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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】
第057話 夜空に紡がれる妹の願い②
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「さて……私も向かうとするか」
徐に腰を上げた健介は、部屋を出ると真っ直ぐに居間に向かう。
「……あら、あなた。まだ夕飯までは少し時間がかかりますけど?」
彼が居間に入ると、台所で夕飯の準備を進めていた妻の翠が声をかける。彼女は御水無瀬の分家筋にあたる「春日家」から嫁いできた女性で、健介よりも5歳年上の所謂「姉さん女房」だ。
しかしながら、その年齢を裏切り、「本当に二児の母ですか?」と疑いたくなるほどの顔立ちとプロポーションを持っている。実際に娘である千陽や叶絵と一緒に歩いていると、「姉妹ですか?」と訊ねられたことは一度や二度ではない。
健介と合わせるように普段から着物姿で家事をこなすその所作は、紛れも無く誰もが思い描くような「大和撫子」のイメージそのものだ。
艶のある黒髪を肩口で綺麗に切り揃え、細い眉に切長の目、そしてまるでバランスを計算したかのような絶妙な大きさの口が特徴の女性である。
「あぁ……ちょっと客が来ているんでな。ただ、時間も時間だから、丁重にお帰り願うつもりだがな」
「そうなのですか。それはあなた自ら出て、ですか?」
「……そうだ」
重苦しくも、だがしっかりと告げる健介の言葉に、翠はコンロの火を落として呟く。
「でしたら、夕飯はそれが終わってからにしましょうか。くれぐれも、気をつけて。家の方はお任せください」
「分かってはいるつもりだ。家のことは頼んだぞ」
それだけを言い残して彼は足早に居間から去っていく。
「やれやれ……千陽がいればまだ安心なんでしょうけど、贅沢は言ってられませんね。とりあえず、叶絵を呼んできますか」
前掛けを外した翠は、いそいそと叶絵を呼びに行く。
千陽がアリアと別れ、帰宅の途に着いた頃。
御水瀬神社の周辺では魔煌石を巡る争いの火蓋が切られようとしていた。
◆◇◆
「たっだいまぁ~」
帰り道に千陽とクレープを食べ終えたアリアは、いつものように帰宅を告げると靴を放り投げるように脱ぎ、リビングへと向かった。
「う゛あ゛ああぁぁぁ……お腹減ったぁ~……って、あれっ?」
ぐぅぐぅと腹の虫を鳴かせつつ、リビングへとつながる扉を開けたアリアの目に飛び込んできたのは、足首まで届く黒いロングコートに相棒たる爛顎樟刀を左腰に携え、サブの武器として後の腰に吊っている三煉琥魄の状態を確認しているツグナが目に飛び込んでくる。
「ツグ兄、どうしたの……?」
纏装の指輪による偽装の効果を消し去り、既に「臨戦態勢」となっている兄の姿に、アリアは戸惑いの声で問いかける。
「あぁ、帰って来たのか。いや、なに……さっき伝令を寄越して来たニアからの情報でな。どうにも『魔に喰われた人間』が現れたらしい」
「っ――!? それって……!」
ツグナの口から発せられた言葉に、アリアは瞬時に思考を切り替える。前にツグナがナイトオーガと一戦を交えた話は、アリアたち「ヴァルハラ」のメンバーも伝え聞いていた。一見して魔物とは縁遠い平穏な日常を送っていた彼女らは、「魔物」や「魔に喰われた人間」という言葉に、緊張感を露わにし、同時に「あの神様の話は本当だったみたいだ」と、「厄介事を持ち込む駄目神」から「ちょっとは仕事をしてるっぽい神様」とそれぞれの中で評価が若干上がったのはここだけの話だ。
鞄をソファに放り投げ、ツグナと同じように指輪の偽装効果を解除する。解除と同時に漆黒の髪は桃色に染まり、瞳も淡い青へと変化する。彼女の左腰には、ずしりと重みのある相棒――細剣が下がり、その久しぶりの重みに思わずアリアの頬が緩んだ。
「それで? そのニアから聞いた『情報』の詳細ってのは?」
「あぁ……ニアが言うには、ヤツらは『御水無瀬神社』に向かったらしい」
「っ――! ツグ兄っ!」
アリアの驚きと焦燥感を滲ませた声に、彼女の意図を察したツグナはただこくりと頷く。
「おそらく、アリアの考えている通りだろう。『御水無瀬』って名字はここらじゃ滅多に聞かないしな」
「そ、それじゃあ一刻も早く――」
「待てっ!」
慌ててそのまま外に向かおうとするアリアの手首を、ツグナはぐっと強く掴んで制止する。
