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第7章
第155話
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「……結構やばくないか?」
「……そうだね」
ケイとレイナルドは、数日ぶりにリシケサ王国に転移してきた。
そして、魔物や人の死体を目印に東へ向かって移動した。
魔物や人の死体を目印に、高速移動をしていくこと3、4時間。
ようやく今の戦場にたどり着いた。
遠く離れた丘の上から戦場を見下ろしてみると、戦いは苛烈を増していた。
「どこから補充してきたんだ?」
リシケサの方は近隣の町から集まったのだろうと予想はできるが、虫も大量に増えている。
その大量の魔物が、リシケサの兵たちに襲い掛かっている。
「……まさか、呼び寄せているのか?」
「えっ!?」
虫男がいる所に今も虫の魔物が列をなして向かって来ている。
それを見てケイはあることに思い至り呟く。
そして、ケイのその呟きにレイナルドは反応する。
「従魔にした虫が同族を呼び寄せているようだ」
虫の魔物は、危険を察知すると同種の魔物を呼び寄せる場合がある。
恐らく、虫男はその能力を利用して魔物を集めているのかもしれない。
「確かに、うちの島の虫魔物もそういうことする場合があるけど」
ケイたちの住むアンヘル島にも、数種類の虫型の魔物が存在している。
そういった魔物も、時折同種の魔物を呼んで攻撃してくることがある。
そのため、レイナルドはケイが言っていることに納得する。
「だから、弱くても集めていたのかも……」
「どういう意味だ?」
レイナルドの呟きに、今度はケイが反応する。
「つまり……」
虫男は随分久しぶりに外の世界に戻った。
周囲も変わっていれば、魔物の方も昔とは異なっているはず。
そして、魔物の呼び寄せは、種類によって距離や範囲が異なる。
そのため、初めて見た魔物をできる限り集め、呼び寄せをさせて無理やり魔物の数を増やしたのかもしれない。
しかも、虫男が集めた魔物は、広範囲に生息している魔物。
場所を移して行っても、魔物は変わらず集まってくる。
そのことを、レイナルドはケイに説明した。
「なるほど、魔物に呼び寄せをさせるだけだから魔力の消費は少ない。しかも、自分は戦わずに休めるから魔力の回復も出来る。魔力が増えればもっと魔物を集められる。ループの完成だな……」
「リシケサからしたら減らしても減らしてもキリがないからきついだろうな」
魔物を操っている虫男からしたら、ほとんど何もしなくても敵を追いこんで行っている。
逆にリシケサの方は、向かってくる魔物を相手にしながら逃走を続けている。
王のサンダリオの姿が見当たらない所を見ると、兵を置いて先に東の軍の所へ向かっているのかもしれない。
「サンダリオは何をしているんだ? さっさと軍を結集して当たった方がいいんじゃないのか?」
「他国の侵攻を気にしてる場合じゃないのに……」
ここまで来たら、あの虫男を倒すには軍を動かした方が良い。
しかし、自分だけ早々に逃げたのでは、まとまって戦うこともできないではないか。
虫男にやりたい放題やられているのはどうでも良いのだが、もう少し拮抗した戦いが見てみたいものだ。
このままではズルズル東に向かって戦線がズレて行くだけだ。
「サンダリオでは無理か……」
「クズとか言われてたんだっけ?」
カンタルボス王国の諜報員であるハコボが、以前の襲撃前に集めた情報にはサンダリオが女好きのクズという報告があった。
そんな男に国を守る決断ができるようには思えない。
「この国1つで止められるのかな?」
このままならリシケサは潰れるだろう。
虫男にかもしれないし、他国による侵攻によってのどちらかで。
ただ、レイナルドが言うように、この国1つが潰れるくらいで済むのか怪しくなってきた。
それだけ、虫男の魔物収集力が高いからだ。
「他の国が苦戦してるようなら密かに手伝うか?」
「それはないでしょ」
この国には島に攻め込んで来たという明確な反撃要素があったが、他の国はまだそのようなことはしてきていない。
なので、助けてやらないこともない。
助力をしてやるべきかとケイが尋ねるが、レイナルドはすぐにその考えを否定する。
リシケサに限らず、人族の国々はエルフを滅亡に追い込んだ者たちだ。
苦しんでいるからと言って助けてやるほど、ケイたちは人間ができていない。
「日向までいきそうだったら考えるけど、他はつぶれるだけつぶれれば良いんじゃない?」
同じ人族でも日向の国は別。
ケイの妻でレイナルドの母である美花の国。
美花自身は大陸生まれ大陸育ちだが、美花の父や母のことを考えたら被害にあってほしくないはずだ。
「……………………」
「父さんは違うの?」
自分の言葉に反応しないケイに、レイナルドは意見が違うのかと思った。
ケイも何か考えているような仕草をしていたので、そう思ったのかもしれない。
「いや、大筋お前と同じ考えだ。ただちょっと嫌な考えがよぎったんでな……」
「嫌な考え?」
余裕のある虫男。
敵も逃げているので、もっと速度を上げて追いかけることもできそうだ。
しかし、そうする様子は感じられない。
じっくり手駒の魔物を増やしているのだろうか。
そう考えているうちに一つのことが浮かんだ。
レイナルドに言ったように、嫌な予感だ。
「口に出したら本当になりそうだから、言わないでおく」
レイナルドに言うと、それがフラグになって現実に起きてしまう気がする。
