エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
233 / 375
第10章

第233話

しおりを挟む
「約500人って所か? フゥ~……」

 刀を抜き、ゆっくりとケイへ向かってくる剣術部隊の者たち。
 ざっと見た感じの数に、ケイは思わずため息が出る。
 剣術部隊に入るような者たちだ。
 パッと見た感じだと、全員が魔闘術を使えるようだ。
 流石、エリートといったところだろうか。
 そんなのを相手に戦わなければならないとなると、気が重くなってくる。

「あいつ、この人数を相手にするつもりか?」

「おいおい、冗談だろ?」

 剣術部隊はいくつかの隊に分かれるが、このように多くの人数が集まるのは珍しい。
 強力な魔物や、町や村が潰れるような魔物の大繁殖くらいの時しか集まらない数だ。
 それゆえに、ケイがやる気になっているのが鼻についたのか、若い隊員が軽口をたたいていた。
 周囲の者たちも似たようなことを思っているのか、それを咎める者はいない。

「行けー!!」

「「「「「ウォーーー!!」」」」」

 どこからともなく声が上がる。
 それを合図にするように、剣術部隊の者たちは走り出した。
 ケイだけでなく、1ヵ所に集まっている八坂たちの方にも向かっている。

「キュウ! あっちを任せる!」

【うんっ!】

 八坂の方にはまだ戦える者もいる。
 蛇や大砲の攻撃を受けて怪我した者たちの中には、回復薬で治った者もいる。
 少しの間放って置いても、自分たちの身を守るくらいの抵抗はできるはずだ。
 しかし、ケイは念のためキュウをそちらへ向かわせた。
 その指示を受けたキュウは、ケイの肩の上から風魔法を使って八坂たちの方へと移動した。

「一番乗り!」

「あの世にな!」

“パンッ!”

 血気に逸ったのか、若い隊員が我先にとケイへと迫る。
 速度が自慢なのかもしれないが、その程度でケイに刃が届くわけがない。
 刀が振られる前に、ケイは至近距離から銃撃を放ってあっさり仕留める。

「食らえ!」

“ドンッ!!”

 魔闘術の使い手に接近されたら、ケイでも怪我を負ってしまうかもしれない。
 なので、近付く前に一発お見舞いすることにした。
 放ったのは水魔法。
 迫り来る剣術部隊の者たちの上空に、ケイは巨大な水球を発射させた。

「「「「「っ!?」」」」」

 それを見た剣術部隊の者たちは、上空に飛んで行った水球に首を傾げる。
 攻撃をしてくると思っていたら、明後日の方向に飛んで行ったからだ。

「んっ?」

 不発の攻撃に気を止めることなく、剣術部隊の者たちは突き進む。
 すると、上空から水滴が落ちてきて、一瞬雨かと思う。
 しかし、天候は晴れていた。
 なので、勘違いかと思ったが、水滴は一定範囲にシャワーのように降り注いできた。

「ハッ!!」

“バチッ!!”

「っ!? まさか?!」

 中には気付いた人間もいたようだが、もう遅い。

「「「「「ギッ!?」」」」」

 続いてケイの魔銃から放たれたのは電撃。
 少し前にキュウが放った動きを止めるための電撃などではなく、食らった者を感電死させるための電撃だ。
 その電撃が流れやすくするために放ったのが、先程の水球だった。
 イメージ通りに事が運び、一気に数十人の敵が黒焦げになって息絶えた。

「このっ!?」

 仲間を殺されたことに腹を立てたのか、ケイの所へ先頭がたどり着く。

「うぐっ!?」

 迫る速度をそのままに放った鋭い突きが迫るが、それをケイはしゃがんで躱す。
 そしてそのまま懐に入ると、鳩尾目掛けて蹴りを放つ。
 腹に攻撃を食らった敵は、そのままケイへと迫る仲間の所へ飛んで行く。

「「っ!?」」

“パンッ!!”

 迫って来る敵たちは、仲間が飛んできたため、咄嗟にそれを受け止める。 
 しかし、その瞬間は完全に無防備。
 蹴とばした男共々、ケイの弾丸の餌食になる。

「死ね!」「オラッ!」

“パンッ!!”“パンッ!!”

