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続編幕前話 ――Before the curtain――
《Before the curtain03》 母と娘
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「んもぅ! ほんっっっとにビックリしたんだからね!」
「あっはっはっ! いくら首を長くして待てども、連絡一つ寄越さない娘だぞ? そんな子に突然『帰って来い』と言ったところで来るわけがないでしょうに。だったら嘘でも『身内の容態が……』って煽った方が期待できるってものよ。だいたい、ホイホイ騙される方が悪いとは思わないのかい?」
「むっきいいいぃぃぃっ! 事実なだけに言い返せない……けどその人をおちょくった態度が凄い腹立つッ!」
ソアラの家に通されたツグナたちは、居間で茶菓子を頬張りながら目の前で展開される「母娘漫才」のような騒がしいやり取りを見せられている。紅茶の入ったカップを傾けながら、泰然自若とした様子で話す母のレイラに対し、ソアラは地団太を踏みながら荒々しい口調で言い返す。
(ソアラ……完全に手玉に取られてるなぁ……)
母と娘の漫才を見てはそんな感想を抱きつつ、ツグナは出された茶菓子を口の中に放り込んだ。
「いやはや、騒がしくてすまないねぇ……いつもはもっと静かなんだけど……やっぱり久しぶりにソアラが帰って来てくれたのが思いのほか嬉しかったみたいだ。お代わりはいるかい?」
「あっ、どうもスミマセン。お願いします」
空になったツグナのカップに代わりの紅茶を入れながら、壮年の眼鏡をかけた狐人族の男性が小さな声で言葉を漏らす。ハキハキとエネルギッシュな印象のレイラとは対照的な、このおっとりとした物腰の男性はソアラの父である「アノン=レミントン」だ。茶色の頭髪に短めの耳、そして丸眼鏡が特徴のこの男性は、まず間違いなくレイラの夫なのだが、その夫婦のあまりのギャップにツグナは内心驚きの声を上げてしまったのはここだけの話だ。
彼の話によれば、この里は代々レイラの家が里長を務めており、現在は前任であるレイラの父から引き継いだ彼女が長として里内に住む狐人族を纏めているらしい。
アノンは里長であるレイラを支えており、里の財政や食糧に関する管理運営、里内の交渉・調整など、「ホントに一人でできるの!?」と思わず驚くほど幅広く携わっているらしい。その点を指摘したツグナに、当人は「今の『里』という少数の世帯だからこそできるのであって、世帯が多くなると難しいかも」と苦笑交じりに返していた。
「……というより、ソアラ。貴女、好きな男の一人や二人いないワケなの?」
「へっ? 急に何を――」
レイラからの問いにポカンと呆けた顔で訊き返すソアラに、すかさず「母親として」の彼女の言葉が宙を舞う。
「いや、だって貴女もいい歳じゃない。冒険者稼業もいいけれど、そろそろ将来を見据えたら? っていう親心よ。それで、どんな男がタイプなの?」
「ちょ、ちょっ――!?」
アノンの淹れた紅茶を飲みつつ、レイラがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら食い気味に問いかける。その言葉に、耳と頬を真っ赤に染めたソアラが言葉を詰まらせながらも制止しようと試みるものの、その態度が却って事態を悪化させてしまう。
「あらあら~っ? その反応は『いる』と見ていいのかしらねぇ? こっちとしてはそろそろ孫の顔も見たいんだけど」
「「「「ぶふっ!?」」」」
レイラの思わぬ発言に、その場に居合わせたツグナたちが一斉に咽る。ケホケホと咳をするツグナたちを尻目に、レイラは構わず話を続けた。
「何よ? まだ早いってことは無いハズでしょう? 私もソアラを産んだのは、今のソアラくらいの歳だったし……」
「う゛えっ……マジか?」
さらりと告げられた彼女の言葉に、ツグナが引き気味にソアラの方に顔を向けて訊ねる。というのも、レイラはとても「一児の母」とは思えぬほどのプロポーションであり、第三者であるツグナから見ても「綺麗だ」と素直に思えるほどだ。
