エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第5章

第92話

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「行くわよ! それ!」

「ワン! ワン!」

 カンタルボスから帰って、半年ほど経った。
 朝の散歩で海岸にきた美花は、従魔の柴犬のクウを相手に遊んでいた。
 ケイが作ったボールを投げ、拾いに行かせて遊んでやっている。

「よ~し! よし!」

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 少しずつ言い聞かせてきたのが良かったのか、クウは美花の言う通り投げたボールを取って帰って来た。
 それを美花に褒められ、クウはブンブン尻尾を振り回している。
 島に来た時から、クウはみんなに可愛がられている。
 犬にしては珍しい姿をしているのが要因だ。

「元気だな……」

 ケイは朝が弱いのか、テンションが低い。
 美花とクウの元気が眩しく見えた。

【しゅじん! キュウも!】

「えっ? マジで?」

 クウが遊んでもらっているのが羨ましかったのか、ケイの従魔のキュウもボール投げをねだって来た。
 いつも一緒にいるのに、キュウはちょっとやきもち焼きだ。
 ボールはいくつかあるので別に構わないが、問題がある。

「行くぞ! ほいっ!」

 ケイは、魔法の指輪からボールを出すと、結構強めに放り投げた。
 この勢いでは、海岸の隣に作ったプールの方にまで飛んで行ってしまうだろう。

【やー!!】

“ギュン!!”

 かなりの勢いでプールにまで行きそうになった所を、キュウは追いつき口でキャッチした。
 あまりの速度に、近くで見ていたクウはビックリしたのか、唖然としているようだ。
 この島に来てすぐ会った時は、アクビをしていても捕まえられそうな存在だったのに、今ではかなりの移動速度を手に入れたものだ。
 自分より格が上の存在を倒しまくったおかげか、弱小魔物のケセランパサランにも関わらず、かなりの魔法の使い手に成長している。
 さっきの移動も、風の魔法を使って移動速度を上げたのだ。
 こんな遊びに平気で魔法を使うほど、得意になってしまった。

「……よし、よし」

 取って来たのを褒めてほしいのか、キュウはケイにボールを渡すと笑顔で見つめてきた。
 仕方がないので、ケイはキュウの頭を撫でてあげたのだった。





「フッ!! フッ!!」

 ケイたちが遊びをしていたところから離れた場所で、ケイの息子のカルロスが木刀で素振りをしていた。
 その剣筋はかなり流麗で、かなりの技術なのが分かる。

「……結局また負けたな?」

 そのカルロスに対して、ケイはわざと意地悪なことを言ってやった。
 またとは、カルロスがカンタルボス王国第2王子のファウストと戦っての結果のことだ。
 半年前、ケイと美花が帰って来た時、約束通りカルロスはファウストと手合わせをすることになった。
 その時、ケイが毎度言っていることなのだが、離れて戦えという忠告を無視し、また接近戦を挑んで行ったのだった。
 結果はやはりファウストの勝ち。
 小手先ばかりの器用貧乏というイメージもなくはないが、ファウストはどの武器での戦闘も一流。
 丁寧に教わったエリートではあるが、どの武器も教科書通りの攻撃だけでなく変則的な攻撃もできるファウストは、剣が一流だけのカルロスでは戦いの幅という面で少しずつ追い込まれ、負けることになったのだ。

「くっ……! 父ちゃんも負けたんだろ?」

「……一応引き分けだ」

 ケイの嫌がらせのような発言がことのほか効いたのか、カルロスの表情は渋くなる。
 魔法は超一流なのだから、それを使えばもっと有利に戦えるはずなのに、いつも頑固に接近戦で勝ちたがる。
 忠告を無視された嫌がらせくらいしたくなるものだ。
 しかし、そんなケイにカルロスも反撃してきた。
 カンタルボス王国の王であるリカルドと一度戦って、ケイは引き分けに持ち込んだ。
 しかし、その対戦後、ケイは病室送り、リカルドは普通に仕事と、真逆の差があった。

「一応ってなんだよ!」

「うるせえよ! 負け犬!」

 ケイ自身、引き分けというのは無理があると分かっている。
 なので、息子にそこを突かれるのは腹が立つ。
 そうなったら、売り言葉に買い言葉、親子げんかに発展しそうになる。

「子供の喧嘩は止めなさい!」

「「すいません」」

 それまで黙っていたが、美花はどっちも大人げない2人に対してかみなりを落とした。
 妻に弱いケイと、剣の師である母には頭が上がらないカルロスは、大人しく頭を下げるしかなかった。




 ついでに言うと、つい先日もファウストはこの島に訪れた。
 半年に1度の定期便だ。
 その時もカルロスと手合わせしたが、ファウストが勝っていた。
 どっちも、成長速度に差がないのか、カルロスが懸命に鍛えても、同じだけファウストも強くなっているので、カルロスの頑固が治らない限り、このままの結果が続くだろう。
 その定期便で7人男女が来た。
 この島の住人のルイスと同じ村に昔住んでいた、狼人族の者たちだ。
 ケイたちが獣人大陸に行った帰り、もしもよかったらケイの島に移住しないかと誘っていた。
 同じ村出身のルイスたちがいるので、そんなに堅苦しい思いはしないと思っていたが、その通り、ルイスたちが手厚く面倒見ているため、今の所問題は起きていない。
 結局家族がいる者たちは来なかったし、年齢には少し幅がある。
 年齢が高い方と言っても、ケイたちと同じくらいで、一番下は村が崩壊した時赤ん坊だった25歳の男性だった。
 その男性は鍛冶ができるらしく、ケイは鍛冶場を作ることになった。
 これから彼に色々作ってもらうことになるだろう。
 みんな大なり小なり村が滅びた時のトラウマはまだあるそうだが、この島では魔物の相手は他の人間に任せ、のんびり過ごしてほしいものだ。

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