黒の創造召喚師

幾威空

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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第030話 逆鱗に触れた者の末路⑥

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「……何かあった?」
 プルプルと今にも笑い出しそうになるのを必死に抑えていたツグナを見たソアラが、首を傾げながら訊ねる。

「いや、何でもない。それより早くメシにしよう。時間も限られてることだしな」
「そうですね。兄さんと一緒に食べられる時間が限られているのは残念ですが、こればかりは仕方がありませんからね」
「そうだね。私は次の授業、外でやるみたいだし。あー、何だっただけかな? 確か……ソアラたちのクラスとの合同授業だったかな? まぁ私としては身体を動かすのは好きだからいいけど。ツグ兄の方は?」
 
 ツグナの言葉を皮切りに、各自で重箱の中を突きながら会話に花を咲かせる。
「俺は次もこの教室だよ。次は……数学だな」
 アリアの問いに、ツグナは用意していたお茶を飲みながら答える。

「――おっ!? 今日は一段と凝ってるなぁ。えっと……1、2、3……5段のお重か」
 お茶を飲み下した際、昼食を済ませた彰彦と瑞基が教室に戻ると、ツグナたちの近くにやって来る。

「うん? 早かったな。そっちはもう終わったのか?」
「まぁね。今日は学食で手早く済ませたよ。次の授業の予習をしておきたくてさ。数学、苦手なんだよね……」
 あはは、と乾いた笑い声を上げる彰彦に、ツグナも「分かる」と頷く。

「そう言えば……今日の放課後、また挑まれてるんだっけか?」
 重箱の中身を摘み食いした瑞基がリーナたちに睨まれつつも問いかける。

「あー、そうだな。確か今日は剣道部だったかな。特進II類クラスの……誰だかは忘れたけど」
 ツグナは瑞基の質問に、稲荷寿司を口の中に放り込みながら答える。

「それにしても、一体どういった心境の変化だ? ちょっと前までは寄越された手紙を見もせずにゴミ箱に突っ込んでたのに」
「まぁ、放って置いてもいいんだけどな。ただ、それをすると後で面倒だと実感した・・・・からさ」

 そろそろこの学院に通い始めて1カ月が経とうとするのだが、相変わらずツグナのもとには手紙が送られてきていた。その多くが「女神に近づくな! 受け入れられないなら俺と勝負しろ!」といった迷惑極まりない類のものだ。

 当初はそうした要求を全て無視していたツグナだったが、あの九条との一件以来「面倒事は早めに対処した方がいい」からと、瑞基の言葉に乗せられたようでやや不本意ではあったものの、その考えを改めることにした。
 以降、ツグナは売られた喧嘩を全て買っている。お陰でここ最近における彼の放課後は予定がビッチリと埋まっている有様だ。

(女神様、と崇めるのは自分の周りにいる女性陣なのに、ヤローから引っ張りだこなのは男である俺って……なんか本末転倒な気がする)

 ため息を吐きたい思いを呑み込む代わりに、ツグナは箸を進める。

「けど、今のところ負け無しなんでしょ? 今日の相手は、あの特進II類のクラスの生徒だけど、あれほど凄いレベルの継那だったら問題なさそうだし」
「……だな。最近は継那の名前も売れて来たのか、倍率オッズも低くなってきて、あんまり儲からなくなってるんだよなぁ~」

 ツグナと特化クラスの生徒との対戦が始まった当初、彰彦と瑞基はその場を直に見に来たことがある。野次馬根性丸出しで、「どうせ勝てないだろうが……」と思っていた二人だったが、当のツグナはその予想をアッサリと裏切り、「圧勝」という形で対戦を終えたのだった。

「オィ! いい加減人の勝負事に首突っ込んで賭けるのはヤメロよ! つーか、勝負してんのは俺なんだから、俺にも分け前寄越せよ!」
 ポロリと愚痴をこぼす瑞基に、ツグナは噛み付くように反論する。

「ハッハッハッ! 有名税ってヤツだよ、有名税。これだけの美人を侍らせてるんだから、他の男から妬まれるのは必然なのだよ、継那くん! だから、キミはハーレムを得る代償に分け前を放棄してでも男共の醜い嫉妬までも受け止めなければならんのだぁッ!」
「……何だろう。言いたいことは凄えよく分かるが、ただ面と向かって言われると、物凄く腹が立つ。なぁ、殴っていいかコイツ」

 カッと目を見開いて己の持論を展開する瑞基に、少々イラッとしたツグナは、発言主を指差しながら苦笑する彰彦に訊ねる。
「気持ちはわかるけど、ここは落ち着いて。ねっ? 知っての通り、悪いヤツじゃないから」

 その場をとりなすように気を遣う彰彦に、ツグナはカリカリと頭を掻きながら「分かったよ……」と力なく答えた。

 かくして、不良集団の壊滅により、ツグナと九条武治の間における戦いは、ここに一応の決着をみた。

 ――だが、彼らは知らない。
 それは一時の穏やかな時間なのだということを。
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