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そんなメニューはありません
最近、田中さんといると、ほっこりするな
しおりを挟む昼前、そろそろ混んでくる時間だけど大丈夫かな、と思いながら、めぐるは食堂に様子をうかがいに行っていた。
すると、ガラス戸を開け、あの大学生の子たちが出てくる。
昼食を早めにとって出て来たらしい。
「おばあさまのミニ三色おはぎ、美味しかったね」
などと笑顔で話している。
おばあちゃんの三色おはぎっ。
私も食べたいっ、と思ったとき、彼女らが言った。
「それにしても、めぐる様、もう復活されて、旅立たれたなんて」
「寂しいけど。
ちょっと嬉しいね」
微笑んで語り合っている彼女らがめぐるの方を向きそうになり、やばいっ、と思った瞬間、誰かが小道からめぐるの腕を引っ張った。
「こっちだ」
と田中が小声でささやき、家と家の間の小さな路地から反対側の道に抜けさせる。
「危ないとこだったな」
「ありがとうございます……」
ファンの人たちの夢を壊してはいけない、と思っためぐるは、もうここには来れないな、と思う。
「逃亡者になった気持ちです。
それにしても、田中さん、どうして、そんな小道から」
「いや、いろいろ考え事をしながら、散歩しているうちに、いろんな路地に入り込んで。
結構面白いから、ずっと狭い路地を選んで歩いてたんだ」
どうりで、最近、店の前を散歩してないはずだと思った。
いや、田中さんの姿を探していたわけではないのだが……。
今通った狭い路地を振り返りながらめぐるは言う。
「そういえば、子供の頃はよくこういう道を通ってましたね。
大人になったら、身体が大きくなって狭く感じるからか、通らなくなっちゃいましたけど」
あと、車で移動することが多いからかな、とめぐるは思う。
「そういえば、お地蔵様が木のお堂の中に入ってるところがあった気がするんですけど」
「あったぞ」
こっちだ、と田中に導かれ、近くの家と家の間を通っていく。
日が当たらなくて、湿った路地にはところどころ苔が生えていたりして。
そういえば、ここ、小学校のとき同じ登校班だった子を迎えに行く道だったな、と思い出す。
懐かしいな……。
一度広い道に出て、そのまま目の前にあるもうひとつの路地を通っていると、確かにあのお地蔵様が見えた。
「あっ、これですっ。
そうそう。
みんな遊んでるときは、適当な道通ってるから。
二度と見つからないモノとかあったりして。
このお地蔵様も『まぼろしの呪いの地蔵』とか言われたんですよ」
「……まぼろしのはわかるが、二度と見つからなかっただけで、呪いの地蔵呼ばわりされるとは、お地蔵様も災難だな」
確かに……とめぐるは苦笑いする。
お地蔵様は真新しい赤い帽子とよだれかけをやっていて。
ちゃんとお参りされてるんだな~という感じがする。
むやみやたらと道端のものに手を合わせてはいけないと言うが、昔のご近所さんだし。
呪いの地蔵とか言っていたおわびもかねて、拝んでおこう。
狭いので、しゃがむのは難しかったから、立ったまま地蔵の前で手を合わせる。
目を開けると、横で田中も合わせていた。
なんかほっこりするな、田中さんといると、とめぐるは思う。
いや、目はいつも、戦士みたいな目なんだが。
きっと頭の中にいつも将棋盤があるんだな、と思いながら、
「田中さん、お礼にお昼おごりますよ」
とめぐるは言った。
「お礼?
なんの?」
「えーと、助けてもらったお礼と、お地蔵様を教えてくださったお礼です」
「別におごってくれなくてもいいが。
まあ、ちょうど昼は食べようと思ってたところだ」
と言う田中と広い道に出ると、向こうから健が歩いてきた。
田中は何故か向きを変えようとする。
「おはようー、田中。
あ、めぐるちゃんも」
と健はニコニコ手を振ってきた。
これから二人でお昼を食べに行くと言うと、
「そうなんだ?
うちの店でなんか食べる?」
と健は訊いてくる。
「健さんのお勤め先って、レストランとかカフェなんですか?」
うちの店であのゼリーを出したいとか言ってたな、と思い出し、めぐるは訊いてみた。
「いや、ホストクラブだよ」
……それでいつも昼いたのか。
「まだ店開いてないけど。
今日はちょっと早めに行く用事があって。
飯作んの上手い人がいるんだ。
来る?」
「いや、結構だ」
と田中は即行断る。
あ、そう、と言う健は何故か笑っている。
「じゃあまたねー」
と手を振り行ってしまった。
うーん。
結局、二人きりでランチか。
まあ、最近は田中さんといても、そこまで緊張しないかな、と思いながら、
「田中さん、どこか行きたいところ、ありますか?」
とめぐるは訊いてみる。
「いや、特に。
……百合香さんのチャーハンが食べたいが、出入り禁止になってしまったしな」
申し訳ございませんっ、とめぐるは頭を下げたあとで、
「じゃあ、町中華とかがいいですかね?」
と提案してみる。
そういえば、いい店があったんですよ~、と言っためぐるだったが、店名が思い出せなかった。
「えーと。
なんだったかな」
スマホを開いて検索をかけ、めぐるは言った。
「思い出しましたっ。
劉龍ですっ」
「それ、思い出したんじゃなくて、調べただけでは……」
さすが天才棋士、指摘が細かいな……、
と思いながらも、スマホで行くルートも調べる。
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