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10巻
10-3
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◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「随分と兵を連れているようだが……魔人に対して大勢で当たれば制圧できるとでも? ふぅむ。舐められたものだね」
街の入り口に立つヴィオレットは、魔人と連合軍との戦いを眺めながらぽつりと呟いた。現在戦っている魔人は、どれもが彼女の手によって磨き上げられた「作品」だ。魔力保有量、基礎能力値、スキル……全てが元の素体よりも大幅に向上しており、ヴィオレット自身「この程度の相手に負けるわけがない」と踏んでいる。
(けれど……不安要素は可能な限り排除しておくべきか。となると――)
「ここは魔人たちと共に戦うべきなのかな。うぅむ……あの中に飛び込むのは少々面倒だが……仕方がない。新鮮な材料が手に入ると思えばまだマシか」
確実な勝利をイリスへもたらすため、と考えをまとめたヴィオレットが行動を起こそうとしたその時――
「させると思うか?」
ヴィオレットの背後から凛とした女性の声が届いた。
ヴィオレットがすぐに声のした方に顔を向けると、そこには不敵な笑みを浮かべて剣の切っ先を突き付けるリリアと、キッと睨みつけながら杖を構えるシルヴィの姿があった。
「お前は……『紫銀の魔術師』っ! 何故ここに」
「そんなものは決まっているだろう。お前らの言う『教皇』とやらを打ち倒すためだ。ちと想定よりも魔人の数が多かったが、あれだけの数を相手にした大規模戦闘は嫌でも目立つ。こちらには離れた地点を結ぶ特異な力のある者を従者に持つ、優秀な弟子がいるんでな。お前が街の外の戦闘に気を取られている間に、私たちだけはすんなりと街の中に入ることができたというワケだ」
反射的にヴィオレットの口から発せられた問いに、リリアが鼻で軽く笑いながら答える。
何故街の入り口に立つヴィオレットの背後からリリアたちは声を掛けられたのか。それはツグナの従者であるジェスターにこの場所へと空間を繋げてもらったためだ。訪れたことのある場所にしか道化門は繋げないのだが、今回はツグナが前もって偵察に来ていたため、街の内部に直接侵入できたというわけだ。
「馬鹿な……最初からそれが狙いだったのか? 魔人を差し置いて、少人数で我ら『色持ち』とイリス様を倒すなどと……」
リリアの意図を察したヴィオレットは、驚愕の表情を浮かべた。
それもそうだろう。巨大組織が相まみえるこの大戦において連合軍が展開した作戦とは、機動力に優れる少人数で敵の頭を潰すという、常識では考えにくいものだ。
それはすなわち、他の大多数の戦力を囮とすることを意味する。魔人という脅威に加え、「色持ち」や魔書使いの参戦も想定される戦場でこのような戦法をとることは、明らかに無謀である。
いくら高レベルなツグナの仲間たちであろうと、「色持ち」や魔書使いを相手にして倒せるかは分からないからだ。いや、そもそもが少人数であることを考慮すれば、分の悪い賭けとも言えよう。
「なぁに。私たちはここでお前をでき得る限り足止めできれば、最低限は事足りる。あとは他の仲間がお前らの大将を討ち取ってくれるだろうさ」
「『足止めできれば事足りる』だと? ふふっ……あはははは!」
リリアが発した言葉に、ヴィオレットは腹を抱えて大声で笑う。時折ヒィと掠れる声を上げる彼女の態度に、対峙するリリアとシルヴィは揃って眉根を寄せた。
「笑わせてくれる。紫銀の魔術師ともあろう人が私を足止めする役目とはな。だが……この場にいるのが私だけだとは思わないことだ」
「……なんだと?」
笑い声を上げるのをやめて口の端を吊り上げたヴィオレットは、反射的に問いただしたリリアたちの背後へ、スッと指を向ける。
その動きに倣い、リリアとシルヴィが振り返ると、小さな人影が横一列になって彼女たちのいる方を目指して歩いてくるのが確認できた。
また、二人の尖った耳が小さいながらも「カシャン、カシャン」と空気を震わせる金属音を捉える。その音は時が経るにつれ大きく重いものに変化していった。
「あれは……」
小さな人影が近づいてくることで、外見もはっきりしてくる。その人影は、皆が皆銀色に輝く金属鎧に覆われ、精密な機械を思わせるように一糸乱れぬ行進で近づいてきていた。
「――っ! 鉄血部隊か!」
敵の姿を確認したリリアの表情に、苦いものが混じった。対照的に、彼女らと相対するヴィオレットの表情はさらに笑みが濃くなっていく。
