エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第10章

第250話

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「おぉ、ケイが言った通りだ! アスプを少しずつ弱らせていってる!」

 南門の方は細かい魔物ばかりなので、どうにかなると思って見るのをやめ、八坂たち西地区の者たちがいる所へ戻ると、怪我を負わせることに成功したのか、アスプの動きが鈍くなってきていた。
 その代わり、犠牲になった兵の数はかなり多い。
 ケイの策を八坂が伝えたことにより、毒や睡眠で動けなくなる者はいなくなった。
 とは言っても、その俊敏性から尾による攻撃はかなり危険だ。
 その攻撃を食らって殺られた者が、アスプの側に何体も転がっている。

「このままいけば倒せるだろうが、まだ気を付けないと……」

「えっ?」

 日向の兵たちが有利なのは、一目瞭然となった。
 それを喜んでいる善貞と違い、ケイはまだ安心できないでいた。
 ケイのその呟きの意味が理解できず、善貞は首を傾げた。

「おっ!?」「あっ!?」

 どうやらアスプの一体を倒すことに成功したらしく、多くの兵が勝鬨かちどきを上げている。

「……まずいな」

「えっ? 何だって?」

 勝利の余韻に浸るのはいいが、どうやら彼らはアスプのことをよく理解していないようだ。
 そのため、喜んでいる彼らが危険だということに気付いていないことに、ケイは小さく呟いた。
 その呟きが聞き取れなかった善貞は、またも首を傾げた。

「ぎゃあ!!」「ぐわっ!!」

「何だ!?」

 呟きが気になった善貞が、ケイに顔を向けている間に、突如悲鳴のようなものが聞こえて来た。
 そちらに目を向けると、もう片方のアスプの様子に変化が起きていた。
 番の片方が殺られ、怒りで暴れ始めたのだ。
 毒の息や睡眠眼が通用しないと分かった為か、尾を使った攻撃を開始し、近寄る兵を吹き飛ばし始めた。
 その尾を振り回すことによって、兵がなかなか近付けなくなった。
 自分の側に群がる兵がいなくなると、先程まで勝鬨を上げていた兵たちの方へ一気に跳躍した。
 そして、勝利に喜んでいた連中は落下してきたアスプの重量に潰され、血を巻き散らした。

「アスプは番で行動する。だから片方がやられると、怒りで暴れ始めるんだ」

「……そうなのか」

 これまでの攻撃でかなり弱まっているはずなのに、アスプの片方はそれが嘘のように暴れ回る。
 その急変に、兵たちも慌てて距離を取ろうとする。

「ガアァーー!!」

 そんな彼らを、体中傷だらけのアスプが追いかける。
 そして、牙や尻尾で兵たちを一人また一人と仕留めて行っている。

「ヤバくないか?」

「大丈夫だ。ろうそくの最後の炎のようなものだ。これまで通り冷静に戦えば何とかなる」

 息を吹き返したようなアスプの暴れっぷりに、善貞は冷や汗を掻きながらその惨状を眺めていた。
 その気持ちも分からなくない。
 勝利を確信していたところで、突如息を吹き返すなど想像もしていなかったのだろう。
 冷静さを失い、兵たちはアスプから逃げ惑う。
 そのせいで、対処を間違えた兵が吹き飛ばされているのだ。
 しかし、それも少しずつ収まっていく。
 ケイが言うように、冷静になった兵がアスプに刀を突き立てる。
 それを見た者が後に続くように、対処できるようになっていったからだ。

「「「「「っ!?」」」」」

 アスプに関してはもう大丈夫だろう。
 わざわざ西地区の者まで呼んだ割には、あっさりと終わった。
 アスプの他に多くの魔物の死骸がある所を見ると、アスプの前に相手にしていたのだろう。
 しかし、アスプをもうすぐ倒せる今、結局ケイたちは何もしないで済みそうだ。
 そう思っていたケイたちだったが、突然大きな魔法陣が浮かび出した。
 そのことに、戦場にいる誰もが固まった。 

