エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第10章

第245話

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「この度は我々へご助力頂きありがとうございました」

 巨大蛇の出現から始まった戦いも一段落着き、後のことは将軍家に任せておけばよくなり、翌日、話がしたいといわれたケイと善貞は、八坂の部屋へと向かった。
 そして、八坂を含めた全員が包帯を巻いている中、魔法で回復して何もなかったかのような状態で現れたケイと善貞に対し、八坂は深く頭を下げた。

「お気になさらず」

「我々が勝手にやったことなので……」

 ケイたちとしたら、織牙家の関係者という後ろめたいことがあるせいか、感謝されてもどうしていいか分からない、
 そのため、2人は本当に気にしないでほしいという思いで答えを返す。

「お2人には我々も感謝いたします。八坂様の危機を救って頂いたそうで……」

「その通りです! 八坂様がやられていたら我々が生き残っても意味のなかったところですから」

 ケイたちが恐縮していると思ったのか、比佐丸と永越が喜色を浮かべて力説してきた。
 何だか暑苦しい勢いに、ケイたちはどうしていいか分からない。

「……比佐丸。ケイ殿たちだけと話がある。退室と人払いを頼む」

「えっ? ……了解しました」

 折角集まったというのに、いきなりの八坂の発言に、比佐丸だけでなく他の者たちも呆けたような表情に変わる。
 しかも人払いまでするとなると、自分たちにも聞かせられない話が何なのかと問いたくなる。
 だが、八坂のことだからきっと何か考えがあるのだろうと、渋々ながらみんな退室していったのだった。

「………………」

「「………………」」

 誰もいなくなると、八坂は黙ってケイたちを見つめる。
 ケイたちもどうしていいか分からずただ黙っているしかできない。

「人払いをして何か聞きたい事でもあるのでしょうか?」

「……聞いてもよろしいですか?」

「内容次第で……」

 とりあえず、魔法で障壁を張り、声が漏れないようにしたケイは、黙っている八坂へ問いかけてみた。
 何か聞きたいということにいくつか心当たりがあるため、八坂の問いに対してケイは曖昧に答えを返すにとどめておいた。

「あのっ!」

「「?」」

 八坂が何を聞いてくるのかと内心構えていたケイだったが、2人よりも先に善貞が声をあげた。
 何を言い出すのか疑問に思ったケイと八坂は、善貞へと視線を向ける。

「申し訳ありません! 私は太助という名前ではなく善貞と申します! 顔もケイに作ってもらった覆面を付けております!」

「……名前はともかく、顔のことは知っておる」

「えっ?」

 意を決して告白したというのに、八坂から帰って来た言葉に善貞は不思議そうな声をあげた。
 完全に名前と顔を偽っていたと思っていた善貞からしたら、その答えが信じられなかったのだろう。
 そして、何でというように矢坂を見た後、わざわざ隠してくれていたケイにも申し訳なさそうに顔を向ける。

「お前が顔面蹴られたて樹を失っている時、覆面破れていたのを見られた」

「えっ?」

 気を失っていたから見られたことに気付かなかったのだろう。
 ケイも言うのを忘れていたので、善貞が驚くのも無理はない。

「まさかとは思うが、……お主は織牙の生き残りか?」

「「っ!?」」

 顏と名前を知られたからといって、家名までは気付かれないと思っていたのだが、どうやら考えが甘かったようだ。
 50年以上前の姫の駆け落ち事件。
 年齢を考えるなら、八坂は物心ついたくらいの年齢のように思える。
 他の者たちならともかく、八坂が織牙家に関する何かを知っているとは思わなかった。
 そう思っていたのはケイだけでなく、善貞も同じ反応をしている。

「…………はい」

「バレていましたか?」

 善貞は八坂へ素直に答え、バレてしまったのなら仕方がないと、気持ちを切り替えたケイは軽い口調で問いかけた。

「えぇ、顔や名前ではなく、その指輪を見た時に気付いておりました」

「「えっ?」」

 八坂が指を差したのは、善貞がつけている魔法の指輪だった。
 大容量だから相当なものだと思っていたが、どうして八坂がそれを知っているのだろうか。

「それは、姫を逃がす罪を織牙家が引き受けてくれたことに対して八坂家が送った物だ」

「っ!?」

 家宝と聞いていただけで、善貞は八坂家から送られたものだとは知らなかった。
 それよりも、八坂のい言った内容の方も信じられない。
 姫と駆け落ちした織牙家の者のせいで、八坂家へ多大な迷惑をかけたと思っていたが、どうやらそれも違っているような口ぶりだ。 

「まさか本当に生き残りがいたとはな……」

 織牙家の者は全て捕まり処刑されたため、財産は全て上重に没収されてしまった。
 その中には八坂家が送った指輪がなかったため、もしかしたらと思ったが、噂の通り生き残りがいたようだ。
 それを知った時、八坂は内心安堵していた。
 織牙の一族を犠牲にしたという罪悪感が、勝手ながら僅かに解消されたような気がしていたからだ。

「ちょ、ちょっとお待ちください! 姫と駆け落ちをしたのが織牙家による勝手な行動だったのではないのですか?」

「何も聞いていないのか? それも仕方がないか……」

 大叔父は姫と逃げ、祖父は一族と共に処刑にあった。
 八坂家と織牙家の間で交わされた密約により、何が起きてそうなったのかということを善貞が知っている可能性は低い。

「では、話そう」

 言いにくいことだが、善貞には知る権利がある。
 そのため、八坂は昔起きたことを話すことにした。

「手短に言うと、姫と織牙の嫡男が互いに好意を持っていたのは事実だ。それを知らずに父が将軍家へ姫との婚約を願い出てしまった」

 知らなかったとは言っても、さすがに2人には悪いと八坂の先代は思っていたようだ。
 しかし、それによって上重家が姫の命を狙うとは思わなかった。
 綱泉の筆頭家老は八坂。
 それが将軍家との縁まで繋げたとなっては、上重が上に行く機会など皆無に等しくなる。
 何としてでも将軍家と姫との婚約を潰さなくてはならないと、上重の先代はそう思ったのだろう。

「婚約を止めるのには姫を消すのが一番の手だと考えた上重家は、巧妙に動き尻尾を出さなかった」

 証拠もなしに処断できるほど、上重の家の家格は低くない。
 姫は危険にさらされ続け、やつれて行くばかり。

「姫の命を救うためにはどうしたらいいか考えあぐねていたところ、織牙家から提案があったのだ」

「……それが駆け落ちですか?」

 そこまで言ったところで、善貞が八坂の言葉に割って入って来た。
 織牙家は八坂家に迷惑をかけたのではなく、姫を助けるために犠牲になった経緯が分かり、善貞は何だか憑き物が落ちたような表情になっていた。
 何も知らなかったため、彼は八坂家への懺悔で今回動いたようだが、それが違うのだと知って嬉しかったのだろう。

「左様。我が父もその策に乗った。ゆえに、その指輪をせめてもの礼として送ったのだが、上重が財産の没収に動いた時は上手く隠したものだと思ったのだが……」

 どうやら先代の八坂は、指輪も没収されるかもしれないと思っていたようだ。
 八坂家の家宝にしてもおかしくない代物を、そうなったとしても、感謝の気持ちを表すために渡した指輪だった。
 それを付けた善貞が現れた時、平常心を保つのに苦労し、たいして言葉を話せなかったらしい。

「そなたたち一族には本当にすまなかったと思っている」

「いいえ……本当のことが知れてよかったです」

 織牙家が起こした事件の裏が知れて、善貞は静かに呟き俯いたのだった。

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