エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
132 / 375
第7章

第132話

しおりを挟む
「やった! 兄さんに勝ったぞ!」

「くそっ!」

 居住区の海岸で、カルロスは喜び、レイが悔しがる。
 何が起きたかというと、カルロスがレイナルドより先に転移魔法を使えるようになったからだ。

「手がまだ直ってないから、操作の感覚が微妙にズレるんだよ!」

 転移の魔法は、距離によって難易度が変わる。
 乗り込んで来た人族との戦いで、レイナルドは片手を失った。
 再生魔法で治療中なのだが、肘から先が無くなっていた腕も、今は後は手首から先だけにまで回復している。
 完治まであと少しといったところだ。

「レイはもうちょい手を治さないとな……」

 ケイも側にいたのだが、レイナルドの言っていることは良い訳ではない。
 たしかに手がなくなり、細かい魔力の制御が微妙にずれている。
 レイナルドは、ケイと美花に英才教育を受けてきたため、ここまでの大怪我をした事がない。
 そのため、微妙にコントロールが上手くいっていない感じだ。

「カルロスにも手伝ってもらおうか?」

 島のみんなに、リカルドから報復の提案を受けたことを伝えたら、みんなあっさり賛成をしていた。
 カンタルボスの軍がほぼ動いて、ケイたち側は3人だけでみんなは普段と変わらず島で過ごすだけなので、参戦する3人のことを心配はしても、自分たちのことは特に気にしていないようだ。
 その報復の下準備を、カンタルボスのリカルドと話し合うのだが、転移もできるようになった事だし、
それにカルロスもかかわらせるかとケイは美花に相談した。

「あの子まだまだだからダメ!」

 ケイの相談に、美花はピシャリと否定すした。
 ちょっとカルロスが可哀想だ。
 しかし、それも仕方がない。
 今回の戦いで、簡単に捕まったのは事実なのだから。

「安全なことでなら使ってもいいけど……」

 下準備には危険な役割もある。
 カルロスにそれを任せるには色々と心許ない。
 しかし、転移が使えるなら何か役があるだろう。
 安全なことだったら、カルロスを使うのもありかもしれない。

 



「まずはリシケサに侵入しないといかんな……」

 ラウルのルシアの結婚の話は一先ず置いて置き、ケイたちの島へ攻め込んで来たリシケサ王国への報復作戦が、カンタルボスの王城で話し合われていた。
 同盟国とはいえ、ケイたちの島が攻め込まれて来た報復を、カンタルボスが手伝う意味はそれ程ない。
 カンタルボス国王のリカルドが、ケイたちの島が気にいっているというのもあるが、そこを乗っ取られて人族側の拠点にされることが面倒だ。
 獣人族大陸へちょこちょこ問題を吹っ掛けてくる人族たちにとって、ケイたちの島はちょうどいい中継地点になる。
 乗っ取られたら人族たちには面倒極まりない。
 そうならないためと言うのと、人族へ報復するちゃんとした理由ができるチャンスを待っていたというのもある。
 数が多いだけに、人族はやたらしつこい。
 だから、一度分からせてやりたいという思いがあった。
 今回は絶好のチャンスだ。 

 報復するにも準備が必要。
 そのためには、ケイたちが重要になって来る。
 そもそも、報復をしようと思ったのも、ケイたちの転移魔法があるから思いついたことでもあるからだ。
 まずは敵国を調べることから始める必要がある。

「じゃあ、俺と美花の2人で行って来ましょう」

 人族大陸の記憶があるのはアンヘルで、ケイの記憶と言うのとはなんか違う気がするが、今回はその記憶が役に立つ。
 と思ったが、

「じゃあ、私が送るわ。王都はないけどリシケサには行ったことがあるから……」

 リシケサへ行くとなると、ケイの転移だと、アンヘルの記憶を利用して、まずパテル王国に行ってから北のリシケサ王国へと入る事になる。
 しかし、それだと入国の審査があった場合、ケイがエルフとバレて捕まる可能性がある。
 ならばと聞いたら、美花はリシケサに行ったことがるらしい。
 どういう国なの詳しく聞きたいところだけど、美花も人族大陸でのいい思い出がないらしく、あまり言いたくないような表情をしていたので、ケイは聞かないことにした。
 どんな国なのかということは、転移してから自分の目で見ればいい。
 なので、美花の転移で向かうことになった。