「そうだ! お前も耳にしたことがあるだろう。彼らはその身を光り輝く金属鎧で覆い、蛮族共に正義の鉄槌を下す実働部隊だ。かの部隊は一人一人が第一線級の実力を持っている。頭数を揃えるのは結構だが、あれだけの数の魔人に加えて彼らの相手もがお前ら連合軍に務まるかな?」
「くっ!? マズイ。いくら何でもあれだけの数は魔人と交戦中の者たちには荷が重過ぎる! ……シルヴィ! 私たちでヤツらを食い止めるぞ!」
「は、はいっ!」
声を荒らげて指示を飛ばすリリアと、師匠の焦燥ぶりに戸惑いつつも返事をするシルヴィ。だが、ヴィオレットがそれを見過ごすわけはなかった。
「クククッ……私がただここで見ているだけだとは思わないことだな」
言うや否や、ヴィオレットは懐から十セルメラほどの仄かに赤味を帯びた結晶を取り出し、足元の地面に叩きつける。
「な、何を――」
リリアの疑問の言葉も最後まで告げられぬまま、砕けた結晶を中心に半径一・五メラほどの魔法陣が浮かび上がった。
「さぁ! 今こそ目覚めの時だ! 結晶に封じられしものよ……目の前の敵を喰らい尽くせ!」
「ギィィィイアアアアアアアアアアッ!」
甲高い声で呼びかけたヴィオレットの言葉に呼応するように、魔法陣の中から全長五メラにも達する一体の巨大な魔物が姿を現した。
虎の頭に人間の胴体という外見の魔物は、体表に無数の人間の顔が浮かび、背中からは人間の腕らしきものが六本生えている。虎の頭の右目は赤く染まり、左目はそれ自体が肥大化し緑に染め上げられていた。
「合成獣か……」
軽く舌打ちして吐き出したリリアの言葉に、ヴィオレットは凶悪な笑みを見せて告げる。
「あぁそうさ。コイツは私自ら手塩にかけて作り上げた完成形だ。舐めてかかると喰われるぞ?」
「そのようだな……」
キメラが放つ威圧と殺意を全身に受けながら、リリアは表情を引き締める。
ヴィオレットに加え、アイゼンにキメラと厄介な相手が立ちはだかる。位置的にリリアたちは敵に挟まれた格好となった。
だが、それを前にしてもリリアとシルヴィに撤退の二文字は無かった。
「ここで負ければ私たちに明日はない。たとえ四肢を砕かれようともお前らの好きにはさせん」
「ははっ! いいねぇ~その強気な態度は嫌いじゃない。さぁて……いつまでそれが続くかな?」
小さく呟いたリリアは、軽く息を吐いて気持ちを入れ替えると、真っ直ぐに敵に向かって走り出した。
第4話 紅蓮再炎
リリアとシルヴィが街の入り口でヴィオレットと対峙していた頃。
それよりもさらに街の中へと道化門で移動したツグナ率いるレギオン「ヴァルハラ」の面々は、目的地であるイリスのいる王城へと向かっていた。レギオンマスターであるツグナを除き、二人一組で行動する彼女らは、王城から見て左右及び背後からの接近を試みている。
城の東側からはキリアとソアラが、反対の西側からはリーナとアリアが、北側からはツグナがそれぞれ向かっている状況にあった。
その中でもキリアとソアラがいる東側は住宅が密集している区画であった。建物の間をすり抜けるように駆ける二人は、走りながらも周囲に目を配り、極力戦闘を避けるように移動していた。
「……不気味だね。首都なのに人っ子一人いないだなんて」
街の様子を観察していたソアラがぽつりと零す。国の中枢を司る場所であるはずのこの街だが、人影を見ることはなかった。
「えぇそうね。ただ、おかげで私たちは余計な時間をかけずに向かえるから願ったり叶ったりだけれど」
キリアがそう答える。陽光が街を照らしているものの、実際にその場にいる二人にとっては、まるですっかり夜の帳の下りた真夜中の街に突然放り込まれたような印象だった。
「――ソアラっ!」
そんな感傷に浸っていたソアラを、鋭いキリアの声が現実に呼び戻す。ハッと我を取り戻せば、直径一メラほどの炎球が前から二人に襲い掛かろうとしていた。
「くっ!?」
迫りくる突然の脅威に、ソアラは即座に全身に魔力を巡らせて魔闘技を発動すると、真横に建っていた建物の壁を利用して三角跳びの要領で炎球を回避する。高温の熱に炙られ、思わず眉をひそめたソアラとキリアに、その声は降りかかった。
「へぇ……コソコソと動き回るネズミがいると思ったら……あの時無様な姿を晒したヤツらとはね」
「「お前は――っ!」」
軽く鼻で笑いながら呟かれた言葉に、ソアラとキリアは鋭い目を向ける。二人の視線を受け止めたのは、かつて「呪い島」と呼ばれる孤島で対峙した、「色持ち」の一人である「赤き炎」であった。
「ちぇっ……あの異端者はいないのかぁ。こりゃあハズレだね。折角あの時の御礼をしようかと思っていたんだけど」
