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第5章
第83話
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「ところで……」
カンタルボス王国の王であるリカルドとの挨拶は済んだ。
その後、ケイと美花は彼らと夕食を共にした。
堅苦しいのが嫌だからとか言う理由で、わざわざ王族だけで会うというのは、随分な自信家なのかもしれない。
元々、挨拶と同盟の調印だけの予定だったし、終わったのなら早々に島に帰りたいところだ。
夕食も食べ終わり、席を立とうとしたところで、ファウストから伝えられていたスルーすることができない話が残っているのを、ケイは思い出した。
「手合わせをしたいと聞いたのですが?」
王であるリカルドが、自ら戦いたいなんて、もしかしたら何かの間違いなのではという思いもしたため、ちゃんと聞いておこうと思った。
ファウストが嘘をつく理由がないので間違いではないのだろうが、できればリカルドと戦うのは勘弁願いたい。
握手をした時、ケイの肉体の2倍、いや、3倍はあろうかというほどの腕をしていた。
あんな腕で殴られたら、ケイの頭なんてスイカのように吹き飛ぶだろう。
当然、魔闘術を使えばそんな風になるとは思わないが、まともに食らえば一発で失神してしまいそうだ。
綺麗な服を着ているが、腕同様に全身が筋肉に覆われているのは見ただけで分かる。
そんなのを見ると、戦いたいだなんて思う奴はネジが飛んでるとしか言いようがない。
「おぉ、ファウストから聞きましたか?」
その話を振られたことで、リカルドは嬉しそうな元々笑顔だったのが、より一層輝いた。
そんな笑顔を見せられたら、冗談じゃないことは一発で分かる。
ケイの僅かな期待が脆くも崩れた。
「ファウストに手も足も出ないと言わしめた実力を知りたいもので……」
『めっちゃ笑顔じゃん』
今この場でも大丈夫と言いたそうな顔をリカルドがしてくるので、ケイはドン引きした。
ケイがファウストと戦って勝ったのは確かだが、ファウストの実力は相当なもので、無傷だっとは言ってもそこまで乖離した実力差があるとは思えなかった。
リカルドからしたら、ファウスト以上の実力があるというだけで興味の対象なのかもしれない。
しかも、掟破りのエルフというのも興味を上乗せしてるのだろう。
「場所も用意したので、明日にでも願いたい」
「……どこか練兵所とかでやるのですか?」
内心では断りたいところだが、それは明らかに無理そうだ。
とりあえず大怪我しないようにしたいが、どこでやるのか気になる。
「近くに闘技場があるのでそこでやりたいと思います」
「……そうですか」
リカルドが闘技場と言ったところで、ファウストの眉が僅かに反応していたのが見えたが、ケイは嫌な予感がしたので気にしないことにしておいた。
「今日はお疲れでしょうからゆっくりお寛ぎ下さい」
「……ありがとうございます。では失礼いたします」
リカルドの口調は普通なのだが、何かちょっと含みのある笑顔にも見えた。
明日のことを考え、気にしすぎると寝れなくなりそうだったため、ケイは美花と共に与えられた部屋へと向かって行ったのだった。
◆◆◆◆◆
「父上、本当にやられるのですか?」
ケイたちが与えられた部屋へ入った頃、残ったリカルドたちは、執務室に集まっていた。
扉を閉めてすぐに問いかけたのは、王太子のエリアスだった。
「当たり前だ。ケイ殿も了承していただろ? お前が戦いたいと言いたいのか?」
「確かに、それもありますが……」
ファウストが負けたという相手には確かに興味があるし、できればどれほどのものか手合わせしたいという思いがある。
しかし、父が相手をすると言い出したら、割り込めるとは思わない。
今回の所は引く気だが、ケイのことが不憫に思えた。
「正確に伝えてはいないではないですか!」
ケイは確かに了承したが、どのような状況で戦うことになるかということは全く伝えていない。
そのことを父より口止めされていたファウストは、手合わせを受けてくれたケイへ失礼な対応に思え、父ながら若干腹が立ち口調が荒くなってしまった。
「ケイ殿もなんかあると気付いてたんじゃないか? お前の反応見えてたみたいだし……」
「しかし……」
話をしながら、リカルドはケイの目線をしっかり見ていた。
なので、ファウストがワザと眉を上げた反応も見ていたことに気付いた。
そのうえで何も言ってこなかったのだから、何かあるとは分かっているはずだ。
「命にかかわることでもないし、別に良いだろ?」
「ま、まぁ……」
たしかに言ってることはそうなので、そう言われるとファウストは何も言い返せなくなってしまった。
「やめなさい、ファウスト。今のリカルドは私も諦めているわ」
「そう。無駄~!」
エリアスとファウストの息子に詰め寄られても、リカルドは全く表情を変えようとしない。
とても明日のことを楽しみにしているのが分かる。
そんな様子に、王妃のアデリナとその娘のルシアは無駄だと諦めているようだ。
「そうですね。俺たちも諦めよう」
「兄上……」
母で駄目なら息子の自分たちが何を言っても無意味。
なので、エリアスとファウストも観念することにした。
そんな中、リカルドは明日の戦いのことが楽しみなため、一人想像の世界へと旅立っていた。
「…………何? この規模……」
翌日予定通り闘技場に連れていかれたケイは、現状を見てポカンとするしかなかった。
