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第4章
第74話
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「あ~……、また負けた!」
東の海岸で、カルロスは大の字に寝転がる。
ファウストとの手合わせをして、またも負けたことに悔しがる。
「これで2勝1敗ですね?」
さっきまで持っていた木刀を消し、ファウストは横になっているカルロスに手を伸ばす。
「次は負けません!」
笑顔で出されたファウストの手を掴み、カルロスは立ち上がる。
負けたばかりだというのに、しっかりと再戦を申し込むあたりはちゃっかりしている。
カルロス自身負けず嫌いだから仕方ないかもしれない。
「またやりましょう!」
「はい!」
次男同士だからだろうか、ファウストはカルロスと仲が良くなった。
勝敗の通り、ファウストの方が実力は僅かに上といったところだ。
年齢的にはファウストの方が1つ上。
その分、大人の対応をしている。
カルロスの申し込みにも無碍に断るようなことはしない。
「おい、カルロス! ファウスト殿は王国の王子殿だぞ。あまり迷惑はかけるな」
「はは、大丈夫ですよ。レイナルド殿」
しつこく付きまとっているようなカルロスに対して、レイナルドが注意をする。
しかし、ファウストは大人の対応で返す。
「そもそも勝ちたいなら、常に距離を取って魔法で戦うのが一番だろ?」
色々な武器を使い、どの距離でも戦えるファウストだが、レイナルドが言うように魔法が得意なケイ、レイナルド、カルロスが戦うのなら遠距離戦に持ち込むのが一番勝ちやすい。
カルロスの1勝も、遠距離戦による勝利だ。
「やだよ、何かそれで勝ってもスッキリしない」
折角、レイナルドが忠告をするのだが、カルロスは聞き入れない。
父や兄と違い、母の美花から教わっている剣技で戦うのが1番好きなカルロスは、魔法で勝つより刀での勝利が好きなのだ。
しかし、剣技は互角ながらも、魔闘術による身体強化をしても、素の身体能力で戦うファウストの方が力も速度も僅かに勝っており、その差でジワジワと追い込まれて負けている。
「若!」
「ん?」
3人が話している所へ、熊の獣人で巨体のアルトゥロが海岸に下りてきた。
「ケイ殿より食料の提供をしていただきました」
そう言って、手に持つ袋をファウストに見せる。
その中には米が大量に入っている。
「そいつはありがたいな。わざわざ回復して頂いた上に食事をごちそうになったりと、ケイ殿に礼を言わなくては……」
ケイとファウストが戦ったのは昨日のこと。
手足の欠損と言ったような大怪我はともかく、骨をくっ付ける程度の回復魔法はケイには大したことはない。
魔力が多いケイだからこそできることで、本来は数日かかる所だ。
回復魔法自体が魔力を食うため、魔力が少ない獣人では、ここまでできる人間はまずいない。
獣人が骨折をして場合、固定して骨が付くのを待つしかない。
自己治癒力が人族よりも高い獣人は、大人しくしていればあっという間に回復してしまうが、それでも数日かかってしまう。
1日の内に治してしまったケイに、ファウストたちは驚いていた。
そして、目を覚ましたファウストに、東にも海岸があり、その近くに村があることを告げ、そちらに回ってもらった。
ファウストとアルトゥロを含め、総勢50人ほどの人間が帆船に乗っていた。
攻め込むにしては思ったより人数は少なかった。
まあ、彼らは無人島だと思っていたのだから、調査にはこれだけいれば十分だったのかもしれない。
村の方に回ってもらったのは、船員に食事を振舞う為だ。
「何もない村だから、せめて食事くらい振舞わせてほしい」
そう言って、ケイはファウストたちに食事を振舞ったのだった。
ケイが作るので日向食(和食)中心の食事になってしまったが、船員たちには珍しさもあってか、かなり好評だった。
彼らは別に食料に困っているということはなかったが、料理のメニューのバリエーションが少なかったらしい。
「ケイ殿! うちの料理人にいくつか教えていただけますか?」
食事の後、結構な数の船員たちからこの言葉を聞いた。
もしかして、獣人大陸からこの島まではかなりの距離があるのだろうか。
「直線にすれば1週間で着く距離なのですが、この島に近付くには勢いの速い海流が邪魔をして、かなり遠回りしなければならないもので……」
なんでも、その海流は漁師にとっては危険な海流として知られており、年に何隻もの船が転覆して行方不明者を生み出しているらしい。
それと同じ海流が人族側にもあるそうだ。
つまり、危険な海流に挟まれた場所にこの島が存在していて、火山の噴火でもなければ気付かない場所のようだ。
「もう行ってしまうのですか?」
カルロスが残念そうに言う。
食料の餞別に感謝をケイに告げ、ファウストらは国に戻ることになった。
戻って、父である国王にこの島のことを早々に告げるためだ。
父と兄以外で、自分と同等に近い実力の持ち主であるファウストとの手合わせが楽しくて仕方がないのかもしれない。
そんな人間に会えて嬉しかったのに、あっという間に別れが来たことを残念に思っているのかもしれない。
「恐らくまた来ることになります。その時にまた手合わせしましょう」
「本当ですか? その時を楽しみにしています!」
国として認めてもらうのだから、恐らくは王との謁見をしなくてはならなくなる。