二人の刺すような視線を飄々と受け流し、ロートの口は依然として軽やかであった。棒付き飴を口の中で転がしながら喋るその仕草は、年相応の子供然としている。
だが、彼女から漏れ出る威圧と殺気は、高レベルな冒険者でさえも息を呑むほどだ。
「まぁいいや。サクッとキミたちを燃やせば、いずれはあの異端者にも出会えるだろうしね。ククッ……楽しみだなぁ。お前らは紅蓮に燃える炎の中で、一体どんな声を聴かせてくれるんだろうね」
バキリと口に含んでいた飴を噛み砕き、凶悪な笑みを浮かべるロートに、一気に場の空気が張り詰める。
ピリピリと肌を刺激する空気に包まれた中、今度は別の建物の陰から別の声が響いた。
「こらこらロート。折角向こうから来てくれたんだ。いきなり燃やしちゃうのは無粋というものじゃないのかい?」
「「――っ!?」」
落ち着いたその声に、ロートと向かい合っていたソアラとキリアはちらりと視線を向ける。
(一体どこから……)
目を走らせるキリアの背に、冷たい汗が流れる。先ほどまでわずかな気配も見落とさぬように注意を払いながら進んできた彼女たちだったが、今の声を聞くまでロートの他に誰かいることを察知できなかった。
(あの声の主は完璧に自分の気配を消している。もし、この状態で襲われたなら……)
キリアの抱いた懸念を読み取ったのか、ソアラの顔にはいつになく厳しいものが浮かんでいた。
戦闘において、自分の居場所を相手に悟らせない技術は大きなアドバンテージとなる。大抵の場合は奇襲する際に発揮されるものだが、高レベルな二人でも察知できないほどの技量を持つ相手ならば、戦闘中であっても気配を消すことは造作もないだろう。
(ロートだけなら二人で抑え込めると思ったけど……これはなかなか厳しいわね)
不意に現れたロートの仲間を警戒し、ソアラの杖を握る手に自然と力が入った。
だが、陰に隠れていた声の主はやおら姿を現した。驚くべきことに、姿を見せたのは二人の男性だった。声の主とは別に、同等の実力者が潜んでいたのである。
一人は緑色のローブを身に着けた栗色の髪を持つ青年。もう一人は金髪に紫色の瞳を持つ少年であった。姿を見せた二人に向けて、ロートはプクッと頬を膨らませて不満を訴える。
「えぇ~そうは言ってもさぁ『緑の風』。こっちは一刻も早くあの異端者と殺り合いたいんだよ。アイツに味わわされた屈辱を万倍にして返さないと、こっちの気が晴れないんだよ~」
駄々っ子のように両腕を大きく振り回して訴えるロートに、グリューンと呼ばれた青年は微笑を湛えながら口を開く。
「まぁ、ロートの言い分も分からなくはないけどね。でも、ボクらもいるんだから、キミ一人で独占するのはあんまりだよ」
そう言いつつ、「ね? アデルもそう思うだろ?」と傍らに微笑むグリューンに、金髪の少年――アデルはコクリと頷く。
「ロートだけはよくない……」
ポツリと呟いたアデルは、右腕から魔書を引き抜いて自らも戦う意欲を示す。
(――魔書持ちか! いよいよ気の抜けない戦いになってきたわね……)
異様な存在感を示すその魔書を確認したキリアは、ソアラとアイコンタクトを交わしてアデルに対する警戒度を引き上げると共に、彼を優先して叩くことを確認し合う。
これは、一つの系統魔法にのみ特化した「色持ち」の二人よりも、魔書という強大な力を持ちつつも、具体的な能力が判然とせず対策を取りづらいアデルの方が脅威度が高いと判断したためだ。
(けど……そうすんなりこちらの思惑通りに運ばせてくれる相手とは思えないんだけどね)
一瞬のアイコンタクトを済ませたキリアは、相対する三人の敵から放たれる威圧に耐えつつも、心の中にわずかばかりの不安を零す。
「はいはい分っかりましたよーだ。だったら皆でサクッと殺しちゃお」
そうしたキリアの不安をよそに、ちょっと近くまで買い物に行く感覚で「殺す」と明言したロートに、グリューンとアデルは嬉しそうな顔を浮かべて頷いた。
「んじゃ、始めようか――ゾクゾクするような殺し合いを、さ」
にんまりと微笑みながら告げるロートの言葉を端緒に、ソアラとキリアの戦いは幕を開けたのだった。
第5話 裏切者
キリアとソアラがロートたちとの邂逅を果たした頃。
西側から侵入した双子の姉妹――リーナとアリアもまた「色持ち」と対峙していた。
「まさか貴方がここにいるとは……」
立ち止まったリーナが、相対した敵に冷ややかな目を向けて口を開く。隣に立つアリアは腰に吊った細剣を既に抜いており、その切っ先を相手に向けていた。
その姉妹の視線を真正面から受け止めているのは、背に逆さ十字が刻まれた純白のコートを纏う「白の枢機卿」である。また、彼の隣には橙色のローブを纏う「橙の大地」とフリル付きの淡い水色のドレスを身に着けた、緑髪の少女がいる。