「さっきの言葉にはまだ続きがあるんだ」
「続き……?」
振り向きざまにオウム返しで訊ねるアリアに、ツグナは頷きながら話を続けた。
徐に腰を上げた健介は、部屋を出ると真っ直ぐに居間に向かう。
「……あら、あなた。まだ夕飯までは少し時間がかかりますけど?」
彼が居間に入ると、台所で夕飯の準備を進めていた妻の翠が声をかける。彼女は御水無瀬の分家筋にあたる「春日家」から嫁いできた女性で、健介よりも5歳年上の所謂「姉さん女房」だ。
しかしながら、その年齢を裏切り、「本当に二児の母ですか?」と疑いたくなるほどの顔立ちとプロポーションを持っている。実際に娘である千陽や叶絵と一緒に歩いていると、「姉妹ですか?」と訊ねられたことは一度や二度ではない。
健介と合わせるように普段から着物姿で家事をこなすその所作は、紛れも無く誰もが思い描くような「大和撫子」のイメージそのものだ。
艶のある黒髪を肩口で綺麗に切り揃え、細い眉に切長の目、そしてまるでバランスを計算したかのような絶妙な大きさの口が特徴の女性である。
「あぁ……ちょっと客が来ているんでな。ただ、時間も時間だから、丁重にお帰り願うつもりだがな」
「そうなのですか。それはあなた自ら出て、ですか?」
「……そうだ」
重苦しくも、だがしっかりと告げる健介の言葉に、翠はコンロの火を落として呟く。
「でしたら、夕飯はそれが終わってからにしましょうか。くれぐれも、気をつけて。家の方はお任せください」
「分かってはいるつもりだ。家のことは頼んだぞ」
それだけを言い残して彼は足早に居間から去っていく。
「やれやれ……千陽がいればまだ安心なんでしょうけど、贅沢は言ってられませんね。とりあえず、叶絵を呼んできますか」
前掛けを外した翠は、いそいそと叶絵を呼びに行く。
千陽がアリアと別れ、帰宅の途に着いた頃。
御水瀬神社の周辺では魔煌石を巡る争いの火蓋が切られようとしていた。
◆◇◆
「たっだいまぁ~」
帰り道に千陽とクレープを食べ終えたアリアは、いつものように帰宅を告げると靴を放り投げるように脱ぎ、リビングへと向かった。
「う゛あ゛ああぁぁぁ……お腹減ったぁ~……って、あれっ?」
ぐぅぐぅと腹の虫を鳴かせつつ、リビングへとつながる扉を開けたアリアの目に飛び込んできたのは、足首まで届く黒いロングコートに相棒たる爛顎樟刀を左腰に携え、サブの武器として後の腰に吊っている三煉琥魄の状態を確認しているツグナが目に飛び込んでくる。
「ツグ兄、どうしたの……?」
纏装の指輪による偽装の効果を消し去り、既に「臨戦態勢」となっている兄の姿に、アリアは戸惑いの声で問いかける。
「あぁ、帰って来たのか。いや、なに……さっき伝令を寄越して来たニアからの情報でな。どうにも『魔に喰われた人間』が現れたらしい」
「っ――!? それって……!」
ツグナの口から発せられた言葉に、アリアは瞬時に思考を切り替える。前にツグナがナイトオーガと一戦を交えた話は、アリアたち「ヴァルハラ」のメンバーも伝え聞いていた。一見して魔物とは縁遠い平穏な日常を送っていた彼女らは、「魔物」や「魔に喰われた人間」という言葉に、緊張感を露わにし、同時に「あの神様の話は本当だったみたいだ」と、「厄介事を持ち込む駄目神」から「ちょっとは仕事をしてるっぽい神様」とそれぞれの中で評価が若干上がったのはここだけの話だ。
鞄をソファに放り投げ、ツグナと同じように指輪の偽装効果を解除する。解除と同時に漆黒の髪は桃色に染まり、瞳も淡い青へと変化する。彼女の左腰には、ずしりと重みのある相棒――細剣が下がり、その久しぶりの重みに思わずアリアの頬が緩んだ。
「それで? そのニアから聞いた『情報』の詳細ってのは?」
「あぁ……ニアが言うには、ヤツらは『御水無瀬神社』に向かったらしい」
「っ――! ツグ兄っ!」
アリアの驚きと焦燥感を滲ませた声に、彼女の意図を察したツグナはただこくりと頷く。
「おそらく、アリアの考えている通りだろう。『御水無瀬』って名字はここらじゃ滅多に聞かないしな」
「そ、それじゃあ一刻も早く――」
「待てっ!」
慌ててそのまま外に向かおうとするアリアの手首を、ツグナはぐっと強く掴んで制止する。
「さっきの言葉にはまだ続きがあるんだ」
「続き……?」
振り向きざまにオウム返しで訊ねるアリアに、ツグナは頷きながら話を続けた。
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