なので、ケイも代表として島から出なければならなくなるだろう。
その時迎えに来るのは、ファウストなのが濃厚だ。
カルロスはその時にでも手合わせしようと握手を交わし、ファウストを見送ったのだった。
東の海岸で、カルロスは大の字に寝転がる。
ファウストとの手合わせをして、またも負けたことに悔しがる。
「これで2勝1敗ですね?」
さっきまで持っていた木刀を消し、ファウストは横になっているカルロスに手を伸ばす。
「次は負けません!」
笑顔で出されたファウストの手を掴み、カルロスは立ち上がる。
負けたばかりだというのに、しっかりと再戦を申し込むあたりはちゃっかりしている。
カルロス自身負けず嫌いだから仕方ないかもしれない。
「またやりましょう!」
「はい!」
次男同士だからだろうか、ファウストはカルロスと仲が良くなった。
勝敗の通り、ファウストの方が実力は僅かに上といったところだ。
年齢的にはファウストの方が1つ上。
その分、大人の対応をしている。
カルロスの申し込みにも無碍に断るようなことはしない。
「おい、カルロス! ファウスト殿は王国の王子殿だぞ。あまり迷惑はかけるな」
「はは、大丈夫ですよ。レイナルド殿」
しつこく付きまとっているようなカルロスに対して、レイナルドが注意をする。
しかし、ファウストは大人の対応で返す。
「そもそも勝ちたいなら、常に距離を取って魔法で戦うのが一番だろ?」
色々な武器を使い、どの距離でも戦えるファウストだが、レイナルドが言うように魔法が得意なケイ、レイナルド、カルロスが戦うのなら遠距離戦に持ち込むのが一番勝ちやすい。
カルロスの1勝も、遠距離戦による勝利だ。
「やだよ、何かそれで勝ってもスッキリしない」
折角、レイナルドが忠告をするのだが、カルロスは聞き入れない。
父や兄と違い、母の美花から教わっている剣技で戦うのが1番好きなカルロスは、魔法で勝つより刀での勝利が好きなのだ。
しかし、剣技は互角ながらも、魔闘術による身体強化をしても、素の身体能力で戦うファウストの方が力も速度も僅かに勝っており、その差でジワジワと追い込まれて負けている。
「若!」
「ん?」
3人が話している所へ、熊の獣人で巨体のアルトゥロが海岸に下りてきた。
「ケイ殿より食料の提供をしていただきました」
そう言って、手に持つ袋をファウストに見せる。
その中には米が大量に入っている。
「そいつはありがたいな。わざわざ回復して頂いた上に食事をごちそうになったりと、ケイ殿に礼を言わなくては……」
ケイとファウストが戦ったのは昨日のこと。
手足の欠損と言ったような大怪我はともかく、骨をくっ付ける程度の回復魔法はケイには大したことはない。
魔力が多いケイだからこそできることで、本来は数日かかる所だ。
回復魔法自体が魔力を食うため、魔力が少ない獣人では、ここまでできる人間はまずいない。
獣人が骨折をして場合、固定して骨が付くのを待つしかない。
自己治癒力が人族よりも高い獣人は、大人しくしていればあっという間に回復してしまうが、それでも数日かかってしまう。
1日の内に治してしまったケイに、ファウストたちは驚いていた。
そして、目を覚ましたファウストに、東にも海岸があり、その近くに村があることを告げ、そちらに回ってもらった。
ファウストとアルトゥロを含め、総勢50人ほどの人間が帆船に乗っていた。
攻め込むにしては思ったより人数は少なかった。
まあ、彼らは無人島だと思っていたのだから、調査にはこれだけいれば十分だったのかもしれない。
村の方に回ってもらったのは、船員に食事を振舞う為だ。
「何もない村だから、せめて食事くらい振舞わせてほしい」
そう言って、ケイはファウストたちに食事を振舞ったのだった。
ケイが作るので日向食(和食)中心の食事になってしまったが、船員たちには珍しさもあってか、かなり好評だった。
彼らは別に食料に困っているということはなかったが、料理のメニューのバリエーションが少なかったらしい。
「ケイ殿! うちの料理人にいくつか教えていただけますか?」
食事の後、結構な数の船員たちからこの言葉を聞いた。
もしかして、獣人大陸からこの島まではかなりの距離があるのだろうか。
「直線にすれば1週間で着く距離なのですが、この島に近付くには勢いの速い海流が邪魔をして、かなり遠回りしなければならないもので……」
なんでも、その海流は漁師にとっては危険な海流として知られており、年に何隻もの船が転覆して行方不明者を生み出しているらしい。
それと同じ海流が人族側にもあるそうだ。
つまり、危険な海流に挟まれた場所にこの島が存在していて、火山の噴火でもなければ気付かない場所のようだ。
「もう行ってしまうのですか?」
カルロスが残念そうに言う。
食料の餞別に感謝をケイに告げ、ファウストらは国に戻ることになった。
戻って、父である国王にこの島のことを早々に告げるためだ。
父と兄以外で、自分と同等に近い実力の持ち主であるファウストとの手合わせが楽しくて仕方がないのかもしれない。
そんな人間に会えて嬉しかったのに、あっという間に別れが来たことを残念に思っているのかもしれない。
「恐らくまた来ることになります。その時にまた手合わせしましょう」
「本当ですか? その時を楽しみにしています!」
国として認めてもらうのだから、恐らくは王との謁見をしなくてはならなくなる。
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