黒の創造召喚師

幾威空

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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第054話 巻き込まれて決闘②

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 彼女の言葉は半分本当で、半分は嘘だ。確かにツグナの持つ刀術のレベルの高さを体感したいという思いはあるものの、それは本来意図するところではない。

(――あの時助けてくれた人も刀を持っていた……ように思う。背格好は同じくらいだけど、外見が違うし……でも何故か引っかかるし……)

 一度は「違う」と結論づけた千陽。だが、アリアの告げた「刀術」という言葉が、彼女の中に再び疑問を呼び起こした。

 千陽は自ら推測した通り、ツグナが彼女の思い描いていた恩人と同一人物だとしても「どうして魔物のことを知っているのか?」と深く問いただす気は無かった。
 もちろん「どうして」と訊ねたい思いはあるものの、五家門に関係する人間は秘密主義なところが多く、同じ家の人間にも秘密にしている者さえいる。

 そうした背景があるためか、「他人の技や属性などを下手に訊き出すのはマナー違反」たる空気があり、暗黙の了解として千陽も受け入れている。

(けど……御礼を言うくらいなら、大丈夫だよね……)

 もし同一人物ならば、あの時助けてくれなければ、まず間違い無く自分は死んでいただろう。
 そんな命の恩人に、御礼の言葉すら無いというのは、自分にとっても、ひいては御水瀬家としても失礼に値する。

 そんな律儀な彼女の思いから出た「手合わせ」なのだが、ツグナはバツの悪い顔で言葉を詰まらせながら呟く。

「えっと……言っちゃあ悪いが、俺のは我流……だぞ? 頼むのなら、もっとちゃんとした技術を持つ人とか、段持ちの人の方が良くないか?」
「いえ、我流でも構いません。アリアから聞いた話から、継那さんの刀術は、相当に高いレベルにあると思いました。それだけ高いのなら、我流であろうと同じです。お願い……できませんか?」
 わずかに潤んだ目で訴える千陽に、ツグナは「うっ……!?」と小さな声を漏らす。

「ツグ兄ぃ~、私からもお願いできないかな? 同じ部の仲なんだ。ここは一つ……ね」
 頭を下げてお願いする千陽に、彼女の肩に手を置いたアリアがウインクしながらツグナにダメ押しの言葉を添える。
 そんな健気な二人に押されたツグナは、

「はぁ……分かったよ。そこまで言われたら仕方がない」

 頭をカリカリと掻きながら、渋々了承の旨を口にするのだった。


 ――そしてその日の放課後。「丁度今日は部活も休みだから」というアリアの助言もあり、急遽ではあるがこのタイミングでツグナは千陽と勝負をすることとなった。
 
(まぁ急ではあるけど……早く終わらせられるからいいか)

 ツグナはそんな思いを心の中に呟きつつも、上着を脱いでシャツの袖を捲り、裸足で開始位置に立つ。右手に持つ木刀の先は下を向き、肩幅と同じくらいに足を広げて立つその姿は、およそよく目にする「構え」からは程遠い。
 一般的に「無行の位」と呼ばれるその立ち姿。パッと見は自然体とも、やる気がないとも捉えられがちなその姿勢がツグナの「構え」だ。

「それでは――始めっ!」

 中央に立つアリアの掛け声を合図に、対峙する千陽が開始線を越えてツグナに迫る。

「やあああああっ!」

 木刀を振り上げた千陽が、大上段の構えからそのままの勢いで一気に振り下ろす。だが、一方のツグナといえば、振り下ろされた木刀を目にしてもまだ体勢を変えることはない。

 ――卓越した技術、とやらは嘘だったのか

 ほんの一瞬、そんな思考が千陽の脳裏を掠める。その間にも振り下ろされた木刀はツグナの頭に迫り、あとわずか数センチで衝突する――その時、

「……えっ?」

 気付けば振り下ろしたはずの千陽の木刀は床を叩き、彼女の側にはわずかに木刀を掲げたツグナの姿があった。

(……今、何をされたの?)

 まるで意志をもっていたかのように、振り下ろされた木刀はツグナをすぐ脇を通り過ぎた。驚愕の表情を浮かべて固まる千陽に、ツグナは静かに呟く。

「なぁ……もう終わりか?」
「っ――!」

 挑発でもなく、ただ淡々とした口調で問いかけられたその言葉に、千陽は思考のエアポケットを抉られたにも似た衝撃を覚え、無意識のうちに唇を噛んだ。
「ま、まだまだああぁぁぁっ!」
 ハッと我を取り戻した千陽は、すぐさま体勢を立て直し、今度はコンパクトな軌道を描くように木刀を振るう。

 しかし――

「なっ!?」
 千陽の木刀がツグナを捉えようとした瞬間、彼の手に握られた木刀がその間隙を縫うように割って入り、刀身を滑らせて軌道を瞬く間に書き換える・・・・・

 袈裟斬り、突き、薙ぎ払い……四方八方から様々な攻撃を千陽が仕掛けるものの、その全てがツグナにヒットする寸前で軌道を書き換えられてしまう。紙一重の差で流される攻撃だが、彼女の目に映るツグナの表情には、焦燥感や必死さなどは見受けられない。

 他人から見れば、千陽の猛攻はその一手一手が「あぁ、惜しい!」と思わず口から出てしまうほどの鋭さを持っている。
 しかし、ひたすらに打ち込む千陽は、「惜しい」などとは欠片も思えなかった。むしろ――

(くっ!? どうして紙一重で捌き切れるの!? こっちは全力で打ち込んでるってのに!)

 ツグナに打ち込む回数が増えるにつれ、彼女の表情には焦りの色が濃くなっていく。
 いつからか、千陽の額からは汗が流れ、肩で息をしなければならないほどに体力が削られていた。けれども、彼女と向かい合って立つツグナは、汗一つ掻かずにさながら太古から生える大樹の如く真っ直ぐな姿勢で立っていた。

(どうすればいい……何か、糸口は――)

 攻めあぐねていた千陽は、「余裕を見せているなら、離れても攻撃は仕掛けてこないだろう」と相手の態度から判断し、自らの態勢を整えようとツグナから距離を置いて荒くなった息を落ち着かせる。

「ふむ……もう手詰まりか? なら――今度はこっちから行こうか」

 だが、彼女の思惑とは裏腹に、ツグナは不敵な笑みを浮かべてその場から掻き消えた・・・・・
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