186 / 375
第9章
第186話
しおりを挟む
「好きにしていいか……」
迷い込むように入ったエルフの里で、ケイは思わぬことになった。
靄で出来たエルフが消えてから、里の中を歩き回ると、墓地の近くに小屋を発見した。
その中に入ると、棺のような物があり、その中には一体の亡骸が横たわっていた。
ここに一体だけでいるということは、彼があの靄の正体なのかもしれない。
魔法の才能があるエルフの中でも、彼は相当才能があったのだろう。
棺に魔法陣を描き、死後にゾンビ化しないようにしてあるようだ。
彼の骸骨を見ていると、最後の言葉がケイの耳に響いてくる。
「亡骸を島に送るにしても、今家出中だしな……」
アンヘル島を出て、まだ1週間しか経っていない。
いい年こいてほとんど家出のように島を出てきたので、今帰ると何だかバツが悪い。
エルフたちの亡骸を、この誰も来ることのない結界内に置いておくのも申し訳ない。
どうせなら、同族の子孫がいるアンヘル島の墓地へ埋葬しなおしてあげたい。
【しゅじん! どうする?】
従魔のキュウも、主人であるケイの仲間だということで、このままにしておいて良いのかと尋ねてくる。
「連れて行きたいけど、魔法の指輪に入りきらないしな……」
このまま墓地に眠るみんなの骨壺だけ持ってアンヘル島に戻ることは簡単だが、ケイの目的は日向へ行くことだ。
大容量のはレイナルドに、まあまあ容量の大きい方はカルロスに置いて来てしまい、ケイが今付けているのは容量の少ない魔法の指輪だ。
日向に向かうのに、とてもではないが全員を連れていく訳にはいかない。
「日向に行った帰りにでもまた寄ろう」
今すぐに連れて行ってあげるのはちょっと勘弁してもらい、帰りにまた寄って連れて行くことに決めた。
どうせ人族には入る事などできないだろうから、放って置いても大丈夫だろう。
「念のため結界を強化しておくか……」
どれほど前にここを作ったのか分からないが、相当な年月が経っているはずだ。
まだまだこの結界が消えてしまうことはないとは思うが、人族で強力な魔力の持ち主に目を付けられたらここの結界を消されてしまうかもしれない。
日向に行って帰ってくるのにどれほどの月日がかかるか分からないが、とりあえずケイが戻ってくるまではもたせたい。
そのため、ケイはここの結界を強化していこうと考えた。
「おっ! あった!」
長時間結界を張っていると考えた時、恐らくどこかに魔法陣があると考えた。
そして、結界内の四方に、魔法陣が描かれた大きな石が置かれていた。
この魔法陣によって結界を作ることに成功している様だ。
「……魔石が幾つも埋め込まれているのか?」
魔法陣が描かれている大きな石には、魔石が埋め込まれている。
この魔石に籠っている魔力を利用しているから、長期間このような結界が張られているのだろう。
「残り少ないな……」
いくつもの魔石が埋め込まれているのだが、その魔石の多くが魔力を消費して空っぽの状態になっている。
だいたい8割といったところだろうか。
残り2割の魔石もどれほどもつのか分からない。
「それにしても、どうやってこれほどの魔石を集めたんだ?」
エルフは魔石を使ってはいけないと言うような掟はない。
しかし、魔石は魔物の体内から取り出さないと入手できない。
魔物に限らず、生物を殺すことを禁じられているエルフがどうやって手に入れたのだろう。
拾うということもなくはないが、魔物が死んですぐでなければ、他の魔物に喰われたりして入手は困難になるはずだ。
あとは店で購入するという方法しかないと思うが、エルフだとバレればあっという間に人生お終いになってしまう。
そんなリスクを何度も何度もクリアしないと、これほどの数は揃わないはずだ。
「……もしかして、掟を破ったのか?」
結構な規模の結界を張れる上に、これだけの魔石を集めたということを考えると、彼は掟を破っていた可能性が考えられ始めた。
それならば、これだけの数の魔石を集められたということに納得できる。
長命なエルフの人生なら、本人が掟を守っていても事故などの思わぬことで破ってしまうということもあるはずだ。
そういった者が一人も現れないというのはありえない。
彼はきっと掟を破ってしまった後悔から、死をも覚悟してここへ戻って来たのかもしれない。
「あっさり破った俺が言うのはおかしいが、あんたは別に間違っていないよ」
エルフに受け継がれていた3つの掟を守っていては、この世界では生きていくのはかなりしんどい。
ケイという前世の知識を持っていたとしても、アンヘルの意識の方が強かったら、もしかしたら島ですぐに死んでいたかもしれない。
