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終章 色のない花火
消えた辻斬り
しおりを挟む覗き女は相変わらず覗いているという咲夜の呑気な話を那津は聞いていた。
覗き女は覗いている。
だが、辻斬りは消えたようだった。
「お前に恐れをなしたんじゃないか?」
と非常に嫌そうに小平は言っていたが。
いや、そうだろうかな? と那津は思っていた。
辻斬りがあれしきのことで、やめたりするだろうかと。
そのあと、咲夜は迎えに来た長太郎に連れられ、戻っていった。
「もう顔晒したんだから、吉原の中で習い事をしてもいいのに、未だにこっちでお師匠さんについて習ってるんだと。
単にウロウロしたいだけだろ」
そう隆次は笑っていた。
平穏が訪れそうな。
いや、終わりのときがそこまで来ているような。
そんな不思議な感じがしていた。
道信とふたり歩いて帰っていると、向こうから来た町人風の男が自分の顔を見て、ひっ、と息を呑む。
「たっ、忠信様っ」
と小さく叫び、逃げていった。
那津は男が残していった土埃に目をしばたたかせながら言う。
「あんたの息子はなにをやってたんだ」
「さあねえ。
曲がったことが嫌いな奴だったからねえ」
と道信は笑っている。
「敵が多くて、誰に殺られたのかもわからないから、復讐のしようもないね」
「……殺されたと思ってるのか?」
さあ、どうだろうねえ、となにを考えているのかわからない道信は前を見たまま言う。
「そういえば、忠信の失踪に関係あるらしい吉原の裏茶屋の男が俺のところに金を置いていった。
隆次に借りてた金をあれで返してしまったが、あんたに渡すべきだったかな」
「そんなことより、あんた、忠信になってくれないかい?」
またその話か、と那津は眉をひそめる。
「弟さんは家督を継ぎたくないのか」
「それもある。
だがまあ、それは妹に婿をとってもいい。
あんたが婿に来てくれれば言うことはないが」
「……兄と同じ顔の男は嫌だろうよ」
と言うと、確かに、と笑っていた。
「あんたが養子に入ってくれて、嫁をとってくれてもいいが。
うちに吉原一の花魁を身請けするほどの金はないからねえ」
「なんの話だ……」
「あの子はいつか、桧山を超える花魁になるだろうよ」
咲夜のことらしい。
あれが吉原一の花魁にねえ。
そんな莫迦なと思いもするが。
この間の花魁道中を思い出せば、あり得る未来のような気もしてくる。
遊女が栄華を誇れる期間は短い。
一足飛びに華となり、燃え落ちる。
咲夜が桧山を超え、吉原一の花魁になる未来は、もうすぐそこまで来ている気もした。
「息子が死んだのか、消えたのか。
この老いぼれには調べる術はもうない。
あんたが忠信のフリをして町をうろついてくれるだけで、なにかの手がかりがつかめるかもしれない。
……報酬をやろう。
あの娘を身請けできるほどではないが」
「そんな金があるのか?」
町人全盛のこの時代、むしろ、武士の方が困窮していた。
だが、ある、と道信は言った。
「妹が嫁に行くとき、手切れ金として渡されたものが」
「……妹?」
道信は足を止め、那津を振り返る。
「協力してくれてもいいんじゃないかね?」
親戚のよしみで、と道信は笑ってみせた。
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