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第一話
神席への道(2)
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二次会への参加はそこまで強制力がないので、終電を理由に早々に離脱した。
「はぁ……」
吐き出したため息が白く染まる。
子供の頃は吐いた息が白くなるのが面白かった。冬になると意味もなく息を吐いて白くなる自分の息を面白く感じていたものだが、今となってはため息が可視化されてしまって余計に疲れた気持ちにさせられる。
もう周りに会社の人はいないので、コートのポケットに入れたスマホを取り出す。
クリアケースに挟んでいたのは、推しのイベントで配られたステッカーだった。
折れたら嫌だからスマホケースに挟んでいたのだが、イベントの時の興奮を忘れたくなくてそのままにしていた自分の迂闊さを呪う。
戒めの為に今日家に帰ったら速攻でスマホケースを変えようと心に誓った。
飲み会の疲れも相まってもう一度ため息をつくと、手の中のスマホがブルブルと震える。着信だ。
画面に表示されたのは、一番仲の良いオタク友達の名前。迷うことなく通話ボタンを押す。
『蛍、来年のライブのチケット発券したー?』
「まだ。さっきまで会社の飲み会だったから」
『うわー、お疲れ。私さっき発券してきたんだけどスタンド席だったわ。ごめん』
「いやいや、行けるだけで幸せだって」
『そうだけど……! そうなんだけどさ……! できるだけ推しは近くで見たい……!』
「それは分かる」
はは、と飲み会では全く出なかった笑いが自然とこぼれ落ちた。
来年の一月半ばに、私達が推しているアイドルグループがライブを開催する。ここ数年で知名度がグッと上がり、テレビでの露出もそれに比例して増えてきた為、チケットの抽選も激戦と化していた。
ライブに行けるだけでもありがたい。でも、願わくば、なるべく前の、推しが見やすい席で推しの姿を見たい。
そう思ってしまうのは最早オタクの本能である。欲を言えば本当にキリがない。なんならライブ中トイレを心配しなくて済む鉄の膀胱が欲しいし、瞬きするのすら惜しいので乾燥をものともせず、瞬きを必要としない鉄壁の瞳が欲しい。
欲望がこの程度で済むなんて、我ながら平和だなと思った。
「このあとコンビニ寄って発券してくる。出たくもない忘年会も頑張って出て徳を積んだんだし、どうか神席当たりますように!!」
興奮のあまり後半はほぼ叫ぶように言ってしまい、すれ違ったサラリーマンがギョッとしていた。本当にすみません。怪しいものじゃありません。ただのしがないオタクです。
『いやマジで頼む! ていうか帰り道気をつけて帰りなよ~。最近物騒だし。一人暮らしの女は近所のコンビニでアイス一個だけとか買っちゃダメなんだって』
「え? なんで?」
『溶けるからアイスを買うのって大体近所じゃん。しかも一個だけって一人暮らしっていうことが推察されるらしい。だから犯罪の標的にされやすいってこの間ニュースで見たよ』
理由が分からなさすぎて、一瞬そういう都市伝説なのか? とすら思ったが、どうやら違うらしい。悪いことを考える人は視点が違うな。もっとそう言う視点を世の為人の為に使いなさいよと思う。
「生きづらい世の中だなぁ……大体アイスくらい自由に買わせて欲しいよね……」
『ねー。でも、私食いしん坊だから絶対一度に三つくらいアイス買っちゃう』
「防犯! 防犯の為致し方なし! よって無罪!」
ゲラゲラ笑いながら夜道を歩く。
飲み会の時はあんなに酔えなかったのに、ここに来て一気に酔いが回ってきた気がする。
「じゃ、後で席番号連絡するね」
『はーい。健闘を祈ってる~』
通話したままではコンビニの店員さんに迷惑なので、店に入る前に通話を切った。
店内にある機械で手続きをして、機械から出てきたレシートを店員さんに渡してチケットを受け取る。
