黒の創造召喚師

幾威空

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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第040話 魔物と少女②

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 この「水虎狼の陣」は、千陽が安定して発動できる術式の中でも最大の攻撃力を持つ御水瀬家の術式である。予め術式を記したした呪符を用い、術者の精神力を糧に水の虎「水虎すいこ」と水の狼「水狼すいろう」を召喚・使役するものである。

 実はこの上の威力を誇る術式もあるにはあるが、まだ彼女の修行が足りないためか、その成功率は3割に留まるため、今回は使用を避けた。

「グルゥアアアァァァッ!」
「アオオオオオォォォン!」

 轟音を掻き鳴らして迫る虎は、その前足から伸びる鋭い爪を武器に襲いかかる。一方、遠吠え一つ吐いてその場から姿を消した狼は、優れた俊敏性と鋭い牙で獲物を噛み千切ろうと肉薄する。

「ゴガアアアアァァァッ!」

 その両者に立ち向かう魔物は、自らを鼓舞するように雄叫びを上げると、その肉体のみを頼りに襲い来る獣に果敢にも挑む。その勇猛さが勝機を手繰り寄せたのか、襲い来る虎が飛び上がり前足を振り上げた瞬間、魔物は一歩前へ出て距離を詰め、その握った右拳を虎の腹に叩き込んだ。インパクトの瞬間、その膨れ上がった二の腕の筋肉が更に膨れ、脅威的なパワーとなって繰り出される。

「――ッ!?」
 その結果、先に仕掛けたはずの虎は吠え声残すことすら許されず、爆けるように掻き消された。
「ガアッ!」
 しかし、これで終わりではない。拳を振り抜き、体勢が崩れたところに狼が背後からガパリと大きく口を開けて飛びかかる。

「ウルゥグアアアアァァァッ!」

 開かれた口が頭から飲み込もうと迫る中、魔物は無理矢理に身を捻って回避を試みる。その判断が功を奏し、頭から喰われる事態は免れた。だが、代償は大きく、「ガチン!」と狼の歯が噛み合った瞬間、魔物の左肩が大きく抉られる。
「ゴガアアアアァァァッ!」
 身体を駆け巡る壮絶な痛みに、魔物の口から悲鳴が漏れる。抉られた方の左腕は最早使い物にならない。確かに時間をかけて回復させればマシな動きをすることができるだろう。しかし、相手がそれを許すはずもないことは、向けられる敵意と殺気で容易に判断できる。

 着地した狼がその閉じた口からポタポタと垂らしつつ、振り向いて再び口を開けた瞬間――

 脇から襲い来る突然の衝撃に、呆気なく爆ぜて消えた。
「……えっ?」
 これに驚いたのは千陽の方だ。掠れた声で呟いた彼女の視線の先には、

「嘘……でしょ」

 もう一体、錆びついた巨大な鉈を手にした魔物の姿があった。
「あっ……あっ……」
 青銅色の肌に膨れ上がった筋肉と上下に伸びる牙は、千陽が今まさに戦っている魔物と同じだ。唯一異なるのは、その手にした武具のみである。

 パッと見た限り、その魔物が手にする武具は、およそ武具とは呼べないほどに錆びついており、鉈というよりも鈍器に近いものと表現するのが的確であろう。鉈本来の役割はまったくもって期待できそうもない代物だが、魔物の持つ驚異的な膂力が合わさることで武具としての機能が宿る。

(くっ……! どうすればいい。今ある手持ち札の中では水虎狼の陣の呪符で精一杯。ここはとにかく逃げ――)

 思考を切り替え、この状況を覆すには応援を呼ぶしかないと判断した千陽は、即座に撤退の体勢に移る。

 しかし、そんな逃げの構えを見せた彼女に、魔物が手にした鉈を轟音を伴いながら薙いだ。
「かはっ……!?」
 辛うじてスウェーバックして直撃は免れたものの、襲い来る衝撃は殺しきれず、吹き飛ばされた千陽は太い木の幹に強かに背中を打ちつけられた。

「ゴガハアアアァァァ……」
 鉈を持つ魔物は、先ほどまで千陽と戦闘を繰り広げていた同種の魔物をやや後方に控えさせ、ゆっくりと歩み寄る。

 ――待ち焦がれた獲物だ。
 ――オンナだ。オンナだオンナだ……あぁ、どうやって犯して喰ってやろうか……

「い……やぁ……」

 目の前に迫る魔物から漂う気配。その恐ろしさに気圧された千陽は、か細い声で首を振りながら拒絶の意志を示す。

 そして、魔物の手に持つ巨大な鉈がゆっくりと振り上げられ、さながらギロチンの刃の如く一気に振り下ろされた。
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