こうしてやや引いた位置からソアラとレイラを捉えると、その光景は「母と娘」というよりもむしろ「姉と妹」との印象が強い。しかしながら、彼女の言葉も事実ではあった。それは、狐人族を始めとする獣人族は総じて結婚及び出産が早い傾向が強いことが挙げられる。これは生まれた子を早々に親の仕事を手伝わせる労働力と見なすためとも、早期に出産を経験させることで多産化を促すためとも言われている。
獣人族の種族的傾向は脇に置くとしても、彼女がリアベルの街を訪れれば、まず間違いなくレイラを巡る男共の醜い争奪戦が始まるだろう――そんなツグナの意見にリーナやアリア、キリアも賛同すると彼は確信を持っている。
「うん……マジ、らしい。おじさんに聞いたことがあるから、まず間違いはないと思う……」
ツグナの発した問いに対し、ソアラはやや表情を強張らせながらも頷いて答える。
(あれか? 狐人族の女性ってのは、みんな妖狐の類か何かなのか!? 俺が騙されてるってワケじゃないよな……)
不安を覚えたツグナは、さっと左右に座るリーナ・アリア・キリアに目配せして「俺の考えって間違ってないよな?」と訴える。そんな彼の訴えに対し、彼女らは「私も同じこと思った」と頷く仕草でもって返答する。
「はぁ……心配だよ。ウチの子に浮いた話の一つや二つはあるだろうと思ってみたけど、そんなことすら無いとはね。この里を出た時に渡したそのグローブも、『お気に入りの男が見つかったら、逃さずその糸で捕まえるようにしなさい』って思いを込めて渡したんだけどねぇ~」
「ええええええぇぇぇぇぇっ!?」
レイラの呟いた言葉に思わず目を剥いて驚くソアラに「冗談だよ」と悪戯っぽい笑みを浮かべながらも、母と娘の会話は続く。
気づけば陽は西の空に沈み、東の空には月と星が顔を覗かせる時間となっていた。
====================================================
以下、アトガキ。
・ソアラの髪の色は父親譲りです。
・ソアラの両腕に装備するグローブは、母親から譲り受けたものです。→ 詳しくは書籍版1巻参照のこと。
「あっはっはっ! いくら首を長くして待てども、連絡一つ寄越さない娘だぞ? そんな子に突然『帰って来い』と言ったところで来るわけがないでしょうに。だったら嘘でも『身内の容態が……』って煽った方が期待できるってものよ。だいたい、ホイホイ騙される方が悪いとは思わないのかい?」
「むっきいいいぃぃぃっ! 事実なだけに言い返せない……けどその人をおちょくった態度が凄い腹立つッ!」
ソアラの家に通されたツグナたちは、居間で茶菓子を頬張りながら目の前で展開される「母娘漫才」のような騒がしいやり取りを見せられている。紅茶の入ったカップを傾けながら、泰然自若とした様子で話す母のレイラに対し、ソアラは地団太を踏みながら荒々しい口調で言い返す。
(ソアラ……完全に手玉に取られてるなぁ……)
母と娘の漫才を見てはそんな感想を抱きつつ、ツグナは出された茶菓子を口の中に放り込んだ。
「いやはや、騒がしくてすまないねぇ……いつもはもっと静かなんだけど……やっぱり久しぶりにソアラが帰って来てくれたのが思いのほか嬉しかったみたいだ。お代わりはいるかい?」
「あっ、どうもスミマセン。お願いします」
空になったツグナのカップに代わりの紅茶を入れながら、壮年の眼鏡をかけた狐人族の男性が小さな声で言葉を漏らす。ハキハキとエネルギッシュな印象のレイラとは対照的な、このおっとりとした物腰の男性はソアラの父である「アノン=レミントン」だ。茶色の頭髪に短めの耳、そして丸眼鏡が特徴のこの男性は、まず間違いなくレイラの夫なのだが、その夫婦のあまりのギャップにツグナは内心驚きの声を上げてしまったのはここだけの話だ。
彼の話によれば、この里は代々レイラの家が里長を務めており、現在は前任であるレイラの父から引き継いだ彼女が長として里内に住む狐人族を纏めているらしい。