その場ではなるべくチケットを直視しないようにして、急いでコンビニを出た。
一息ついて覚悟を決め、ようやくチケットに印字されている座席番号を確認する。
「…………マジで?」
座席番号を見た瞬間、比喩ではなく息が止まった。
会場の座席表を調べなくても分かる、特等席。
アリーナ一列目だ。しかもセンター付近。
自分の人生でお目にかかる日が来るとは思ってもいなかった数字の羅列に、数秒間頭が真っ白になる。
「え、うそ。マジ? マジで? 夢じゃない? 一列目? スタンドじゃなくてアリーナの? 何? 私今日死ぬの?」
信じられなくてブツブツ呟いてみるが、チケットの座席番号は何度見返しても変わらない。
夢じゃない。夢のようだけど、夢じゃない。
往年の人気アニメ映画のワンシーンが思い浮かぶし、実際踊り狂いたいほど心の内は狂喜乱舞している。しかし、衝撃のあまり手足が震えるだけで無様にも程がある。
とりあえず友に連絡しようと、コンビニを後にしてコートのポケットに入れていたスマホを再び取り出した。
震える指先で連絡先を呼び出そうとしていると、自分の歩いている道の先に何か白い物体があることに気付く。
「袋……?」
車道と歩道が分かれていない、一方通行の道。周りは住宅街で、今は時間も時間なので車通りは少ないが、あの大きさのものが道の真ん中にあるのはあまり良くないだろう。
よくよく目を凝らせば、白い物体からゆらりと細いものが出てきて、にょきりと姿を変えて思わずひえっと悲鳴が漏れた。
一対の金の瞳がこちらを捉える。
猫だ。
一匹の白い猫がおすわりの姿勢でこちらを見つめていた。
動物は好きだが、夜に見る猫は反射的にどきりとしてしまう。
にゃあ、と猫が鳴いた。
まるで呼ばれているような気がして、フラフラと猫の方に近寄ってしゃがみ込んだ。
私が手を伸ばすと、猫は私の手に頭を擦り付けてくる。久しぶりに感じる生き物の温もりに、思わず胸がキュンとした。
「お前人懐っこいねぇ。飼い猫さん?」
撫で回しながら首輪の有無を確認するが、首輪はなかった。しかし野良にしては毛艶がいい気がするが、野良にしては人懐っこい。
猫のファンサービスにメロメロになっていると、視界が突然ぐるんと回った。
どさっといろんなものが落ちる音がして、自分の頭上からひらひらと何かが落ちてくる。
先ほど発券した神席のチケットだ。
金輪際お目にかかることができないかもしれないプラチナチケットを慌てて掴もうとするが、届かず地面に落ちた。
私がチケットに飛びつく前に、ほっそりとした指先がチケットを攫う。
「これは私が貰うわね」
『それは私のチケットなんですけど!?』
声を発したつもりがにゃあにゃあという声にかき消される。
チケットを攫った相手を見上げると、白くて長い髪をなびかせた美女がこちらを見下ろしていた。金色の目をしていて、思わずどきりと心臓が跳ねる。
美女はこの極寒の中、ノースリーブの白いワンピースを着ていて、こちらの方が寒くなる気がした。
薄気味悪い美女は、こちらを見てにんまりと三日月のように目を細めて嗤った。
「私のチケット? 猫が何を言っているのかしら。これは人間様のものなのに」
『はぁ!?』
「じゃあね~」
『ちょっと!!』
追いかけようとしたが、美女は暗闇に溶けるように、ふっと姿を消してしまった。
唖然としていたがそれどころではない。
とにもかくにもチケットを取り戻さなければ。
こういう場合ってどこに連絡すればいい!? とりあえず警察か!? と思ってスマホを取り出そうとするが、どうにもうまくいかない。
なんで!? と下を見れば、なぜかふわふわの毛並みが見える。白と茶と黒の、三毛模様。
『えっ、えっ……えっ!?』
自分の体を確認する手も、ふわふわ。
周りには自分の持ち物が散らばっていて、さっきとは違うドキドキで体が震えている。
まるで全身が心臓になったかのような気持ちだ。鞄の中から鏡を引っ張り出して自分の姿を確認した。
