エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
23 / 375
第2章

第23話

しおりを挟む
 人族大陸の南西の地、砂漠
 フードを深くかぶった1組の男女が、町中の人混みを歩いている。
 2人とも腰に2本の刀を差している。

「…………っ!? 父上!」

「あぁ、つけられている」

 お互い顔を見る訳でもなく、小声で話し合う2人。
 会話からすると2人の関係は親子のようだ。
 後方からは数人が人混みに紛れながら、付かず離れず2人を追いかけてきている。

“バッ!!”

 尾行に気付いた2人は街角を曲がると走り出した。

「っ!?」

 急に走り出した2人を尾行していた者たちも、追いかけるように走り出す。
 リーダーらしき男が指で合図を送ると、どこからか現れた者たちが増え、先行していた者たちを追いかけ始めた。

「っ!? 速い!?」

 懸命に逃走する親子だが、追っ手から距離を取ることができない。
 それどころかジワジワと詰められてきている。

「…………美花! 俺が囮になる。先に予定地に向かえ!」

 このままでは追っ手を撒けないと判断したのか、父親の方は腰に刺した刀を抜いた。
 迎え撃つつもりのようだ。

「そんな、私だけ……」

 追ってきている者たちは、その速さからいってその道に長けた者なのだろう。
 そんな者たちが、探知で分かるだけで5人。
 自国ではそれなりに名を馳せた実力を持つとはいえ、父1人で抑えきれる保証はない。
 父を置いていくことにためらい、美花と呼ばれた娘は足を止める。

「いいから、行け!!」

「…………はい!」

 自国では女が武術を習うなど良く思われない風潮がある。
 しかし、美花は追われる身。
 父の憲正のりまさは娘の美花が自らの身を守るように剣を教えだした。
 剣の才があったのか、美花はメキメキ腕を上げた。
 それでも、まだまだ父には遠く及ばない。
 今この場に自分がいるのは、父にとって足手纏い。
 それを理解した美花は、役に立てない悔しさに唇を噛みながらも父の指示に従い走り出した。





「あった!!」

 数隻の船が停泊している予定の場所にたどり着いた美花。
 そこから少し離れた所にある岩場に隠れるように、1隻の船が隠すように停泊してあった。

「……はっ!?」

“スタッ!”

 父が来たらすぐに出せるようにと船に乗り込もうとした美花だったが、その手前で1人の男が目の前に降り立った。
 そのすぐ後、その者と同じ黒の忍び装束をした者たちが降り立ち美花を囲んだ。
 それに対し、美花は刀を抜いて構える。

「美花様。大人しく我々についてきてもらえませんか?」

「断るわ!」

 船の前に降り立った男が言うと、囲んだ者たちは全員膝をついて美花へと頭を下げた。
 この男がリーダーのようだ。
 しかし、その言葉を美花は取り付く島無しと言わんばかりに斬り捨てる。

「御爺様で在らせられる貞満さだみつ様の御加減が宜しくありません」

「………………」

 御爺様とは、首都に住む皇族より統治を任された綱泉将軍家、その初代の血を受け継ぐ一族の一つで、国の西方を任された一族、西方将軍家と呼ばれている。
 そこの現当主は子に恵まれず、唯一の娘は一人の男と姿をくらました。
 その娘が美花の母である。
 大陸へ逃げ美花を生むが、美花が7歳の時病にかかり命を落とした。
 美花からしたら、見たこともない祖父の名前を出されても知ったことではない。
 どうやって彼らの囲みを突破するべきか、話を聞き流しながら無言で隙をうかがう。 

「現在西方将軍家の血を受け継ぐ方は美花様しかおりません」

「私の知ったことではないわ!」

 話していたリーダーの男がさらに深く頭を下げた。
 それを隙ありと判断した美花は、地を蹴り斬りかかった。

「申し訳ありませんが、少々手荒でも構わぬと申し使っております」

 美花の攻撃をあっさりと横に躱し、男は拳を握った。

「っ!?」

 その男の拳が美花の腹に振るわれる寸前、男に向かって刀が飛んできた。
 腹を殴るのを中断し、男は大きく後ろに飛び退きその刀を回避する。

「待たせた……」

「父…………上?」

 飛んで来た刀から分かっていたが、追っ手を相手にしていた父が来たことで美花は安心感から笑みを浮かべた。 
 が、笑みはすぐに驚愕へと変わった。
 美花を背にかばい、敵に目を向ける父の憲正は体中血まみれで、斬り傷だらけだった。

「……美花。済まんが俺はここまでのようだ」

「……父上?」

 父娘2人を囲む者たちも、憲正が現れたことで背中に背負っていた鞘から短刀を抜いた。
 殺気のこもった目を見る限り、憲正は殺害対象なようだ。
 これまでとは比べ物にならないほどの実力の追っ手に、憲正も自分の命の最期を悟ったように呟いた。

「美花、お前には剣の才能がある。生き抜いて自由に生きろ! お前の母のように……」

「父上!」

 今まで一度として褒めたことなどなかった父の言葉に、美花も父との逃走が終わりだと分かった。 

「切り開く! 行け! 美花!」

「…………はい!」

 斬りかかり、そのままぶつかるように体をぶつけて先程の男を抑え込む憲正。
 父との別れに涙を流しながら、美花は父の空けた道を走って船に乗り込んだ。

「待て!」

「逃がすな! 追え!」

 止められたリーダーの男は、他の男たちに向かって美花を追うことを指示する。

「行かせん!」

 船を出発させた美花が陸を離れるまで男たちを行かせるわけにはいかない。
 美花を追おうと動いた者たちに向かって憲正は斬りかかる。
 わざと大振りし、男たちに躱させ距離を取らせる。

「さらばだ! 美花!」

「父上!」

 背後の美花が少しずつ離れて行き、流石に追っ手の者たちでも飛び移れないほどの距離に達すると、憲正は大きな声で別れの言葉を告げた。
 そして、憲正はそのまま男たちに斬りかかる。

「父上!!」

 遠く離れ、小さく見える父が斬りかかるが、多勢に無勢。
 1人を斬るも、浅かったのかそのまま抱きつかれる。
 身動きできなくなった憲正は、左右から腹を刺され血を吐く。
 その一部始終を見ていた美花は、大きな声で叫んだ。

「父うえぇ~……!!」

 腹を短刀で刺され、それでも倒れまいと踏ん張る憲正。
 しかし、力が抜け、手から刀が落ちる。
 その状態の憲正をリーダーの男がゆっくり近づき、首を刎ねた。  
 大粒の涙を流しながら、美花は大声で叫んだ。
 もう届かないと分かっていながらも……。

 追ってから逃れ、どこへ向かっているかも分からず、それから何日の漂流を続けただろう。
 美花は船をこぎ続けた。
 元々少なかった食料も底をつき、望遠の魔道具で僅かに島が見えた日、希望が見えたと思った美花を荒れた波が飲み込んだ。















″ザッ! ザッ! ザッ!″

「……………………」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...