アノンは里長であるレイラを支えており、里の財政や食糧に関する管理運営、里内の交渉・調整など、「ホントに一人でできるの!?」と思わず驚くほど幅広く携わっているらしい。その点を指摘したツグナに、当人は「今の『里』という少数の世帯だからこそできるのであって、世帯が多くなると難しいかも」と苦笑交じりに返していた。
「……というより、ソアラ。貴女、好きな男の一人や二人いないワケなの?」
「へっ? 急に何を――」
レイラからの問いにポカンと呆けた顔で訊き返すソアラに、すかさず「母親として」の彼女の言葉が宙を舞う。
「いや、だって貴女もいい歳じゃない。冒険者稼業もいいけれど、そろそろ将来を見据えたら? っていう親心よ。それで、どんな男がタイプなの?」
「ちょ、ちょっ――!?」
アノンの淹れた紅茶を飲みつつ、レイラがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら食い気味に問いかける。その言葉に、耳と頬を真っ赤に染めたソアラが言葉を詰まらせながらも制止しようと試みるものの、その態度が却って事態を悪化させてしまう。
「あらあら~っ? その反応は『いる』と見ていいのかしらねぇ? こっちとしてはそろそろ孫の顔も見たいんだけど」
「「「「ぶふっ!?」」」」
レイラの思わぬ発言に、その場に居合わせたツグナたちが一斉に咽る。ケホケホと咳をするツグナたちを尻目に、レイラは構わず話を続けた。
「何よ? まだ早いってことは無いハズでしょう? 私もソアラを産んだのは、今のソアラくらいの歳だったし……」
「う゛えっ……マジか?」
さらりと告げられた彼女の言葉に、ツグナが引き気味にソアラの方に顔を向けて訊ねる。というのも、レイラはとても「一児の母」とは思えぬほどのプロポーションであり、第三者であるツグナから見ても「綺麗だ」と素直に思えるほどだ。
こうしてやや引いた位置からソアラとレイラを捉えると、その光景は「母と娘」というよりもむしろ「姉と妹」との印象が強い。しかしながら、彼女の言葉も事実ではあった。それは、狐人族を始めとする獣人族は総じて結婚及び出産が早い傾向が強いことが挙げられる。これは生まれた子を早々に親の仕事を手伝わせる労働力と見なすためとも、早期に出産を経験させることで多産化を促すためとも言われている。
獣人族の種族的傾向は脇に置くとしても、彼女がリアベルの街を訪れれば、まず間違いなくレイラを巡る男共の醜い争奪戦が始まるだろう――そんなツグナの意見にリーナやアリア、キリアも賛同すると彼は確信を持っている。
「うん……マジ、らしい。おじさんに聞いたことがあるから、まず間違いはないと思う……」
ツグナの発した問いに対し、ソアラはやや表情を強張らせながらも頷いて答える。
(あれか? 狐人族の女性ってのは、みんな妖狐の類か何かなのか!? 俺が騙されてるってワケじゃないよな……)
不安を覚えたツグナは、さっと左右に座るリーナ・アリア・キリアに目配せして「俺の考えって間違ってないよな?」と訴える。そんな彼の訴えに対し、彼女らは「私も同じこと思った」と頷く仕草でもって返答する。
「はぁ……心配だよ。ウチの子に浮いた話の一つや二つはあるだろうと思ってみたけど、そんなことすら無いとはね。この里を出た時に渡したそのグローブも、『お気に入りの男が見つかったら、逃さずその糸で捕まえるようにしなさい』って思いを込めて渡したんだけどねぇ~」
「ええええええぇぇぇぇぇっ!?」
レイラの呟いた言葉に思わず目を剥いて驚くソアラに「冗談だよ」と悪戯っぽい笑みを浮かべながらも、母と娘の会話は続く。
気づけば陽は西の空に沈み、東の空には月と星が顔を覗かせる時間となっていた。
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以下、アトガキ。
・ソアラの髪の色は父親譲りです。
・ソアラの両腕に装備するグローブは、母親から譲り受けたものです。→ 詳しくは書籍版1巻参照のこと。
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