「くっ!?」「まただ……!」

 最初から戦っていた兵たちは、その現象に心当たりがあるのだろう。
 ざわざわとするその中から聞こえて来た言葉によると、初めてのことではないようだ。

「…………マノマンバだと?」

 出てきたのはまたも巨大蛇。
 その姿を見たケイは、思わず呟いてしまった。

「マノマンバ? あの蛇がそうなのか?」

 ケイの呟きが耳に入った善貞は、魔法陣から出現した魔物を見て問いかけてくる。

「あぁ……、マンバに手が生えている所からそう言われている」

「へぇ~」

 善貞の質問に答えるケイ。
 その答えに、善貞は納得と言ったような返事をした。
 ケイが言うように、魔法陣から出現した蛇には、小さいが2本の手のような物が生えている。

「クッ!?」「次から次へと……」

「あっ!? バカ!!」

 どうやら他の領から参戦している兵の呟きを聞くと、多くの魔物が魔法陣から出現し、その後アスプが出現、そして今マノマンバが出現したということらしい。
 倒しても倒しても出てくるため、城の中に入れないでいるらしい。
 しかも、日向では見ないような魔物のオンパレード。
 生体が分からないにもかかわらず、勇敢という名の無謀で、兵たちが出現したマノマンバに突っ込んで行った。
 それを見たケイは、最悪の行動だと思い声が出てしまった。

“ボンッ!!”

「「「「「っ!?」」」」」

 マノマンバの手が突っ込んでくる兵に向くと、強力な火炎が放出された。
 その炎によって、兵たちはあっという間に燃えて炭へと変えられる。
 それを見た兵たちは、みんな顔面が蒼白へと変わっていった。

「マノマンバは大陸の中でも強力な魔物だ。ついている手は飾りなんかじゃない。恐らく人間の魔法に対抗するために、自身の肉体を進化させたんだろう」

「その結果があの魔法?」

 ケイの説明を受けた善貞も、先程の魔法には引いている。
 魔闘術を使っているからといっても、あんなの至近距離でまともに食らえば、あっという間に原形のない炭へと変わるだろう。
 それが分かっていても至近距離で戦う以外の方法がないことに、日向の戦いには大きな欠点があると分かったことだろう。

「魔法には魔法。頭が良いのか、恐らくそう判断したんだろ……」

「あんなのどうしたらいいんだ?」

 これまでの魔物は至近距離でもなんとか戦う方法があったが、マノマンバに関しては近付くとそのまま死ぬことになる。
 それを覚悟で攻め込むなどと言う程、日向の人間は馬鹿ではない。
 みんな先程の魔法によって腰が引け、誰も近付こうとしなくなっている。

「遠距離には遠距離だ。かと言って、大砲で攻撃するにしても何十発と放たなければ怪我を負わせるなんてことは不可能だろう」

「じゃあ……」

 いくつもの大砲を使って、タイミングを計って攻撃すれば怪我を負わせることは可能だ。
 しかし、それでマノマンバを倒すとなると、弾が幾つあっても足りない。
 そうなると、包囲している軍の方が完全に手詰まりの状況になってしまった。
 この状況に、善貞は逃げた方が良いのではないかと言おうとした。

「俺が行くしかないな……」

「えっ?」

 逃げるしか生き延びる方法がないと思った善貞とは違い、ケイはどうしたら勝てるか考えていた。
 しかし、この国で遠距離戦闘となると大砲ぐらいしかない。
 それでも大ダメージを与えられないのだから、魔法が得意なケイが出て行くしかない。

「八坂殿! 俺が奴を何とかするので、話を通してもらえませんか?」

「ケイ殿!? 策がお有りか?」

 ケイもマノマンバなんて強力な魔物を相手になんてしたくないが、西地区の平定のためには倒さなくてはならない。
 自分なら何とか出来ると思ったケイは、八坂へと声をかけた。
 勝手に行動すると死人が増えるだけなので、先に他の兵に行動を控えるようにしてもらう。
 そうするには八坂に頼むのが早い。
 策があるようなケイの口ぶりに、八坂は喜色を浮かべた。

「えぇ……。ですので、誰も動かないように伝えてもらえますか?」

「了解した!!」

 はっきり言って、マノマンバ相手に日向の兵は何もできない。
 策があるなら飛びつくしかない。
 八坂もそれが分かっているのか、前の時と同様に隊長らしき者のいる所へと走っていったのだった。

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