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第五話
ノエルの真実(2)
しおりを挟む床下から出てきたノエルが、恐る恐る迅くんに近寄るのを、私と真紀ちゃん、そしてきなこくんは少し離れた場所で固唾を飲んで見守っていた。
迅くんは今、冬馬くんの人格をその身に降ろしているそうで、今ノエルには迅くんが冬馬くんに視えているらしい。
「うまくいくといいんだけど、なにしろ父さんとネット知識の合わせ技なんちゃって呪術だからなぁ……」
『おとーさん物知りだったねぇ!!』
とにかくノエルを捕獲することが最優先となり、まず頼ったのはお寺の住職をされている真紀ちゃんのお父さんだった。
しかし今は年末の日本。神社仏閣はゆく年くる年の準備で大忙しであり、真紀ちゃんの家のお寺も例に漏れずだった。
そんな猛烈に忙しい中でも真紀ちゃんのお父さんは今回使えそうな技を教えてくれたのだが、「あとはネットで調べろ!!」とネットに丸投げされたらしい。
それでいいのか、とも思ったし、そもそもネットで調べて出てくるのかと思ったけれど、案外出てきた。それでいいのか、ともう一度言いたくなった。
元々は神霊をその身に降ろして、神霊の意図を伺って対策を立てるための術らしい。冬馬くんは普通の人間だが、確かにある意味「神」である。主に我々にとって。
冬馬くんの人格を降ろし、ノエルを誘い出したところで「筒封じ」と呼ばれる封印術を行う。
昔は竹筒や壺など何か密閉できる容器に閉じ込めたらしいが、現代ですぐに用意できる手頃なものがファンシーなクッキー缶しかなかった。ちなみにピンク色。手に収まるくらいの正方形で、サイズ感や頑丈さは申し分ないのだが、正直言ってあまり強そうには見えない。
そのファンシーな缶の中に「猫霊封じ・急急如律令」と書いた人形を入れた。
「あー……まずいな、警戒されてる」
室外機の影から迅くんとノエルの方を伺う。
術をかけたと言われても、私にはどう見ても迅くんにしか見えなかったのだが、ノエルは床下からそろりと出てきた。どうやら術はちゃんとかかっているらしい。真紀ちゃんのお父さんとネットすげぇ。
しかし、ここからが難しかった。ある程度ノエルが迅くんの手に届くところに来ないと封じることができないのだ。術がかかっているとはいえ、やはり警戒しておいそれと近寄ってこない。
息を呑んで見守っていたのだが、ふと、ノエルが体を翻した。
あ、と思った次の瞬間に、迅くんが足元に隠していた缶を手に取って、ノエルに飛びつく。
どう見ても缶よりノエルの方が大きいのに、ノエルは一瞬で缶に吸い込まれていった。
「確保ー!!」
真紀ちゃんの掛け声と同時に室外機の影から駆け出して、二人と二匹で缶の蓋を全力で抑える。
私たちが押さえている間に、迅くんが手早く缶を麻糸でぐるぐる巻きにする。
『おのれおのれおのれおのれおのれ!!』
大人数で缶を抑えているというのに、ドコドコとものすごい力で押し返してくるし、ドスの効いた怒鳴り声が響く。あんなかわいい姿から、こんな治安の悪そうな声が聞こえるなんて信じられない。
「よしっ!!」
迅くんがぎゅっと最後に力一杯麻糸を片結びにする。二人と二匹全員で息を吐き出した。
『出せ出せ出せ出せ出せ出せー!!!!!!』
なんとか封印できたものの、缶が内側から殴られているかのようにぼこぼこになっていく。
猫の姿の時はもちろん人の姿の時も綺麗で華奢だったので化け猫感が薄かったが、こうしてみると完全に化け猫だ。
姿が見えなくなった途端、本性を表すとはある意味化け物らしいっちゃらしい。
「兄貴の血こわ…………」
ぜいぜいと荒い息を吐きながら、迅くんがぼそりとつぶやいた。
この中では一番体力があって若い迅くんが一番に息を整え終わって、ノエルを封印している缶を片手で拾う。
「ゼロ感でも幽霊吸引体質なんだったら、幽霊を惹きつける何かを元々持っているのかもね。元々の繋がりが深ければ余計に」
続いて真紀ちゃんが大きく息を吐き出しながら立ち上がった。
『あんたら絶対タダじゃおかない!! 末代まで祟り殺してやる!!』
缶の中で響いている憎悪の声に、その場の全員が黙り込んだ。本当に祟り殺されそうだ。
きなこくんなんか恐怖のあまりかちんこちんに固まってしまっている。かわいそうに。
『私を騙した!! よりにもよって冬馬の姿になって!!』
「今の大変な時期に兄貴引っ張り出す訳にはいかねーだろ。風邪でも引っ掛けてきたらどうすんだよ」
『だからってやって良いことと悪いことがあるでしょ!!』
それをあんたが言うんかい……と思わず思ってしまった。
「おいノエル」
迅くんがコンコンと缶の蓋を手の甲で軽く叩く。それまで騒いでいたノエルが静かになった。
「大人しくしねぇとこのまま埋めるぞ」
『大人しくしたら埋めるんでしょ!』
「大人しくしねぇと埋めるぞって言っただろ……」
テンションが上がって缶の中からこっちの言葉に噛みつきまくるノエルに、迅くんはげんなりとした表情を浮かべた。
悪しきものを封じて、二度と出てこないようにする。本来の筒封じはそうするらしい。
だが、私たちはそうする為にノエルを封じたわけではない。
ノエルと冷静に対話をする為にこの方法を選んだ。
「大人しくしたら、兄貴に会わせてやる」
それまでは火がついたように叫んでいたノエルが急に静かになった。
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