他の種族よりも長い寿命を与えられたことによる神への感謝のための掟だとかいう話だが、それで絶滅してれば話にならない。
確信犯のケイとは違って、恐らく彼は最初偶然だったのかもしれないけれど、生きることができてこそ神への感謝が出来るのではないだろうか。
都合がいいかもしれないが、ケイとしてはそう考えている。
ケイと同じく、前世日本人の記憶があるドワーフ王のマカリオとも話したことがあるが、ラノベのように神との謁見の記憶がない。
何を目的として自分たちがこの世界に送られたのか分からない。
なので、マカリオは、
「前世は事故で死んだから、今度は最後まで生きろって事なんじゃないか?」
と言っていた。
ケイとしても、その意見に賛成だ。
ただ、転生した時はエルフでラッキーと思っていたのだが、これはこれで辛いものだ。
人族からは迫害を受け、最愛の女性は必ず先に死ぬ。
分かっていたことでも、いざそれがやってくると、かなりきつい。
しかし、これも試練として考えればどうにか耐えられる。
「魔石ならいっぱいあるからな……」
ケイにとってエルフの掟は、ただも悪しき風習でしかないと考えている。
なので、魔物が襲ってくれば平気でその命を絶つ。
この世界で魔石は電池の代わりのような物。
どの人種でも魔道具を使うのに必要となるため、売り買いされている。
旅の途中のケイにとっては、収入源の1つになっている。
そのため、魔物を倒したら魔石を手に入れておくのは当然だ。
魔法の指輪には、大きさがまちまちの魔石が収納されている。
その中から、結界の魔法陣が描かれている大石へ埋め込まれている魔石と、同等のサイズの物を取り出す。
そして空っぽになった魔石を外して、取り出した魔石を埋め込んで行く。
「半分も変えておけば十分だろう……」
魔石を半分ほど新しいのに変えただけで、なんとなく結界の霧が濃くなったように思える。
これでまた長い年月もつことだろう。
「じゃあ、また来るよ」
小屋の中の棺に横たわる骸に向かって一言告げ、ケイは一ヵ所だけ霧が薄くなっている方向へ歩き出す。
思った通りここが出入り口となっているらしく、ジワジワといつもの感覚に戻っていった。
「出られたみたいだな……」
少しの間歩いていると、ケイはいつの間にか日の射す普通の森に立っていた。
この周辺の特徴を覚え、近くの町へ魔石を売りに向かったのだった。
迷い込むように入ったエルフの里で、ケイは思わぬことになった。
靄で出来たエルフが消えてから、里の中を歩き回ると、墓地の近くに小屋を発見した。
その中に入ると、棺のような物があり、その中には一体の亡骸が横たわっていた。
ここに一体だけでいるということは、彼があの靄の正体なのかもしれない。
魔法の才能があるエルフの中でも、彼は相当才能があったのだろう。
棺に魔法陣を描き、死後にゾンビ化しないようにしてあるようだ。
彼の骸骨を見ていると、最後の言葉がケイの耳に響いてくる。
「亡骸を島に送るにしても、今家出中だしな……」
アンヘル島を出て、まだ1週間しか経っていない。
いい年こいてほとんど家出のように島を出てきたので、今帰ると何だかバツが悪い。
エルフたちの亡骸を、この誰も来ることのない結界内に置いておくのも申し訳ない。
どうせなら、同族の子孫がいるアンヘル島の墓地へ埋葬しなおしてあげたい。
【しゅじん! どうする?】
従魔のキュウも、主人であるケイの仲間だということで、このままにしておいて良いのかと尋ねてくる。
「連れて行きたいけど、魔法の指輪に入りきらないしな……」
このまま墓地に眠るみんなの骨壺だけ持ってアンヘル島に戻ることは簡単だが、ケイの目的は日向へ行くことだ。
大容量のはレイナルドに、まあまあ容量の大きい方はカルロスに置いて来てしまい、ケイが今付けているのは容量の少ない魔法の指輪だ。
日向に向かうのに、とてもではないが全員を連れていく訳にはいかない。
「日向に行った帰りにでもまた寄ろう」
今すぐに連れて行ってあげるのはちょっと勘弁してもらい、帰りにまた寄って連れて行くことに決めた。
どうせ人族には入る事などできないだろうから、放って置いても大丈夫だろう。
「念のため結界を強化しておくか……」
どれほど前にここを作ったのか分からないが、相当な年月が経っているはずだ。
まだまだこの結界が消えてしまうことはないとは思うが、人族で強力な魔力の持ち主に目を付けられたらここの結界を消されてしまうかもしれない。
日向に行って帰ってくるのにどれほどの月日がかかるか分からないが、とりあえずケイが戻ってくるまではもたせたい。
そのため、ケイはここの結界を強化していこうと考えた。
「おっ! あった!」
長時間結界を張っていると考えた時、恐らくどこかに魔法陣があると考えた。
