同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ

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私の推しは、にーろくふです

ご当地スイーツVS天花めぐるスイーツ

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 めぐるたちが食べ終わった頃、その人物はやってきた。

 目立つ人だ。

 どこかで見たような……?

 男は田中よりちょっと顔が濃く、少しだけ色が黒かった。

 周りの客がざわめいている。

 その男は大股に近づいてくると、いきなり、めぐるの手を取った。

「天花めぐるさんですね」

「あ、あの、どなたですか?」
「黒木田です」

「あ、ああ……」

 なるほど、黒木田さん。
 田中さんもいるから、それでみんなが騒いだのか、とめぐるは気づく。

「お前、対局見たんじゃないのか」
と小声で田中に言われ、

「お着物でしたので」
と言うと、

「……お前、まさか、俺のことも着替えたらわからなくなるとか?」
と田中は怯える。

 いえいえ。
 あなたの服はすでに何パターンも見ているではないですか。

 と言いたいところのことは、それじゃない、と田中に言われそうなことをめぐるは思っていた。

「竜王戦。
 田中のための菓子を作るらしいが」

 そう黒木田に言われ、

「ああ、別に田中さんのためだけというわけでも――」
とうっかり言って、田中に、なにっ? と振り向かれる。

 いや、なんだかんだでプロなので。

 田中さんだけではなく、対戦相手の方のためにも。

 しばらくそのメニューをホテルで出すと言われたので、お客様たちのためにもいろいろ考えて作るつもりだ。

「そうか。
 例え、君の作るスイーツが誰のためでも、俺は君のために勝とうと思う。

 そうだ。
 はじめまして」

「あ、は、はじめまして」

 二人はあいさつの握手を交わした。

 ――黒木田。
 恐ろしい奴だ。

 なぜ、初対面なのにあいさつの前に愛を語る。

 そんな顔で男連中は彼を見ていた。

「いや、失礼。
 久門がなぜか竜王戦に君を賭けると言ってきたので」

「はあ……」

「俺が勝って、久門が君をもらうというのは、俺は違うと思う」

「……誰が考えても違うと思いますね」

「それで、竜王戦、もし、俺が田中に勝ったら、俺が君をもらおうと思う」

「あのー、初対面ですよね?」

「そうなんだが。
 なにかを賭けた方が、人は強くなれる気がする。

 雑誌で君を見たとき、そんなに好みじゃないなと思ったんだが。

 こうして間近に見ると、少しは好みな気がしてきた」

 いや、無理やり好きにならなくてもいいのでは……。

 だが、黒木田はあくまでも、対局のために言っているようだった。

「仮想敵国じゃないが。
 俺の仮想の恋人になってくれないか。

 愛が最強と言うじゃないか。
 君を自分の想い人だと思って戦ったら、力が湧いてくるんじゃないかと思うんだ」

 そこで、健が口を挟んできた。

「なんだ、その、まるで、恋に恋してる中高生みたいなの……」

 そこでようやく気づいたようで、黒木田は健を振り向き言った。

「……健、いたのか」

 田中が小声で、めぐるに教えてくれる。

「黒木田は健が苦手なんだ。
 ああ、対局のときの話だが」

「名人の黒木田さんは、健さんが苦手なんですか。
 竜王の田中さんは、久門さんが苦手なんですよね」

「いや、久門は全員、苦手だろ」
と聞こえていたらしく、黒木田が言う。

「あいつと向かい合っていると、騒がしい気配の粒子が飛んでくる気がして落ち着かない」

「繊細な奴は大打撃だよな」
と健が同意する。

「いろいろ相性があるからねえ」
と師匠は笑ったあとで、

「そういえば、黒木田くんは、なんで健くんが苦手なのかな?」
と黒木田に訊いていた。

 黒木田は健を見ながら、
「……イケメンで」

 いや、あなたもですよ。

「陽キャだから……」
と言う。

 そんな理由でっ?