「本来ならば私もイリス様の隣にいるはずなのだが……あの異端者に一度敗北を喫した私には、イリス様の横に立つ資格は無いのでな」
あの遺跡迷宮での一戦を思い出したのか、ギリッと奥歯を噛みながら悔しげに呟くヴァイス。一方、対照的にその横にいるオランジュは、茫洋とした目で「どうでもいい」とばかりに二人を見つめていた。
「だが、これも神の思し召しというものか。ここで『裏切者』の双子に出会うとはな。異端者に付き従っている時点でお前らは我らの敵。あの時の雪辱も含め、絶望の中で殺してやる」
蛇のような目つきで姉妹を見つめるヴァイスからは、彼の心の中に巣食う妄執が見て取れる。しかし、面と向かって「裏切者」と呼ばれてもなお、二人の心は揺らがなかった。
リーナは毅然とした態度で言い放つ。
「お生憎様。私たちは何と言われようと兄さんを支える。私たち姉妹を『家族』として迎え入れてくれた兄さんの前に立ちはだかる障害は、私たちが排除する」
「フン、散々人間を殺しておいてそんな言葉がよく吐けたものだな。お前たちの手は既に血に塗れている。今さらそのような綺麗事を並べる立場ではないだろう」
ヴァイスの指摘に二人は押し黙った。彼の言う通り、リーナとアリアは以前所有していた魔書を使い、「色持ち」たちと行動を共にして人を殺してきたからである。
それは紛れもない事実だ。
――でも。いや、だからこそ。
「私たちは今までの私たちじゃない。たとえ消えぬ過去に後ろ指を差されても、今度は前を向いて歩く。過去に縛られた貴方に、負けるわけにはいかない」
「小娘共が……」
リーナの言葉に額に青筋を浮かべて怒りを露わにするヴァイス。だがそれに構うことなく、彼女は言葉を続けた。
「来なさい。矮小で狭量な枢機卿。貴方がどれほど愚かしい人間か、私たちが証明してみせる」
「生意気な……オイ、いつまで呆けている! さっさとあの裏切者共をやれ!」
ヴァイスは声を荒らげながら、隣に立つオランジュと少女に指示を出す。狂ったように喚くヴァイスに一瞬不快な表情を浮かべたオランジュだったが、一歩進み出て静かに言葉を紡いだ。
「イリス様に仇なす裏切者は……ここで死ね」
可視化できるほどに濃密な魔力を身体の周りに漂わせたオランジュは、スッと右手を持ち上げた。彼女の動きに連なるように、周辺の大地から集められた土がいくつものブロックを形成する。押し固められた強固なそれらが、ふわりふわりとオランジュを囲っていた。
「……行け」
パチンと指を鳴らすと同時、重力を無視して浮かんでいたブロック状の土の塊がリーナに向けて襲い掛かった。宙に浮かぶブロックは、見るからに相当な重量を誇っている。
スピードの乗ったそれをまともに食らえば、骨が折れるだけでは済まないだろう。当たり所が悪ければ、最悪死に至るほどの破壊力があるはずだ。
だが、その放たれたブロックがリーナに直撃する寸前。
「――閃螺斬鉄っ!」
リーナの前に飛び出したアリアの手に握られたレイピアによって、襲い掛かったブロックは細切れにされたのだった。
「ボクのことを忘れてもらっては困るなぁ~」
不敵な笑みを浮かべて告げる彼女の言葉に、オランジュは不愉快そうな表情を浮かべる。
「へぇ……あのレイピア使い。相当な技量の持ち主ですね」
その一方で、アリアの動きを遠くから眺めていた緑髪の少女は、他人事のように彼女を評価していた。
「敵を称賛してどうする」
ポツリと呟かれた少女の言葉を耳にしたヴァイスが、眉根を寄せ不快感を露わにしながら窘めるも、「ですが、事実ですから」と素っ気ない言葉が返ってくるだけであった。
レイピアは他の剣に比べて細く、重量が軽い。これは斬ることよりも、素早く相手の鎧の隙間を刺突することを重視したためだ。その結果、手数は増えやすいものの、一撃に込められる破壊力はどうしても剣の中でも低い部類に入る。
そのような特性により、通常であればオランジュの放ったブロックを一閃で断ち切ることは不可能である。
しかし、その不可能であるはずのことをアリアはやってのけた。それはひとえに彼女がこの三年の間に磨き上げてきた剣術とその果てに獲得した「閃螺斬鉄」の技による。
閃螺斬鉄は、認識した相手の攻撃を一閃のうちに断ち切る技である。魔法によって形成された炎球や電撃などは対象外となるものの、その破壊力は鋼鉄すら容易く斬り裂くほどだ。
この技をもってすれば、いかに重武装の者でも一瞬のうちにその鎧ごとなます切りにできるだろう。
これほどまでの技を難なく扱えるアリアの剣術の技量は、既にこの世界でもトップクラスに入る。相手の攻撃を瞬時に見切り、臆することなく前へと進み出て、流れるような無駄のない所作で叩き切る。