そして、結界内の四方に、魔法陣が描かれた大きな石が置かれていた。
この魔法陣によって結界を作ることに成功している様だ。
「……魔石が幾つも埋め込まれているのか?」
魔法陣が描かれている大きな石には、魔石が埋め込まれている。
この魔石に籠っている魔力を利用しているから、長期間このような結界が張られているのだろう。
「残り少ないな……」
いくつもの魔石が埋め込まれているのだが、その魔石の多くが魔力を消費して空っぽの状態になっている。
だいたい8割といったところだろうか。
残り2割の魔石もどれほどもつのか分からない。
「それにしても、どうやってこれほどの魔石を集めたんだ?」
エルフは魔石を使ってはいけないと言うような掟はない。
しかし、魔石は魔物の体内から取り出さないと入手できない。
魔物に限らず、生物を殺すことを禁じられているエルフがどうやって手に入れたのだろう。
拾うということもなくはないが、魔物が死んですぐでなければ、他の魔物に喰われたりして入手は困難になるはずだ。
あとは店で購入するという方法しかないと思うが、エルフだとバレればあっという間に人生お終いになってしまう。
そんなリスクを何度も何度もクリアしないと、これほどの数は揃わないはずだ。
「……もしかして、掟を破ったのか?」
結構な規模の結界を張れる上に、これだけの魔石を集めたということを考えると、彼は掟を破っていた可能性が考えられ始めた。
それならば、これだけの数の魔石を集められたということに納得できる。
長命なエルフの人生なら、本人が掟を守っていても事故などの思わぬことで破ってしまうということもあるはずだ。
そういった者が一人も現れないというのはありえない。
彼はきっと掟を破ってしまった後悔から、死をも覚悟してここへ戻って来たのかもしれない。
「あっさり破った俺が言うのはおかしいが、あんたは別に間違っていないよ」
エルフに受け継がれていた3つの掟を守っていては、この世界では生きていくのはかなりしんどい。
ケイという前世の知識を持っていたとしても、アンヘルの意識の方が強かったら、もしかしたら島ですぐに死んでいたかもしれない。
他の種族よりも長い寿命を与えられたことによる神への感謝のための掟だとかいう話だが、それで絶滅してれば話にならない。
確信犯のケイとは違って、恐らく彼は最初偶然だったのかもしれないけれど、生きることができてこそ神への感謝が出来るのではないだろうか。
都合がいいかもしれないが、ケイとしてはそう考えている。
ケイと同じく、前世日本人の記憶があるドワーフ王のマカリオとも話したことがあるが、ラノベのように神との謁見の記憶がない。
何を目的として自分たちがこの世界に送られたのか分からない。
なので、マカリオは、
「前世は事故で死んだから、今度は最後まで生きろって事なんじゃないか?」
と言っていた。
ケイとしても、その意見に賛成だ。
ただ、転生した時はエルフでラッキーと思っていたのだが、これはこれで辛いものだ。
人族からは迫害を受け、最愛の女性は必ず先に死ぬ。
分かっていたことでも、いざそれがやってくると、かなりきつい。
しかし、これも試練として考えればどうにか耐えられる。
「魔石ならいっぱいあるからな……」
ケイにとってエルフの掟は、ただも悪しき風習でしかないと考えている。
なので、魔物が襲ってくれば平気でその命を絶つ。
この世界で魔石は電池の代わりのような物。
どの人種でも魔道具を使うのに必要となるため、売り買いされている。
旅の途中のケイにとっては、収入源の1つになっている。
そのため、魔物を倒したら魔石を手に入れておくのは当然だ。
魔法の指輪には、大きさがまちまちの魔石が収納されている。
その中から、結界の魔法陣が描かれている大石へ埋め込まれている魔石と、同等のサイズの物を取り出す。
そして空っぽになった魔石を外して、取り出した魔石を埋め込んで行く。
「半分も変えておけば十分だろう……」
魔石を半分ほど新しいのに変えただけで、なんとなく結界の霧が濃くなったように思える。
これでまた長い年月もつことだろう。
「じゃあ、また来るよ」
小屋の中の棺に横たわる骸に向かって一言告げ、ケイは一ヵ所だけ霧が薄くなっている方向へ歩き出す。
思った通りここが出入り口となっているらしく、ジワジワといつもの感覚に戻っていった。
「出られたみたいだな……」
少しの間歩いていると、ケイはいつの間にか日の射す普通の森に立っていた。
この周辺の特徴を覚え、近くの町へ魔石を売りに向かったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる