の顔も凍りついた。
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以下、アトガキ。
幕前=Before the curtain と当てていますが、ホントに直訳過ぎるので、どなたか適切な訳をご存知でしたら教えてもらえると嬉しいです。
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