鏡の中には、いつもの見慣れた顔はなく、一匹の三毛猫の姿が写っていた。
『えっ、うそ、えっ、なにこれ……本物だ……』
ぺたぺたと鏡を触った自分のてもふわふわの小さなクリームパンみたいになっている。肉球はぷにゅぷにゅ。
呆然と鏡を見つめていると、強い光に照らされて一瞬目が眩んだ。
『ぎゃー!!??』
ものすごいスピードで車がこちらに向かっている。びっくりして命からがら道の脇に飛んだ。
自分のすぐ後ろを車が通り過ぎていくのを、風で揺れる体毛で体感する。
それと同時にバキバキバキ、と聞きたくない破壊音が聞こえた。
『いーやああああああー!!!!』
振り返って確認して思わず叫び声を上げる。
自分の荷物が車に轢かれていた。
とりあえず見知らぬお宅の生垣の下に、ぺしゃんこになってしまった自分の鞄を引きずって身を隠す。
『ああああああ……』
一番懸念していたスマホはなんとか無事だったものの、気に入って使っていたボールペンや、手鏡なんかは鞄の中で粉々に砕け散っていた。
今日一日を頑張るため、鞄忍ばせていた推しのぬいぐるみもなんとか無事だったので、不幸中の幸いとしか言えなかった。
なぜか姿が猫になってしまっていることと、荷物を車に轢かれたこと、私の神席チケットが謎の美女によって持ち去られたこと。
この世の不幸の詰め合わせ豪華デラックス三点セットみたいなことになっていて、もう笑うしかない。全く笑えないけれども。
最も腹が立つのは私の神席チケットを持ち去られたということである。
私が猫になってしまったことの原因も、タイミング的にチケットを持ち去った謎の美女が鍵を握っている。
今の私にとっての優先順位は、チケットを取り返すために謎の美女を追い、元の姿に戻してもらう。これだ。現時点での最適解。
生垣の下から飛び出て、謎の美女が消えた方角を睨みつける。
絶対に見つけ出してチケットを取り返す。そして神席で推しの姿を間近で拝んで成仏するんだ。
成仏できるかどうかは知らないけれど。
私は復讐心にも似た炎を心の内に宿して、夜の道を駆け出した。
「はぁ……」
吐き出したため息が白く染まる。
子供の頃は吐いた息が白くなるのが面白かった。冬になると意味もなく息を吐いて白くなる自分の息を面白く感じていたものだが、今となってはため息が可視化されてしまって余計に疲れた気持ちにさせられる。
もう周りに会社の人はいないので、コートのポケットに入れたスマホを取り出す。
クリアケースに挟んでいたのは、推しのイベントで配られたステッカーだった。
折れたら嫌だからスマホケースに挟んでいたのだが、イベントの時の興奮を忘れたくなくてそのままにしていた自分の迂闊さを呪う。
戒めの為に今日家に帰ったら速攻でスマホケースを変えようと心に誓った。
飲み会の疲れも相まってもう一度ため息をつくと、手の中のスマホがブルブルと震える。着信だ。
画面に表示されたのは、一番仲の良いオタク友達の名前。迷うことなく通話ボタンを押す。
『蛍、来年のライブのチケット発券したー?』
「まだ。さっきまで会社の飲み会だったから」
『うわー、お疲れ。私さっき発券してきたんだけどスタンド席だったわ。ごめん』
「いやいや、行けるだけで幸せだって」
『そうだけど……! そうなんだけどさ……! できるだけ推しは近くで見たい……!』
「それは分かる」
はは、と飲み会では全く出なかった笑いが自然とこぼれ落ちた。
来年の一月半ばに、私達が推しているアイドルグループがライブを開催する。ここ数年で知名度がグッと上がり、テレビでの露出もそれに比例して増えてきた為、チケットの抽選も激戦と化していた。
ライブに行けるだけでもありがたい。でも、願わくば、なるべく前の、推しが見やすい席で推しの姿を見たい。
そう思ってしまうのは最早オタクの本能である。欲を言えば本当にキリがない。なんならライブ中トイレを心配しなくて済む鉄の膀胱が欲しいし、瞬きするのすら惜しいので乾燥をものともせず、瞬きを必要としない鉄壁の瞳が欲しい。