昨日のリカルドの笑みはこれのことだったようだ。
カンタルボス王国の王であるリカルドとの挨拶は済んだ。
その後、ケイと美花は彼らと夕食を共にした。
堅苦しいのが嫌だからとか言う理由で、わざわざ王族だけで会うというのは、随分な自信家なのかもしれない。
元々、挨拶と同盟の調印だけの予定だったし、終わったのなら早々に島に帰りたいところだ。
夕食も食べ終わり、席を立とうとしたところで、ファウストから伝えられていたスルーすることができない話が残っているのを、ケイは思い出した。
「手合わせをしたいと聞いたのですが?」
王であるリカルドが、自ら戦いたいなんて、もしかしたら何かの間違いなのではという思いもしたため、ちゃんと聞いておこうと思った。
ファウストが嘘をつく理由がないので間違いではないのだろうが、できればリカルドと戦うのは勘弁願いたい。
握手をした時、ケイの肉体の2倍、いや、3倍はあろうかというほどの腕をしていた。
あんな腕で殴られたら、ケイの頭なんてスイカのように吹き飛ぶだろう。
当然、魔闘術を使えばそんな風になるとは思わないが、まともに食らえば一発で失神してしまいそうだ。
綺麗な服を着ているが、腕同様に全身が筋肉に覆われているのは見ただけで分かる。
そんなのを見ると、戦いたいだなんて思う奴はネジが飛んでるとしか言いようがない。
「おぉ、ファウストから聞きましたか?」
その話を振られたことで、リカルドは嬉しそうな元々笑顔だったのが、より一層輝いた。
そんな笑顔を見せられたら、冗談じゃないことは一発で分かる。
ケイの僅かな期待が脆くも崩れた。
「ファウストに手も足も出ないと言わしめた実力を知りたいもので……」
『めっちゃ笑顔じゃん』
今この場でも大丈夫と言いたそうな顔をリカルドがしてくるので、ケイはドン引きした。
ケイがファウストと戦って勝ったのは確かだが、ファウストの実力は相当なもので、無傷だっとは言ってもそこまで乖離した実力差があるとは思えなかった。
リカルドからしたら、ファウスト以上の実力があるというだけで興味の対象なのかもしれない。
しかも、掟破りのエルフというのも興味を上乗せしてるのだろう。
「場所も用意したので、明日にでも願いたい」
「……どこか練兵所とかでやるのですか?」
内心では断りたいところだが、それは明らかに無理そうだ。
とりあえず大怪我しないようにしたいが、どこでやるのか気になる。
「近くに闘技場があるのでそこでやりたいと思います」
「……そうですか」
リカルドが闘技場と言ったところで、ファウストの眉が僅かに反応していたのが見えたが、ケイは嫌な予感がしたので気にしないことにしておいた。
「今日はお疲れでしょうからゆっくりお寛ぎ下さい」
「……ありがとうございます。では失礼いたします」
リカルドの口調は普通なのだが、何かちょっと含みのある笑顔にも見えた。
明日のことを考え、気にしすぎると寝れなくなりそうだったため、ケイは美花と共に与えられた部屋へと向かって行ったのだった。
◆◆◆◆◆
「父上、本当にやられるのですか?」
ケイたちが与えられた部屋へ入った頃、残ったリカルドたちは、執務室に集まっていた。
扉を閉めてすぐに問いかけたのは、王太子のエリアスだった。
「当たり前だ。ケイ殿も了承していただろ? お前が戦いたいと言いたいのか?」
「確かに、それもありますが……」
ファウストが負けたという相手には確かに興味があるし、できればどれほどのものか手合わせしたいという思いがある。
しかし、父が相手をすると言い出したら、割り込めるとは思わない。
今回の所は引く気だが、ケイのことが不憫に思えた。
「正確に伝えてはいないではないですか!」
ケイは確かに了承したが、どのような状況で戦うことになるかということは全く伝えていない。
そのことを父より口止めされていたファウストは、手合わせを受けてくれたケイへ失礼な対応に思え、父ながら若干腹が立ち口調が荒くなってしまった。
「ケイ殿もなんかあると気付いてたんじゃないか? お前の反応見えてたみたいだし……」
「しかし……」
話をしながら、リカルドはケイの目線をしっかり見ていた。
なので、ファウストがワザと眉を上げた反応も見ていたことに気付いた。
そのうえで何も言ってこなかったのだから、何かあるとは分かっているはずだ。
「命にかかわることでもないし、別に良いだろ?」
「ま、まぁ……」
たしかに言ってることはそうなので、そう言われるとファウストは何も言い返せなくなってしまった。
「やめなさい、ファウスト。今のリカルドは私も諦めているわ」
「そう。無駄~!」
エリアスとファウストの息子に詰め寄られても、リカルドは全く表情を変えようとしない。
とても明日のことを楽しみにしているのが分かる。
そんな様子に、王妃のアデリナとその娘のルシアは無駄だと諦めているようだ。
「そうですね。俺たちも諦めよう」
「兄上……」
母で駄目なら息子の自分たちが何を言っても無意味。
なので、エリアスとファウストも観念することにした。
そんな中、リカルドは明日の戦いのことが楽しみなため、一人想像の世界へと旅立っていた。
「…………何? この規模……」
翌日予定通り闘技場に連れていかれたケイは、現状を見てポカンとするしかなかった。
昨日のリカルドの笑みはこれのことだったようだ。
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