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第三章 のっぺらぼう
花魁道中
しおりを挟む「なんか呼んだ以上に、人か増えてるんだが……」
と隆次が呟く。
小平に、何故か忠信の父親まで一緒に来てしまったせいだろう、と那津は思った。
いや、たまたま隆次に呼ばれたときに居たので、なんとなく連れてきてしまったのだ。
「吉原か。
久しぶりだ。
息子が失踪して以来か」
ほんとうに此処は嫌な街だ、と言う忠信の父、道信と小平は話が合うようだった。
ふたりとも此処にいい思い出がないようだからな……。
っていうか、いい思い出ないのに、なんで二人とも来てんだ、と那津は思う。
「すみません。
ご挨拶が遅れまして。
父が道信様のことはよく存じておりました」
いやいや、と終わりかけの桜の下、道信と小平が話している。
「また厄介な連中を連れてきて……」
話す二人を横目に見ながら、隆次が言う。
「道でバッタリふたりと会ったときにお前が吉原行きの話を持ってきたからだろう」
と言う那津の横で、道信が愚痴のように語っている。
「今は弟が家督を継いでくれているのですがね。
だが、あれは与力には向いていないようで。
嫁の方に婿養子に入って、普通に事務方などやりたいようなのですよ。
かと言って、せっかく持っている与力の株を手放すのも。
ああ、誰か代わりにうちに婿に入って、与力になってくれないもんですかね。
……いや、忠信が帰ってこないかな~?」
そう呟きながら、道信はチラと那津を見る。
何故、こちらを見るのですか……。
私はあなたの息子さんではありませんよ。
なにか忠信に仕立て上げられそうで怖い、と那津が思ったとき、わあ、とみんなが声を上げた。
「花魁道中だ」
と近くに居た母親に連れられた子どもが叫ぶ。
誰もが足を止め、その一団に目を奪われた。
美しい新造や可愛らしい禿。
そして、傘を差す長太郎を引き連れた花魁。
強い風に辺り一面にまき散らされた桜よりも艶やかな――。
その顔を見た隆次が、
「……明野」
思わず、そう呟くのを那津は聞いた。
気がつくと、斜め後ろの引手茶屋から男が出て来ていた。
店主たちを従えたその男は緋毛氈の敷かれた台に腰を下ろす。
「周五郎だ」
と隆次が教えてくれる。
那津は息を詰めて、色白で繊細な美貌の男を見た。
花魁道中がすぐ側を通っていく。
花魁は、ちらと遊女らしい妖しい目線を自分たちにくれたが、そのまま行ってしまった。
掌が知らず汗ばんでくる。
華やかなその一行は、周五郎の居る茶屋で足を止めた。
周五郎が微笑みを浮かべ、花魁に手を差し出すと、彼女はその上にそっと自らの手を載せる。
「……あれ、明野じゃないか?」
「そうだ。
渋川屋の若旦那に囲われてる明野だよっ」
「なんで急に出て来たんだ?」
「昼間の騒ぎのせいじゃないのか?」
「いやいや、若旦那が隠しておけなくなったんだろう? 自慢したくて」
なんと美しい女だと、みなが見惚れる。
「明野ね……」
横で隆次が、ぼそりと呟くのが聞こえた。
「いや、明野以上だよ。
顔はともかく、明野は此処まで人を呑み込むような空気を持ってはいなかった」
二人が仲睦まじく引手茶屋に入っていくのを那津は呆然と見送っていた。
かなり日も落ちた中の花魁道中。
通りにはもう提灯の灯りが灯りはじめていて、最後の桜の中、店の中に吸い込まれていく一行をより艶やかに見せていた。
「……美しいね」
眩しそうに目を細め、彼女らを見ながら道信が言う。
「此処にあるものはすべて偽物。
桜も人も」
だから美しいのだろうね――。
そう道信は言っていた。
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