黒の創造召喚師

【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第018話 いざ征かん、学校という名の日常へ③

「ったく、それにしても男共と来たら……何というか、単純だよねぇ～」
「えっと……どういうことかしら？」
「へっ？」
　チラリと辺りを見やり、ニヤニヤと笑いながら呟いた楓の言葉に、リーナはキョトンとした表情を見せて訊ねる。

「えぇっとぉ～……マジ？」
　その至極真面目な表情に、楓は恐る恐る、「本気なのか？」と確認を込めて訊ねるが、相手は「だから……何が？」と変わらず素の表情で訊ね返してくる。

「はぁ……知らぬは本人ばかりなり、ってコトかしらね」
　呆れた調子で小さく呟いた楓は、未だにこの事態を呑み込めずに首を傾げているリーナに向けてそっと囁いた。

「あのね、分かってないようだから敢えて言うけど、このクラスの男子は、みんなリーナに夢中ってこと」
「えっ！？　わ、私に……！？」
　楓からストレートに告げられたリーナは、口に手を当てながら目を見開いて驚く。

「いや、そりゃそうでしょ。その流れるような、長くサラサラの黒い髪に吸い込まれそうな漆黒の瞳。佇まいは凛としつつも、その表情には包み込まれそうな暖かさがある。言葉遣いも丁寧で、むしろこっちが恐縮しちゃうくらいだし。『貴女って魅力的ね』ってどこぞの三文小説にでも出て来そうなベタな言葉がこれでもか！　っていうくらい当てはまるわよ」
「そっ、そう……なのね。認識不足だったわ。ありがとう」
　気圧される形で容姿を褒められたリーナは、どう返せばいいのか分からず、当たり障りのない言葉で取り敢えず感謝の念を示す。

　しかし、すぐに落ち着きを取り戻したリーナは、興奮する楓を宥めるように言葉をかけた。
「まぁでも……理解できなかったのも無理はないと思うのよ」
「えっ？　どうし――」
　苦笑を浮かべながら呟くリーナに、楓は反射的に訊ねようとしたものの、その紡がれた言葉は途中でプツリと途切れてしまう。

　なぜなら――

「あ、リーナだ。そっちはもう終わった？」
「ちょ、ちょっとソアラ。押さないで……」
「リーナ姉、こっちは終わったよ～。早くツグ兄のトコに行こうよ～」

　チラリと移した視線の先には、

　茶色の髪を靡なびかせ、ブンブンと大きく手を振りながら、快活に笑うソアラ
　高価な西洋人形を思わせる、金髪青眼のキリア
　リーナと同じ髪色と瞳を持つ妹、ポニーテール姿のアリア

　その３人が廊下に出る扉からこちらを見て待っていたからだ。

　彼女らの周囲は、いつの間にかやや距離を置いて人の輪が出来上がっていた。皆が皆、ソアラたちのことをチラチラと見ながら、興奮した様子で近くの友人らしい同級生と話し合っているのだ。

「えぇっと……リーナ？　アレってもしかして……」
　顔を若干引き攣らせながら訊ねる楓に、リーナはくすりと笑いながら答える。

「えぇ。お察しの通り、アレは私の『家族』よ。私と同じ髪色の子は、妹のアリア。他の２人は親戚のソアラにキリアね」
「そ、そうなんだ……」
　柔らかい物腰で告げたリーナは、手早く荷物をまとめて席を立つ。

「それじゃあ楓、今日はウチの家族と一緒に帰るわね。また時間があったら、その際は一緒に帰りましょう」
「えっ、うん。はい……」
　同性でもドキッとするような、女としての色香を混ぜた笑みに、楓は圧倒されつつ何とか言葉を返した。

「あれが……リーナの家族？　ハハッ……確かにあの中だと分からないわね。あんな――」

　――見惚れるほどの魅力的な人たちが家族なら。

　そんな楓の言葉はスッと溶けるように消えていった。