その戦いは、まさに彼女の称号である「剣戦姫」を体現するものであった。
「随分と兵を連れているようだが……魔人に対して大勢で当たれば制圧できるとでも? ふぅむ。舐められたものだね」
街の入り口に立つヴィオレットは、魔人と連合軍との戦いを眺めながらぽつりと呟いた。現在戦っている魔人は、どれもが彼女の手によって磨き上げられた「作品」だ。魔力保有量、基礎能力値、スキル……全てが元の素体よりも大幅に向上しており、ヴィオレット自身「この程度の相手に負けるわけがない」と踏んでいる。
(けれど……不安要素は可能な限り排除しておくべきか。となると――)
「ここは魔人たちと共に戦うべきなのかな。うぅむ……あの中に飛び込むのは少々面倒だが……仕方がない。新鮮な材料が手に入ると思えばまだマシか」
確実な勝利をイリスへもたらすため、と考えをまとめたヴィオレットが行動を起こそうとしたその時――
「させると思うか?」
ヴィオレットの背後から凛とした女性の声が届いた。
ヴィオレットがすぐに声のした方に顔を向けると、そこには不敵な笑みを浮かべて剣の切っ先を突き付けるリリアと、キッと睨みつけながら杖を構えるシルヴィの姿があった。
「お前は……『紫銀の魔術師』っ! 何故ここに」
「そんなものは決まっているだろう。お前らの言う『教皇』とやらを打ち倒すためだ。ちと想定よりも魔人の数が多かったが、あれだけの数を相手にした大規模戦闘は嫌でも目立つ。こちらには離れた地点を結ぶ特異な力のある者を従者に持つ、優秀な弟子がいるんでな。お前が街の外の戦闘に気を取られている間に、私たちだけはすんなりと街の中に入ることができたというワケだ」
反射的にヴィオレットの口から発せられた問いに、リリアが鼻で軽く笑いながら答える。
何故街の入り口に立つヴィオレットの背後からリリアたちは声を掛けられたのか。それはツグナの従者であるジェスターにこの場所へと空間を繋げてもらったためだ。訪れたことのある場所にしか道化門は繋げないのだが、今回はツグナが前もって偵察に来ていたため、街の内部に直接侵入できたというわけだ。
「馬鹿な……最初からそれが狙いだったのか? 魔人を差し置いて、少人数で我ら『色持ち』とイリス様を倒すなどと……」
リリアの意図を察したヴィオレットは、驚愕の表情を浮かべた。
それもそうだろう。巨大組織が相まみえるこの大戦において連合軍が展開した作戦とは、機動力に優れる少人数で敵の頭を潰すという、常識では考えにくいものだ。
それはすなわち、他の大多数の戦力を囮とすることを意味する。魔人という脅威に加え、「色持ち」や魔書使いの参戦も想定される戦場でこのような戦法をとることは、明らかに無謀である。
いくら高レベルなツグナの仲間たちであろうと、「色持ち」や魔書使いを相手にして倒せるかは分からないからだ。いや、そもそもが少人数であることを考慮すれば、分の悪い賭けとも言えよう。
「なぁに。私たちはここでお前をでき得る限り足止めできれば、最低限は事足りる。あとは他の仲間がお前らの大将を討ち取ってくれるだろうさ」
「『足止めできれば事足りる』だと? ふふっ……あはははは!」
リリアが発した言葉に、ヴィオレットは腹を抱えて大声で笑う。時折ヒィと掠れる声を上げる彼女の態度に、対峙するリリアとシルヴィは揃って眉根を寄せた。
「笑わせてくれる。紫銀の魔術師ともあろう人が私を足止めする役目とはな。だが……この場にいるのが私だけだとは思わないことだ」
「……なんだと?」
笑い声を上げるのをやめて口の端を吊り上げたヴィオレットは、反射的に問いただしたリリアたちの背後へ、スッと指を向ける。
その動きに倣い、リリアとシルヴィが振り返ると、小さな人影が横一列になって彼女たちのいる方を目指して歩いてくるのが確認できた。
また、二人の尖った耳が小さいながらも「カシャン、カシャン」と空気を震わせる金属音を捉える。その音は時が経るにつれ大きく重いものに変化していった。
「あれは……」
小さな人影が近づいてくることで、外見もはっきりしてくる。その人影は、皆が皆銀色に輝く金属鎧に覆われ、精密な機械を思わせるように一糸乱れぬ行進で近づいてきていた。
「――っ! 鉄血部隊か!」
敵の姿を確認したリリアの表情に、苦いものが混じった。対照的に、彼女らと相対するヴィオレットの表情はさらに笑みが濃くなっていく。
「そうだ! お前も耳にしたことがあるだろう。彼らはその身を光り輝く金属鎧で覆い、蛮族共に正義の鉄槌を下す実働部隊だ。かの部隊は一人一人が第一線級の実力を持っている。頭数を揃えるのは結構だが、あれだけの数の魔人に加えて彼らの相手もがお前ら連合軍に務まるかな?」
