エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
156 / 375
第7章

第156話

しおりを挟む
「とんでもなく膨らんでる」

 また数日経ち、ケイとレイナルドはリシケサ王国の状況を見に転移してきた。
 すると、戦線がとうとう東の軍の駐留地付近にまできていた。
 ケイたちは、山の中に身をひそめながら戦場を見下ろしていた。
 流石に魔族の虫男も軍相手では勝てないだろうと思っていたのだが、形勢はリシケサの方が押されているように思える。
 というのも、レイナルドの呟きの通り魔物がまた増えていたからだ。

「嫌な予感が的中したな……」

「どういうこと?」

 ケイの呟きがレイナルドの耳に入る。
 先日見にきた時に言っていた嫌な予感とは、どうやらこのことだったようだ。
 虫男の方の魔物が大幅に増えたことの理由が、分かっているかのようだ。

「魔族が増えてる」

「…………えっ!?」

 小さな島育ちのレイナルドは、魔族なんてものが存在しているのは今回初めて知った。
 いまだに魔族のことはよく分からないが、珍しい生物という印象しかなく、そんな生物が他にも存在しているということに思い至らなかった。
 考えてみれば、確かにあの虫男以外の魔族がこの世界に存在していないと言い切れる確証はない。
 もしかしたら、どこかに潜んでいるということもありえた。
 これだけの大群の魔物が移動していれば、その魔族たちが自分と同じような能力を持つものに気付いてもおかしくない。
 虫男の狙いは、もしかしたら自分を長期間封印していたこの国の者たちへの報復と、この時代の魔族の招集も考えていたのかもしれない。

「集まった魔族は2体」

 望遠と鑑定の複合術で虫男の側を見ると、2体の魔族らしき生物が見つけられた。

「あのネズミとカエルかな?」

「そうだ」

 虫男の下に集まったのは、レイナルドが言ったようにネズミとカエルの魔族。
 増えた魔物も同様にネズミとカエルの魔物たちだ。
 カンタルボスのリカルドに聞いた話だと、魔族は自分と同種の魔物を使役する方が、多くの従魔を従える傾向にあるとのことだった。

「流石に、あの虫男ほどのレベルではないけれど、厄介なのは厄介だ」

 虫男が特別なのだろうか、様々な虫の魔物が多すぎて、ネズミやカエルの魔物はそこまで多くないように見える。
 しかし、小さな村なら潰せるのではないかという程の量の魔物が増えている。
 虫との攻撃法の違いから、戦いの幅が増えたようにも見える。

「それに、移動すれば他の魔族が気付き、また増える。それを繰り返していく気なのかもしれないな」

 ネズミとカエルの魔族がこの周辺にいたように、他の地にも他の魔族が存在している可能性がある。
 たいしたことなくても、相当数の魔物を従えているとなると、魔族が集まれば集まるほど恐ろしいことになっていくことだろう。 

「…………本格的にマズくない?」

「マズいな……」

 この国を潰せれば御の字だと軽い気持ちで復活させてしまったが、魔物の集団が段々と膨らんで行くことを想像すると、2人の額には冷や汗が浮かんできた。
 自分たちがしたことが、とんでもないことになってきたからだ。

「どうする?」

「あの虫男はともかく、他の魔族をどうにかすればまだここで食い止められるんじゃないか?」

 虫の魔族だけなら、リシケサ軍でも何とか相手になるであろう。
 それ以外の魔族によって、これ以上魔物が増えないようにすれば、ここから形勢を挽回できるかもしれない。
 つまり、ネズミとカエルの魔族の始末をすればこのまま治められる可能性がある。

「どうやって?」

「これだ!」

 そう言ってケイが魔法の指輪から取り出したのは、長距離狙撃をするために作ったライフル型の魔法銃だ。
 魔力を込めた弾丸を長距離飛ばすため、相当な強度を上げる必要がある。
 そのため、上部にしようと工夫をしたら、結構な重量になってしまった。
 とても持ち運んで戦うには向かない武器に仕上がっている。
 しかし、元々長距離狙撃をするために作ったのだから、別に重いくらい大したことではない。
 土魔法で丁度いい土台を作って、そこに銃を乗せた状態で使用すれば、重さなんて意味を成さなくなる。
 ケイは試作品と完成品の2丁を取り出し、照準を合わせやすい完成品の方をレイナルドへ渡す。

「この距離だとギリギリだが、やってみよう」

 ケイたちがいる山からは結構な距離がある。
 魔力で届かせることはできるが、当てるのは少々難しい。
 当たらなかったら、また次の機会にやればいいという程度の軽い気持ちで撃つことにした。

「俺がネズミを殺る。お前はカエルを殺ってくれ」

「分かった!」

 そう言って、2人は銃をそれぞれの標的に向けて標準を定める。
 どちらを狙ってもいいのだが、ネズミの方が速度が速そうなので、ケイがそちらを受け持つことにした。

「同時に撃つぞ?」

「了解!」

 撃つタイミングがズレれば、虫の魔族が銃弾を阻止するかもしれない。
 そのため、阻止されないように同時に撃つようにする。

「3、2、1、GO!!」

““パンッ!!””

「ギャッ!?」「ゴッ!?」

 まるで1発しか撃っていないかのような音と共に、銃弾が発射される。
 高速の弾丸は、見事に標的に炸裂。
 頭を撃ち抜かれ、ネズミとカエルの魔族はすぐに動かなくなった。

「っ!?」

「気付かれた!?」

 仲間になった魔族がいきなり殺されて、虫の魔族は慌てた。
 ネズミとカエルの魔族が使役していた魔物が、主の死により暴れ出し、周囲にいる虫の魔物に襲い掛かり出した。
 2体の魔族を撃ち殺し、状況の変化を眺めていたケイたちの方に、銃弾が飛んできた方向を探していた虫の魔族の目が向いた。

「逃げるぞ!!」

 こちらに虫の魔物を送られたら面倒だ。
 ケイたちは慌てて島へと転移していったのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...