エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
13 / 375
第1章

第13話

しおりを挟む
 この世界の生物は、特殊な体質でもない限り魔力を有している。
 原理としては、空気中の魔素を吸収し、それが体内で魔力に変わり、その魔力で魔法を使えるらしい。
 そして、生物の種類によって魔力を体内にとどめておける容量は違い、同じ人間でも生まれながらにその量は違う。
 魔力を使わずにいて容量を越えた魔力は、自然と空気中のに霧散してまた魔素に代わる。
 その容量は、魔力を使ったり、コントロールをすることを繰り返し行うことで、少しずつ広がっていく。
 広がると言ってもほんの僅かずつなため、地味で地道な努力が必要になってくる。
 そういった地道なことが苦手な者は他にも方法がある。
 理由は解明されてはいないが、生物を殺すことでも容量は広がるらしい。
 ゲームならレベルアップで片付けられるが、今のケイにとっては現実のことなので頭に入れておかなければならない知識だ。
 そして、それは魔物でも同じと言われている。
 つまり、キュウも同じ。

 ケイに魔力があると教えてもらったキュウは、それからはずっと魔力をコントロールする練習をしている。
 まず、始めに体内の魔力を感じ取り、それができてから動かす訓練をするのだが、キュウとは言葉が交わせないので、ちゃんと魔力を感じ取っているのか分からない。
 食事や睡眠、そしてケイに遊んでもらえる以外の時間を練習に当てているのだが、一向に魔法が使える気配はない。

“コテッ!”

「ん? またか? キュウ」

 これで何度目になるだろうか、ポケットの中のキュウが動かなくなっていた。
 魔力の枯渇などではなく、疲労による気絶だ。
 最初この姿を見た時、死んでしまったのかと思ってとんでもなく慌てたものだ。

「あんまり根を詰めるなよ。確かにお前にも魔力はあるけど、相当な期間練習しないと使えるようになるとは思えないからな」

 目を覚ましたキュウは、ケイに注意を受けてしょんぼりしている。
 キュウにも魔力があることは分かっている。
 しかし、それはほんとに微弱、かなり注意して見ないと気付かないほどだ。
 ケイでも魔法で火を出すのに一定量の魔力が必要だ。
 まずは魔力をコントロールできるようになって、使える容量を増やさないと使えるようにはならないだろう。
 魔力の容量を増やすには、容量を超えた魔力が体外に出て行くのを抑え、体内にとどめておくようにするだけだ。
 容量を越えた魔力が体内にあると、皮が少し伸びるように最大容量がほんのすこし広がる、
 それを毎日繰り返すことでキュウでも魔法を使えるようになると思っている。
 ただこの練習は地味で結果が分かりにくい。
 しかも、かなり集中しないといけないので精神的疲労を伴う。
 ケイも毎日練習しているが、疲れるので寝る前にやるようにしている。

「気長にやった方が続くと思うぞ」

“…………コクッ!”

 ケイが撫でながら優しく言うと、キュウもゆっくり頷いた。
 それからキュウは、気絶しない程度の練習に変わっていった。



 キュウの練習成果はまだ見えないが、ケイの方の探知術は結構上手くなってきた。
 というのも、はっきり言ってアンヘルのおかげだろう。
 アンヘルが基礎練習をしっかりしていたからこそ、こういった応用的な技術がすんなりと習得できているのだとケイは思っている。
 その探知術を利用して、今日は海藻の入手をできないかを試しにきた。
 海は目の前に広がっているので、中に入って取れば海藻はすぐ手に入る。
 しかし、この周辺は結構波が荒い。
 5歳のこの体で入ると溺れそうで怖い。
 それに、前世で溺れて死んだ記憶があり、まだちょっと海で泳ぐのは控えたい気持ちもある。

 海岸から拠点までの探知はまだできないが、半径2、30mくらいは広げられるようになった。
 それを使えば浅瀬の海藻がどこに生えているか分かるはずだ。

「あった!」

 海岸付近は見つからず、足場の悪い岩場に移動して探知術を試してみたら、何種類か海藻を発見することができた。

「とりあえず、取ってみよう」

 パッと見た感じ、ケイが海藻で分かるのはわかめだけ、このまま海に入らず取れないか昨日考え付いた方法を試して見ることにした。
 わかめに触れている部分の魔力だけを操作して切り取り、それをまた魔力を操作して掴み、引き寄せるという考えだ。

「おぉ! 成功だ!」

 魔力の一部をちょっとだけ刃物のように鋭くし、わかめを切り、それを魔力にくっつけるようにして引き付ける。
 魔力を細かく変化させることは難しく、まだゆっくりしかできない。
 しかし、相手が生き物でもないので、ゆっくりでも充分。
 ケイは海に入らずわかめを手にいれることができた。
 魚や貝だけの生活から一歩脱出だ。
 
「早速食べよう!」

 テンションも上がり、ケイはこのままわかめを食べようと、塩ゆですることにした。

「おぉ!」

 沸騰したお湯に洗ったわかめをくぐらせると、きれいな緑色に変化した。
 前世でよく食べていたワカメだ。

「……上手い! ……けど、ドレッシングをかけたい」

 美味いことは美味い。
 たが、前世ではみそ汁やサラダでよく食べていたのでちょっと物足りなさを感じた。
 それでも久々に味わうこの食感は楽しい。

「できれば今度は昆布だな」

 日本人なら出汁が飲みたい。
 海藻が取れるなら昆布も取れるだろう。
 ただ、昆布は結構海岸から離れた場所にあるのか、今回の探知には引っかからなかった。
 もう少し探知術の練習して、届く距離を伸ばさないとだめそうだ。

「地道に練習だな……」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...