「くっ!? マズイ。いくら何でもあれだけの数は魔人と交戦中の者たちには荷が重過ぎる! ……シルヴィ! 私たちでヤツらを食い止めるぞ!」
「は、はいっ!」
声を荒らげて指示を飛ばすリリアと、師匠の焦燥ぶりに戸惑いつつも返事をするシルヴィ。だが、ヴィオレットがそれを見過ごすわけはなかった。
「クククッ……私がただここで見ているだけだとは思わないことだな」
言うや否や、ヴィオレットは懐から十セルメラほどの仄かに赤味を帯びた結晶を取り出し、足元の地面に叩きつける。
「な、何を――」
リリアの疑問の言葉も最後まで告げられぬまま、砕けた結晶を中心に半径一・五メラほどの魔法陣が浮かび上がった。
「さぁ! 今こそ目覚めの時だ! 結晶に封じられしものよ……目の前の敵を喰らい尽くせ!」
「ギィィィイアアアアアアアアアアッ!」
甲高い声で呼びかけたヴィオレットの言葉に呼応するように、魔法陣の中から全長五メラにも達する一体の巨大な魔物が姿を現した。
虎の頭に人間の胴体という外見の魔物は、体表に無数の人間の顔が浮かび、背中からは人間の腕らしきものが六本生えている。虎の頭の右目は赤く染まり、左目はそれ自体が肥大化し緑に染め上げられていた。
「合成獣か……」
軽く舌打ちして吐き出したリリアの言葉に、ヴィオレットは凶悪な笑みを見せて告げる。
「あぁそうさ。コイツは私自ら手塩にかけて作り上げた完成形だ。舐めてかかると喰われるぞ?」
「そのようだな……」
キメラが放つ威圧と殺意を全身に受けながら、リリアは表情を引き締める。
ヴィオレットに加え、アイゼンにキメラと厄介な相手が立ちはだかる。位置的にリリアたちは敵に挟まれた格好となった。
だが、それを前にしてもリリアとシルヴィに撤退の二文字は無かった。
「ここで負ければ私たちに明日はない。たとえ四肢を砕かれようともお前らの好きにはさせん」
「ははっ! いいねぇ~その強気な態度は嫌いじゃない。さぁて……いつまでそれが続くかな?」
小さく呟いたリリアは、軽く息を吐いて気持ちを入れ替えると、真っ直ぐに敵に向かって走り出した。
第4話 紅蓮再炎
リリアとシルヴィが街の入り口でヴィオレットと対峙していた頃。
それよりもさらに街の中へと道化門で移動したツグナ率いるレギオン「ヴァルハラ」の面々は、目的地であるイリスのいる王城へと向かっていた。レギオンマスターであるツグナを除き、二人一組で行動する彼女らは、王城から見て左右及び背後からの接近を試みている。
城の東側からはキリアとソアラが、反対の西側からはリーナとアリアが、北側からはツグナがそれぞれ向かっている状況にあった。
その中でもキリアとソアラがいる東側は住宅が密集している区画であった。建物の間をすり抜けるように駆ける二人は、走りながらも周囲に目を配り、極力戦闘を避けるように移動していた。
「……不気味だね。首都なのに人っ子一人いないだなんて」
街の様子を観察していたソアラがぽつりと零す。国の中枢を司る場所であるはずのこの街だが、人影を見ることはなかった。
「えぇそうね。ただ、おかげで私たちは余計な時間をかけずに向かえるから願ったり叶ったりだけれど」
キリアがそう答える。陽光が街を照らしているものの、実際にその場にいる二人にとっては、まるですっかり夜の帳の下りた真夜中の街に突然放り込まれたような印象だった。
「――ソアラっ!」
そんな感傷に浸っていたソアラを、鋭いキリアの声が現実に呼び戻す。ハッと我を取り戻せば、直径一メラほどの炎球が前から二人に襲い掛かろうとしていた。
「くっ!?」
迫りくる突然の脅威に、ソアラは即座に全身に魔力を巡らせて魔闘技を発動すると、真横に建っていた建物の壁を利用して三角跳びの要領で炎球を回避する。高温の熱に炙られ、思わず眉をひそめたソアラとキリアに、その声は降りかかった。
「へぇ……コソコソと動き回るネズミがいると思ったら……あの時無様な姿を晒したヤツらとはね」
「「お前は――っ!」」
軽く鼻で笑いながら呟かれた言葉に、ソアラとキリアは鋭い目を向ける。二人の視線を受け止めたのは、かつて「呪い島」と呼ばれる孤島で対峙した、「色持ち」の一人である「赤き炎」であった。
「ちぇっ……あの異端者はいないのかぁ。こりゃあハズレだね。折角あの時の御礼をしようかと思っていたんだけど」
二人の刺すような視線を飄々と受け流し、ロートの口は依然として軽やかであった。棒付き飴を口の中で転がしながら喋るその仕草は、年相応の子供然としている。
だが、彼女から漏れ出る威圧と殺気は、高レベルな冒険者でさえも息を呑むほどだ。