 2人を始末したケイの左右から、他の敵たちが襲い掛かる。
 しかし、動きが直線的過ぎる。
 刀を振り上げた2人の心臓部分はがら空きの状態。
 ケイはそこを狙って左右へ弾丸を放つ。

「「っ!?」」

 心臓に風穴を開けられた2人は、そのまま前のめりに倒れた。

“ドカッ!!”“ドカッ!!”

 そのままでは邪魔なので、その2体の死体を蹴り飛ばす。

「「「「っ!?」」」」

 また飛んできた仲間に、向かって来ている敵は先程と違い今度は躱す。
 しかし、躱したら躱したで、後ろから走ってきている者たちにぶつかってしまう。
 2人蹴とばして、4人が仲間に潰され気を失った。
 ケイとしては、都合のいい結果になった。

「1人、2人で攻めても無理だ! 一斉にかかれ!」

 足の速さがバラバラだから、ケイに襲い掛かるのもバラバラ。
 それでは、ケイに傷を着けることなど不可能。
 そう判断した敏い者もいるらしく、一斉攻撃を命令する。

「一斉に死ね!!」

“ボッ!!”

 8人の敵が、ケイを包囲するように八方から一斉に斬りかかる。
 しかし、その瞬間、ケイは魔銃の引き金を引く。
 それによって、ケイの周囲の地面に変化が起きる。
 振動をしたと思った次の瞬間には、まるで地面から生えたかのように、針の形になって8人へと襲い掛かる。

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 頭や体を針に突き抜かれ、一気に8人の命がこの世から消えさった。

「うっ!!」

 仲間のあまりにも凄惨な死に方に、若い隊員は怯み、二の足を踏む。
 ケイとしても、それを見越しての殺し方だ。

「怯むな! 新米どもは八坂の方を攻めろ!」

「チッ! 余計なことを……」

 ケイ相手に若手では通用しないと悟ったのか、ベテラン剣士から指示が飛ぶ。
 冷静なその指示に、ケイは舌打ちをして小さく呟く。
 できれば八坂たちの方に敵を向かわせたくないためだ。
 動きを見る限り、若手でも中にはまあまあの戦闘レベルをした者が混じっている。
 八坂たちの誰かが怪我をするくらいなら別に構わないが、キュウが怪我をしたらと思うと少し不安だ。

「ムンッ!」

“ドンッ!!”

「「「「「ギャッ!!」」」」」

 さっきから、ケイにとってイラつく指示をする者が紛れている。
 その者がどこにいるかは、声がした方を探知することで見つけられる。
 そういった者がいられると迷惑なので、ケイはその者がいる方向へ向かって高加熱の火球を発射する。
 発射された火球によって、その射線上にいる敵と指示を出していた者が一瞬で炭化した。

「キュウが無茶しないと良いんだけど……」

 キュウは、ケイに頼まれると一生懸命になり過ぎる所がある。
 八坂たちのことを頼んだため、彼らを守ろうと魔力の配分を考えないで戦いそうだ。
 昔、アンヘル島で噴火が起きた時、キュウの息子たちがそうだったように、命を尽くしてまでがんばることはしてほしくないと思っていたケイだった。






「このっ!」

「チッ!」

 ケイが無双している所から少し離れ、八坂たちの方も敵と戦っていた。
 こちらに来るのは若手を中心とした敵たちだが、剣術部隊に入るほどの実力を誇る若手のため、八坂たちでも手こずっていた。

【えいっ!】

「「「「「ギャッ!!」」」」」

 そんな中、キュウの魔法は八坂たちにとってかなり重宝した。
 ただの愛玩従魔かと思っていたら、一発で数人を無効化することに驚きもするが、今はそれどころではない。
 迫り来る敵に対処するのでいっぱいいっぱいだ。

「変な魔物に気を付けろ! 厄介な魔法を放ってくるぞ!」

「「「「「おうっ!」」」」」

 キュウの放つ魔法を脅威に思ったのか、敵の中からこのような声が聞こえて来た。
 それに多くの者が返事をするが、近接戦闘しかない者たちには対処のしようが無い。

【ハッ!】

「ぐっ!!」

 体が軽いキュウは、迫ってきた剣士の攻撃を受けまいと、風魔法を使って刀の届かない上空へと浮かんで行く。

【えいっ!】

 そして、上空から色々な魔法を放って敵を減らしていったのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...