なので、ケイは口に出すことをためらったのだった。
「……そうだね」
ケイとレイナルドは、数日ぶりにリシケサ王国に転移してきた。
そして、魔物や人の死体を目印に東へ向かって移動した。
魔物や人の死体を目印に、高速移動をしていくこと3、4時間。
ようやく今の戦場にたどり着いた。
遠く離れた丘の上から戦場を見下ろしてみると、戦いは苛烈を増していた。
「どこから補充してきたんだ?」
リシケサの方は近隣の町から集まったのだろうと予想はできるが、虫も大量に増えている。
その大量の魔物が、リシケサの兵たちに襲い掛かっている。
「……まさか、呼び寄せているのか?」
「えっ!?」
虫男がいる所に今も虫の魔物が列をなして向かって来ている。
それを見てケイはあることに思い至り呟く。
そして、ケイのその呟きにレイナルドは反応する。
「従魔にした虫が同族を呼び寄せているようだ」
虫の魔物は、危険を察知すると同種の魔物を呼び寄せる場合がある。
恐らく、虫男はその能力を利用して魔物を集めているのかもしれない。
「確かに、うちの島の虫魔物もそういうことする場合があるけど」
ケイたちの住むアンヘル島にも、数種類の虫型の魔物が存在している。
そういった魔物も、時折同種の魔物を呼んで攻撃してくることがある。
そのため、レイナルドはケイが言っていることに納得する。
「だから、弱くても集めていたのかも……」
「どういう意味だ?」
レイナルドの呟きに、今度はケイが反応する。
「つまり……」
虫男は随分久しぶりに外の世界に戻った。
周囲も変わっていれば、魔物の方も昔とは異なっているはず。
そして、魔物の呼び寄せは、種類によって距離や範囲が異なる。
そのため、初めて見た魔物をできる限り集め、呼び寄せをさせて無理やり魔物の数を増やしたのかもしれない。
しかも、虫男が集めた魔物は、広範囲に生息している魔物。
場所を移して行っても、魔物は変わらず集まってくる。
そのことを、レイナルドはケイに説明した。
「なるほど、魔物に呼び寄せをさせるだけだから魔力の消費は少ない。しかも、自分は戦わずに休めるから魔力の回復も出来る。魔力が増えればもっと魔物を集められる。ループの完成だな……」
「リシケサからしたら減らしても減らしてもキリがないからきついだろうな」
魔物を操っている虫男からしたら、ほとんど何もしなくても敵を追いこんで行っている。
逆にリシケサの方は、向かってくる魔物を相手にしながら逃走を続けている。
王のサンダリオの姿が見当たらない所を見ると、兵を置いて先に東の軍の所へ向かっているのかもしれない。
「サンダリオは何をしているんだ? さっさと軍を結集して当たった方がいいんじゃないのか?」
「他国の侵攻を気にしてる場合じゃないのに……」
ここまで来たら、あの虫男を倒すには軍を動かした方が良い。
しかし、自分だけ早々に逃げたのでは、まとまって戦うこともできないではないか。
虫男にやりたい放題やられているのはどうでも良いのだが、もう少し拮抗した戦いが見てみたいものだ。
このままではズルズル東に向かって戦線がズレて行くだけだ。
「サンダリオでは無理か……」
「クズとか言われてたんだっけ?」
カンタルボス王国の諜報員であるハコボが、以前の襲撃前に集めた情報にはサンダリオが女好きのクズという報告があった。
そんな男に国を守る決断ができるようには思えない。
「この国1つで止められるのかな?」
このままならリシケサは潰れるだろう。
虫男にかもしれないし、他国による侵攻によってのどちらかで。
ただ、レイナルドが言うように、この国1つが潰れるくらいで済むのか怪しくなってきた。
それだけ、虫男の魔物収集力が高いからだ。
「他の国が苦戦してるようなら密かに手伝うか?」
「それはないでしょ」
この国には島に攻め込んで来たという明確な反撃要素があったが、他の国はまだそのようなことはしてきていない。
なので、助けてやらないこともない。
助力をしてやるべきかとケイが尋ねるが、レイナルドはすぐにその考えを否定する。
リシケサに限らず、人族の国々はエルフを滅亡に追い込んだ者たちだ。
苦しんでいるからと言って助けてやるほど、ケイたちは人間ができていない。
「日向までいきそうだったら考えるけど、他はつぶれるだけつぶれれば良いんじゃない?」
同じ人族でも日向の国は別。
ケイの妻でレイナルドの母である美花の国。
美花自身は大陸生まれ大陸育ちだが、美花の父や母のことを考えたら被害にあってほしくないはずだ。
「……………………」
「父さんは違うの?」
自分の言葉に反応しないケイに、レイナルドは意見が違うのかと思った。
ケイも何か考えているような仕草をしていたので、そう思ったのかもしれない。
「いや、大筋お前と同じ考えだ。ただちょっと嫌な考えがよぎったんでな……」
「嫌な考え?」
余裕のある虫男。
敵も逃げているので、もっと速度を上げて追いかけることもできそうだ。
しかし、そうする様子は感じられない。
じっくり手駒の魔物を増やしているのだろうか。
そう考えているうちに一つのことが浮かんだ。
レイナルドに言ったように、嫌な予感だ。
「口に出したら本当になりそうだから、言わないでおく」
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なので、ケイは口に出すことをためらったのだった。
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