「まぁいいや。サクッとキミたちを燃やせば、いずれはあの異端者にも出会えるだろうしね。ククッ……楽しみだなぁ。お前らは紅蓮に燃える炎の中で、一体どんな声を聴かせてくれるんだろうね」
バキリと口に含んでいた飴を噛み砕き、凶悪な笑みを浮かべるロートに、一気に場の空気が張り詰める。
ピリピリと肌を刺激する空気に包まれた中、今度は別の建物の陰から別の声が響いた。
「こらこらロート。折角向こうから来てくれたんだ。いきなり燃やしちゃうのは無粋というものじゃないのかい?」
「「――っ!?」」
落ち着いたその声に、ロートと向かい合っていたソアラとキリアはちらりと視線を向ける。
(一体どこから……)
目を走らせるキリアの背に、冷たい汗が流れる。先ほどまでわずかな気配も見落とさぬように注意を払いながら進んできた彼女たちだったが、今の声を聞くまでロートの他に誰かいることを察知できなかった。
(あの声の主は完璧に自分の気配を消している。もし、この状態で襲われたなら……)
キリアの抱いた懸念を読み取ったのか、ソアラの顔にはいつになく厳しいものが浮かんでいた。
戦闘において、自分の居場所を相手に悟らせない技術は大きなアドバンテージとなる。大抵の場合は奇襲する際に発揮されるものだが、高レベルな二人でも察知できないほどの技量を持つ相手ならば、戦闘中であっても気配を消すことは造作もないだろう。
(ロートだけなら二人で抑え込めると思ったけど……これはなかなか厳しいわね)
不意に現れたロートの仲間を警戒し、ソアラの杖を握る手に自然と力が入った。
だが、陰に隠れていた声の主はやおら姿を現した。驚くべきことに、姿を見せたのは二人の男性だった。声の主とは別に、同等の実力者が潜んでいたのである。
一人は緑色のローブを身に着けた栗色の髪を持つ青年。もう一人は金髪に紫色の瞳を持つ少年であった。姿を見せた二人に向けて、ロートはプクッと頬を膨らませて不満を訴える。
「えぇ~そうは言ってもさぁ『緑の風』。こっちは一刻も早くあの異端者と殺り合いたいんだよ。アイツに味わわされた屈辱を万倍にして返さないと、こっちの気が晴れないんだよ~」
駄々っ子のように両腕を大きく振り回して訴えるロートに、グリューンと呼ばれた青年は微笑を湛えながら口を開く。
「まぁ、ロートの言い分も分からなくはないけどね。でも、ボクらもいるんだから、キミ一人で独占するのはあんまりだよ」
そう言いつつ、「ね? アデルもそう思うだろ?」と傍らに微笑むグリューンに、金髪の少年――アデルはコクリと頷く。
「ロートだけはよくない……」
ポツリと呟いたアデルは、右腕から魔書を引き抜いて自らも戦う意欲を示す。
(――魔書持ちか! いよいよ気の抜けない戦いになってきたわね……)
異様な存在感を示すその魔書を確認したキリアは、ソアラとアイコンタクトを交わしてアデルに対する警戒度を引き上げると共に、彼を優先して叩くことを確認し合う。
これは、一つの系統魔法にのみ特化した「色持ち」の二人よりも、魔書という強大な力を持ちつつも、具体的な能力が判然とせず対策を取りづらいアデルの方が脅威度が高いと判断したためだ。
(けど……そうすんなりこちらの思惑通りに運ばせてくれる相手とは思えないんだけどね)
一瞬のアイコンタクトを済ませたキリアは、相対する三人の敵から放たれる威圧に耐えつつも、心の中にわずかばかりの不安を零す。
「はいはい分っかりましたよーだ。だったら皆でサクッと殺しちゃお」
そうしたキリアの不安をよそに、ちょっと近くまで買い物に行く感覚で「殺す」と明言したロートに、グリューンとアデルは嬉しそうな顔を浮かべて頷いた。
「んじゃ、始めようか――ゾクゾクするような殺し合いを、さ」
にんまりと微笑みながら告げるロートの言葉を端緒に、ソアラとキリアの戦いは幕を開けたのだった。
第5話 裏切者
キリアとソアラがロートたちとの邂逅を果たした頃。
西側から侵入した双子の姉妹――リーナとアリアもまた「色持ち」と対峙していた。
「まさか貴方がここにいるとは……」
立ち止まったリーナが、相対した敵に冷ややかな目を向けて口を開く。隣に立つアリアは腰に吊った細剣を既に抜いており、その切っ先を相手に向けていた。
その姉妹の視線を真正面から受け止めているのは、背に逆さ十字が刻まれた純白のコートを纏う「白の枢機卿」である。また、彼の隣には橙色のローブを纏う「橙の大地」とフリル付きの淡い水色のドレスを身に着けた、緑髪の少女がいる。
「本来ならば私もイリス様の隣にいるはずなのだが……あの異端者に一度敗北を喫した私には、イリス様の横に立つ資格は無いのでな」