欲望がこの程度で済むなんて、我ながら平和だなと思った。
「このあとコンビニ寄って発券してくる。出たくもない忘年会も頑張って出て徳を積んだんだし、どうか神席当たりますように!!」
興奮のあまり後半はほぼ叫ぶように言ってしまい、すれ違ったサラリーマンがギョッとしていた。本当にすみません。怪しいものじゃありません。ただのしがないオタクです。
『いやマジで頼む! ていうか帰り道気をつけて帰りなよ~。最近物騒だし。一人暮らしの女は近所のコンビニでアイス一個だけとか買っちゃダメなんだって』
「え? なんで?」
『溶けるからアイスを買うのって大体近所じゃん。しかも一個だけって一人暮らしっていうことが推察されるらしい。だから犯罪の標的にされやすいってこの間ニュースで見たよ』
理由が分からなさすぎて、一瞬そういう都市伝説なのか? とすら思ったが、どうやら違うらしい。悪いことを考える人は視点が違うな。もっとそう言う視点を世の為人の為に使いなさいよと思う。
「生きづらい世の中だなぁ……大体アイスくらい自由に買わせて欲しいよね……」
『ねー。でも、私食いしん坊だから絶対一度に三つくらいアイス買っちゃう』
「防犯! 防犯の為致し方なし! よって無罪!」
ゲラゲラ笑いながら夜道を歩く。
飲み会の時はあんなに酔えなかったのに、ここに来て一気に酔いが回ってきた気がする。
「じゃ、後で席番号連絡するね」
『はーい。健闘を祈ってる~』
通話したままではコンビニの店員さんに迷惑なので、店に入る前に通話を切った。
店内にある機械で手続きをして、機械から出てきたレシートを店員さんに渡してチケットを受け取る。
その場ではなるべくチケットを直視しないようにして、急いでコンビニを出た。
一息ついて覚悟を決め、ようやくチケットに印字されている座席番号を確認する。
「…………マジで?」
座席番号を見た瞬間、比喩ではなく息が止まった。
会場の座席表を調べなくても分かる、特等席。
アリーナ一列目だ。しかもセンター付近。
自分の人生でお目にかかる日が来るとは思ってもいなかった数字の羅列に、数秒間頭が真っ白になる。
「え、うそ。マジ? マジで? 夢じゃない? 一列目? スタンドじゃなくてアリーナの? 何? 私今日死ぬの?」
信じられなくてブツブツ呟いてみるが、チケットの座席番号は何度見返しても変わらない。
夢じゃない。夢のようだけど、夢じゃない。
往年の人気アニメ映画のワンシーンが思い浮かぶし、実際踊り狂いたいほど心の内は狂喜乱舞している。しかし、衝撃のあまり手足が震えるだけで無様にも程がある。
とりあえず友に連絡しようと、コンビニを後にしてコートのポケットに入れていたスマホを再び取り出した。
震える指先で連絡先を呼び出そうとしていると、自分の歩いている道の先に何か白い物体があることに気付く。
「袋……?」
車道と歩道が分かれていない、一方通行の道。周りは住宅街で、今は時間も時間なので車通りは少ないが、あの大きさのものが道の真ん中にあるのはあまり良くないだろう。
よくよく目を凝らせば、白い物体からゆらりと細いものが出てきて、にょきりと姿を変えて思わずひえっと悲鳴が漏れた。
一対の金の瞳がこちらを捉える。
猫だ。
一匹の白い猫がおすわりの姿勢でこちらを見つめていた。
動物は好きだが、夜に見る猫は反射的にどきりとしてしまう。
にゃあ、と猫が鳴いた。
まるで呼ばれているような気がして、フラフラと猫の方に近寄ってしゃがみ込んだ。
私が手を伸ばすと、猫は私の手に頭を擦り付けてくる。久しぶりに感じる生き物の温もりに、思わず胸がキュンとした。
「お前人懐っこいねぇ。飼い猫さん?」
撫で回しながら首輪の有無を確認するが、首輪はなかった。しかし野良にしては毛艶がいい気がするが、野良にしては人懐っこい。
猫のファンサービスにメロメロになっていると、視界が突然ぐるんと回った。
