黒の創造召喚師

幾威空

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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第023話 ゴミはゴミ箱へ、クズはくずカゴへ④

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 4月も下旬に差しかかり、多くの人が差し迫ったゴールデンウィークをどう過ごそうかと計画を立て始める頃。ソアラは同じクラスの芹沢せりざわあかねと共に通学路を歩いていた。
「いやぁ~、しっかし色んな部活があるんだね」
「そうだよね、あり過ぎて迷っちゃうよね」
 笑いながら道を歩く女子生徒二人の背を、オレンジ色の夕陽が照らす。彼女らは自分が入部しようとする部活をいくつか見学していたため、これまでよりも帰宅時間が遅めになってしまっていた。
 ソアラも、この日は「先に帰ってていいからね」と告げており、ツグナとは別行動をとっている。

「けれど、意外だよ。茜ちゃん、背が小さいのにバレー部に入るなんて」
「あはは……まぁ中学でもやってたからね。リベロのポジションで。色々見学したけれど、やっぱりバレーが性に合ってるのかも」
「はぁ……すんなり決まっていいなぁ~。私は絶賛お悩み中なんだけど」
 カックリと頭を垂れて呻くソアラに、隣で歩く茜はパタパタと手を振りながら呟く。

「でもでも、ソアラちゃんも凄いよ! 空手とか柔道とか……初めてなのに『筋がいい』って言われてたじゃない」
「あはは……まぁねぇ……」
 格闘技系統のものは「実戦」済みだから、とはおくびにも出さず、ソアラはただ笑って流す。

 そして、駅が視界に捉えられ、茜と道を違える場所に辿り着こうとした時――二人の前に複数の男が行く手を遮るように立ちはだかる。

「ねぇ、ちょっと邪魔なんだけど……」
 道を塞ぐ男たちを前に、ソアラは一歩進んで不躾な態度で言葉をかける。

「あぁ、悪いな。だが、こっちはアンタに用があるんでね」
「用って何かしら? 生憎と私にはアナタたちのような連中に声をかけられる用事って思い至らないのだけど?」
 ニタニタと笑いながら話す男たちに、ソアラは苛立ちを隠さずに言葉を返す。
「へぇ……意外と強気な女だな。だが……そんな態度でいいのか?」
 ソアラに向かって口を開いた金髪ピアスの男が、くいっと顎をしゃくって「後ろを見な」と促す。ソアラが釣られるように男が促した先を見ると、そこには男の仲間と思われる人物が、茜の首筋にナイフの刃を宛がっていた。

「本当はお前一人の予定だったんだが……好都合だ。そっちのツレの女も一緒に連れて行こうか。その方が色々と話が進みそう・・・・・・だしな」
 茜に押し当てられるナイフを見たソアラが、ギリッと奥歯を噛んでわずかに身を震わせる。その態度を見た金髪ピアスの男は、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら移動し始める。

「ソアラちゃん……ごめんね」
「ううん、私は大丈夫だから」
 完全に足手まといとなってしまった茜は、目の端に涙を溜めながら小さく謝罪の言葉を口にする。一方、ソアラは首を横に振りながら気丈に振る舞い、大人しく男たちと連れ立って歩き始めた。

 それを遠くから見ていた颯太の存在に気づくことなく。


(た、大変だ……! 何とか、何とかならないのか!?)
 颯太は焦燥感に駆られるように、来た道を戻っていた。あの日、アリゲーターバイトの連中に捕まり、九条武治の前で「選択しろ」と迫られた颯太は、気付けばソアラに関する情報を喋り始めていた。
 情報を詳らかにした颯太は、約束通り拘束から解放された。だが、その後に待っていたのは地獄のような罪悪感だった。

 ――仕方が無かったんだ? 本当に?
 ――他人と家族なら、家族の方が大切だろ? それは自分の価値観だろ?

 自分を苛む、「人を売った」という得も言われぬ気持ち悪さ。そして、我が身可愛さから「他人の情報を売る」という選択をしたという事実に、苦しめられる日々を颯太は送った。
(もしかしたら、九条はそうして苦しむことを分かっていたが故に、敢えて「選択」という分かり易い提案をしたのかもしれない……)
 ふとそんな考えが颯太の脳裏を掠め、同時にあの凶悪な笑みが生々しく蘇る。

 だから、かもしれない。颯太は見逃された翌日から、ツグナ宛てに「警告」を仄めかす手紙を送り続けた。ソアラに関する情報を集める中、彼女といつも連れ立って登校するツグナのことは、颯太も早くからその存在を知っていた。そのため、手紙として残すことができたのだ。

 しかし、颯太にとって不運だったのは、ただの一度もその警告の手紙が送付先のツグナの目に触れる機会が無かったことだ。ソアラ――いや、レギオン「ヴァルハラ」の女性陣は、皆が皆道ゆく人が足を止めて振り返るほどの美貌を持つ。それが故に、ツグナのもとには、リーナから/アリアから/キリアから「手を引け」といった類の手紙が送られて来ていた。
 そうした手紙に混ざり、颯太の手紙はゴミ箱に捨てられてしまっていたのだ。

 もし、仮にツグナが全ての手紙に目を通していたのなら話は違っていたかもしれない。だが、現実は颯太の思い通りにはいかなかった。それでも、颯太は手紙を送り続けた。
 まるで、自分を苛む罪悪感から逃れるように。


 けれども、状況が急変した今では、もはや手紙でそれとなく警告するのはもはや無意味だ。事態は切迫しており、一刻も早く何らかの対処が必要だ――そう考えた颯太はの足は、自然とツグナのいる普通科のクラスへと向けられていた。

 この時、彼にとって幸運だったのは、自分の席に忘れ物をしていたことでも、部活が休みの日に当たっていたことでもない。
 彼が向かう先――特化クラスの連中が「凡庸」・「半端者」と蔑む普通科のクラスに、ツグナがいたことだった。
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