「俺と対極にいる人間だから苦手なんです」

 確かに黒木田は陽気そうではないが、かなり女子受けしそうな重厚な感じなのだが。

 こんな立派そうな人にも、そんなコンプレックスがあったとはっ、とめぐるは驚いた。



 店を出たあと、めぐるは言った。

「それぞれ、苦手な方がいらっしゃるんですね。
 なんか、さんすくみみたいですね」

「四人いるけどな」
と田中が容赦なく言ってくる。

 ただのものの例えではないですか……。

「でも、健さん、こんなこと訊いてあれなんですけど。
 黒木田名人もおそれるほどの方なのに、なぜ、やめられたんですか」

「……対戦相手がすべて黒木田じゃないからだよ」

 な……なるほど。

 

「田中とは絶対に当たりたくない。
 あいつ、強すぎて全て打ち負かすから、『盤上の死神』って言われるらしいけど。

 いや、俺なんか対戦相手に田中の名を見ただけで、即死してたからっ。
 ふだん一緒に打ってる相手なのに、まったく先が読めなくて怖いんだよ。

 ほんと、地獄からの一手がやってくるっ、みたいな感じだった」
と田中の恐怖について語った健の話をさんざん聞いたあと、めぐるは家に帰った。

 そろそろこの長屋も取り壊し。

 片付けねばな。

 まあ、物はあまりないけど。

 百合香の
「ところで、あんた、いつまで日本にいるんだい」
という言葉を思い出しながら、めぐるは祈る。

 田中さん、次は勝ちますように――。



 めぐるの祈りが効いたのか。
 その後、竜王戦七番勝負は、田中が連続三勝して、幕を閉じ。

 六番目と七番目の対戦場所は泣いた。



「グッズもいっぱい作ってしまったので。
 竜王戦の対局はなくとも。

 ぜひ、田中竜王と黒木田名人を招いて、イベントを行いたいと将棋連盟に早くから、かけあってたんですけど。

 承認されましたので。

 めぐる先生、スイーツの方、よろしくお願いいたします」
とホテルの人から連絡があった。

 田中竜王と黒木田名人以外の対局もあるらしい。

 ともかく、ご当地スイーツとめぐるのスイーツがメニューに載るようだった。



「田中竜王はともかく、他の棋士の人はどっちを選ぶかしらね。
 ご当地スイーツVS天花めぐるスイーツね」
とその話を聞いたルカが喜んだ。

 ……いや、戦うのは棋士の人たちで。

 私は別にご当地スイーツと戦うわけではないのだが。

「もうできてるの? スイーツ」

「あ~、いくつかは作ってみたんだけど。
 なにが正解なのか」
とスマホに載せている試作品を見せようとすると、ルカは、

「おっとっ、見せないでっ。
 楽しみにしときたいからっ」
と客目線で言ってくる。

 いや、仕事で取材に来るんじゃないのか。

「ところで、見事防衛を果たした田中竜王とはどうなったの?」

「ど……どうにもなってないけど」

「田中竜王が勝ったんだから、田中竜王があんたをもらうんじゃないの?」

「……もらいたいとか言われてないから」

 勝ったら、スイーツを作ると言ったのに、いらない、と言われただけだ。

 まあ、いらないと言われたのがスイーツでまだよかったか。

「でも、竜王はあんたのことがかなり気になってるみたいだけど」

「田中さんが気になってるのは、私じゃなくて、雄嵩のブログに出てくる私みたいだよ。

 雄嵩が説明不足らくして、私にいろいろ訊いてくるんだけど。

 ピザカッターとお掃除のコロコロを間違えたことなんてあったかな~?」

「チーズが全部はげるじゃないの……」

 私、そこまではまだ読んでなかったわ、とルカは言う。

「えっ?
 安元さんも読んでるのっ?」
と驚いたが、

「若林さんと囲碁のおじいさんも読んでるみたいよ」
と言われる。

 ――いや、なぜ、そのメンツ!



 そんなしょうもない話をしながら、準備を進め、引っ越しの準備も進め。

 めぐるたちはイベントの日を迎えた。




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