あの遺跡迷宮での一戦を思い出したのか、ギリッと奥歯を噛みながら悔しげに呟くヴァイス。一方、対照的にその横にいるオランジュは、茫洋とした目で「どうでもいい」とばかりに二人を見つめていた。
「だが、これも神の思し召しというものか。ここで『裏切者』の双子に出会うとはな。異端者に付き従っている時点でお前らは我らの敵。あの時の雪辱も含め、絶望の中で殺してやる」
蛇のような目つきで姉妹を見つめるヴァイスからは、彼の心の中に巣食う妄執が見て取れる。しかし、面と向かって「裏切者」と呼ばれてもなお、二人の心は揺らがなかった。
リーナは毅然とした態度で言い放つ。
「お生憎様。私たちは何と言われようと兄さんを支える。私たち姉妹を『家族』として迎え入れてくれた兄さんの前に立ちはだかる障害は、私たちが排除する」
「フン、散々人間を殺しておいてそんな言葉がよく吐けたものだな。お前たちの手は既に血に塗れている。今さらそのような綺麗事を並べる立場ではないだろう」
ヴァイスの指摘に二人は押し黙った。彼の言う通り、リーナとアリアは以前所有していた魔書を使い、「色持ち」たちと行動を共にして人を殺してきたからである。
それは紛れもない事実だ。
――でも。いや、だからこそ。
「私たちは今までの私たちじゃない。たとえ消えぬ過去に後ろ指を差されても、今度は前を向いて歩く。過去に縛られた貴方に、負けるわけにはいかない」
「小娘共が……」
リーナの言葉に額に青筋を浮かべて怒りを露わにするヴァイス。だがそれに構うことなく、彼女は言葉を続けた。
「来なさい。矮小で狭量な枢機卿。貴方がどれほど愚かしい人間か、私たちが証明してみせる」
「生意気な……オイ、いつまで呆けている! さっさとあの裏切者共をやれ!」
ヴァイスは声を荒らげながら、隣に立つオランジュと少女に指示を出す。狂ったように喚くヴァイスに一瞬不快な表情を浮かべたオランジュだったが、一歩進み出て静かに言葉を紡いだ。
「イリス様に仇なす裏切者は……ここで死ね」
可視化できるほどに濃密な魔力を身体の周りに漂わせたオランジュは、スッと右手を持ち上げた。彼女の動きに連なるように、周辺の大地から集められた土がいくつものブロックを形成する。押し固められた強固なそれらが、ふわりふわりとオランジュを囲っていた。
「……行け」
パチンと指を鳴らすと同時、重力を無視して浮かんでいたブロック状の土の塊がリーナに向けて襲い掛かった。宙に浮かぶブロックは、見るからに相当な重量を誇っている。
スピードの乗ったそれをまともに食らえば、骨が折れるだけでは済まないだろう。当たり所が悪ければ、最悪死に至るほどの破壊力があるはずだ。
だが、その放たれたブロックがリーナに直撃する寸前。
「――閃螺斬鉄っ!」
リーナの前に飛び出したアリアの手に握られたレイピアによって、襲い掛かったブロックは細切れにされたのだった。
「ボクのことを忘れてもらっては困るなぁ~」
不敵な笑みを浮かべて告げる彼女の言葉に、オランジュは不愉快そうな表情を浮かべる。
「へぇ……あのレイピア使い。相当な技量の持ち主ですね」
その一方で、アリアの動きを遠くから眺めていた緑髪の少女は、他人事のように彼女を評価していた。
「敵を称賛してどうする」
ポツリと呟かれた少女の言葉を耳にしたヴァイスが、眉根を寄せ不快感を露わにしながら窘めるも、「ですが、事実ですから」と素っ気ない言葉が返ってくるだけであった。
レイピアは他の剣に比べて細く、重量が軽い。これは斬ることよりも、素早く相手の鎧の隙間を刺突することを重視したためだ。その結果、手数は増えやすいものの、一撃に込められる破壊力はどうしても剣の中でも低い部類に入る。
そのような特性により、通常であればオランジュの放ったブロックを一閃で断ち切ることは不可能である。
しかし、その不可能であるはずのことをアリアはやってのけた。それはひとえに彼女がこの三年の間に磨き上げてきた剣術とその果てに獲得した「閃螺斬鉄」の技による。
閃螺斬鉄は、認識した相手の攻撃を一閃のうちに断ち切る技である。魔法によって形成された炎球や電撃などは対象外となるものの、その破壊力は鋼鉄すら容易く斬り裂くほどだ。
この技をもってすれば、いかに重武装の者でも一瞬のうちにその鎧ごとなます切りにできるだろう。
これほどまでの技を難なく扱えるアリアの剣術の技量は、既にこの世界でもトップクラスに入る。相手の攻撃を瞬時に見切り、臆することなく前へと進み出て、流れるような無駄のない所作で叩き切る。
その戦いは、まさに彼女の称号である「剣戦姫」を体現するものであった。
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