どさっといろんなものが落ちる音がして、自分の頭上からひらひらと何かが落ちてくる。
先ほど発券した神席のチケットだ。
金輪際お目にかかることができないかもしれないプラチナチケットを慌てて掴もうとするが、届かず地面に落ちた。
私がチケットに飛びつく前に、ほっそりとした指先がチケットを攫う。
「これは私が貰うわね」
『それは私のチケットなんですけど!?』
声を発したつもりがにゃあにゃあという声にかき消される。
チケットを攫った相手を見上げると、白くて長い髪をなびかせた美女がこちらを見下ろしていた。金色の目をしていて、思わずどきりと心臓が跳ねる。
美女はこの極寒の中、ノースリーブの白いワンピースを着ていて、こちらの方が寒くなる気がした。
薄気味悪い美女は、こちらを見てにんまりと三日月のように目を細めて嗤った。
「私のチケット? 猫が何を言っているのかしら。これは人間様のものなのに」
『はぁ!?』
「じゃあね~」
『ちょっと!!』
追いかけようとしたが、美女は暗闇に溶けるように、ふっと姿を消してしまった。
唖然としていたがそれどころではない。
とにもかくにもチケットを取り戻さなければ。
こういう場合ってどこに連絡すればいい!? とりあえず警察か!? と思ってスマホを取り出そうとするが、どうにもうまくいかない。
なんで!? と下を見れば、なぜかふわふわの毛並みが見える。白と茶と黒の、三毛模様。
『えっ、えっ……えっ!?』
自分の体を確認する手も、ふわふわ。
周りには自分の持ち物が散らばっていて、さっきとは違うドキドキで体が震えている。
まるで全身が心臓になったかのような気持ちだ。鞄の中から鏡を引っ張り出して自分の姿を確認した。
鏡の中には、いつもの見慣れた顔はなく、一匹の三毛猫の姿が写っていた。
『えっ、うそ、えっ、なにこれ……本物だ……』
ぺたぺたと鏡を触った自分のてもふわふわの小さなクリームパンみたいになっている。肉球はぷにゅぷにゅ。
呆然と鏡を見つめていると、強い光に照らされて一瞬目が眩んだ。
『ぎゃー!!??』
ものすごいスピードで車がこちらに向かっている。びっくりして命からがら道の脇に飛んだ。
自分のすぐ後ろを車が通り過ぎていくのを、風で揺れる体毛で体感する。
それと同時にバキバキバキ、と聞きたくない破壊音が聞こえた。
『いーやああああああー!!!!』
振り返って確認して思わず叫び声を上げる。
自分の荷物が車に轢かれていた。
とりあえず見知らぬお宅の生垣の下に、ぺしゃんこになってしまった自分の鞄を引きずって身を隠す。
『ああああああ……』
一番懸念していたスマホはなんとか無事だったものの、気に入って使っていたボールペンや、手鏡なんかは鞄の中で粉々に砕け散っていた。
今日一日を頑張るため、鞄忍ばせていた推しのぬいぐるみもなんとか無事だったので、不幸中の幸いとしか言えなかった。
なぜか姿が猫になってしまっていることと、荷物を車に轢かれたこと、私の神席チケットが謎の美女によって持ち去られたこと。
この世の不幸の詰め合わせ豪華デラックス三点セットみたいなことになっていて、もう笑うしかない。全く笑えないけれども。
最も腹が立つのは私の神席チケットを持ち去られたということである。
私が猫になってしまったことの原因も、タイミング的にチケットを持ち去った謎の美女が鍵を握っている。
今の私にとっての優先順位は、チケットを取り返すために謎の美女を追い、元の姿に戻してもらう。これだ。現時点での最適解。
生垣の下から飛び出て、謎の美女が消えた方角を睨みつける。
絶対に見つけ出してチケットを取り返す。そして神席で推しの姿を間近で拝んで成仏するんだ。
成仏できるかどうかは知らないけれど。
私は復讐心にも似た炎を心の内に宿して、夜の道を駆け出した。
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