「お願いする。くれぐれも安全に注意を……」

「分かりました」

 美花が転移できる場所は、王都からかなり離れた場所になるらしい。
 そうなると、王都近くまで行くには徒歩になる。
 距離がどれくらいだか分からないので、もしかしたら数日かかるかもしれない。
 その間、ケイがエルフだとバレないように行動しなければならない。
 十分に注意が必要だ。

「ケイ殿! 彼らが一緒に行く諜報部隊の者だ」

 リシケサに行くのはケイと美花だけではない。
 王都内を調べるために、諜報に長けた者も一緒に連れて行くことになっている。
 リカルドはその諜報員を紹介してくれた。
 一緒に行くのは精鋭の5人。
 彼らはみんな黒装束で身を隠しているので、どんな種族なのかも分からない。

「あぁ、あなたはいつもリカルド殿の側にいる人ですね」

「っ!?」

 ケイの何気ない言葉に、指を差された一人は目を見開く。
 目だけは隠しようないのでケイにも見えているので、諜報の者が感情を出すのは良くない。
 すぐにそれを思いだしたのか、指差された彼もすぐに感情を殺した。

「……やはり、ケイ殿は気付いていたか……」

 初めて会った時、玉座の間の中はリカルド家族とケイたちしかいなかった。
 だが、さすがに警戒していたケイの探知に僅かに反応があった。
 彼の隠形はなかなかのもので、ケイも注意しないと見逃すところだった。
 結局、彼は何もして来ないようだったため、王族の護衛をしているだけだったようだ。
 リカルドも、ケイ程の実力ならもしかしたら気付いているのかもしれないと思っていたが、やはりそうだったことに溜息を洩らした。

「しかし、やはり魔力探知に対しての技術がもう少しかも知れないですね……」

「ケイ殿並みに探知が出来るものがそんなにいるか?」

「たぶんいないから大丈夫よ」

 ケイの探知に引っかかるということは、もしかしたらリシケサに侵入した時にバレる可能性がある。
 そんなことになったら、ケイたちもバレるかもしれない。
 しかし、ケイの探知ははっきり言って普通じゃない。
 ケイを基準にしていたら、諜報員なんてこの世に存在していない。
 リカルドのもっともな意見に、美花は呆れたようにツッコんだ。 

「もしもの時は、我々は自害も辞さないつもりで……」

「そんなの駄目だ!」

 彼らが捕まった時には、掴んだ情報を敵に知られないように自害する覚悟もできている。
 それがこの国に忠誠を誓った者の常識だ。
 しかし、あっさりと死を口にしようとした彼に、ケイは少し大きめの声で否定する。

「あなたたちも同じ人間だ。ギリギリまで生きることを諦めてはいけない」

「……分かりました。最後まで足掻くように致します」

 たしかに情報を敵に知られるわけにはいかない。
 だからと言って、自害してしまうのはケイとしては納得いかない。
 死んででも仲間のことを守る。
 それが、アンヘルを生き延びさせてくれた父と叔父のことを思いださせ、胸が苦しくなる。
 彼らが命を落とすとこを、ケイは見たくない。
 そのため、ケイは思わず大きな声を出してしまった。

 彼らも決して無駄に死ぬつもりはない。
 この仕事は命を落とす可能性が高いため、その覚悟が必要というだけだ。
 しかし、ケイが自分たちのことを心配しての言葉だと分かるので、素直に受け入れたのだった。

「条件はリシケサ王都の近郊で一軍が隠せてバレにくいというところの探索。それと王都内の情報収集だ」

「「「「「了解しました」」」」」

 狙いとしては、王都付近で軍を隠し、一気に攻め出て王城を制圧。
 その後、王の首を刈るというのが理想だ。
 そのための拠点と情報収集。それをするために彼らはケイたちと転移することにしたのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...